第三百二話 マッチョはそれだけでもイケメン要素
自身の信念を見据え、焦燥に焼けそうな心を鎮火する。
焦りが何も生まないのは百も承知している。ここで取り乱そうモノならいよいよ挽回の芽は潰える。追い詰められた時こそ、冷静な立ち回りが求められるのだ。
「わざわざ嫌味を言いに来ただけではないでしょう。そろそろ本題に入ってほしいのですが」
「おっと、これは失礼した。ついつい前口上に熱が入ってしまった」
諸々の感情を改めて大きく飲み干し胸の奥へと沈め込むと、シンザは男たちに鋭い視線に目を向けた。
男はやはり気圧される素振りは微塵もなく、上部だけの礼儀を続ける勿体ぶる。
そして──。
「先ごろに、ようやく貴殿の求める『宝』の場所が判明したよ」
「──ッ」
もしかしたらという予感はあれど、実際に口にされるとシンザも驚きは隠せなかった。
不幸中の幸いとも呼べる朗報には違いないが、シンザは素直に喜べるほど人は良くなかった。
所在不明のままであるよりは遥かにマシだ。ただ世の中には、むしろ手中にある方が厄介という札もある。シンザが探させていたものもその部類である。
「……正直な話、もっと時間が掛かると思っていましたし、その前提で動いていました」
事はサンモトにおける最大の禁忌であり、その存在を知るものは将軍家とその直参を含めても数えるほどしかいない。故に、手掛かりについてもほとんどないに等しい。それを果たしてどうやって。
「どれだけ厳重に秘めたところで、それは地を歩く者の目から隠すためであるのがほとんど。そして我らには『空』から探る術があった。ただ、それだけのことです」
「俺の相方が現地に赴いて様子を探ってる。ほとんど間違いねぇだろうけど、念の為な」
なるほど、とシンザは一応の納得を示す。
全てではないにしろ、彼らの力についてはある程度は把握している。が、その使い道にまで知恵が及ばなかったのは己の未熟だ。将軍家三兄弟きっての策謀家と呼ばれはするが、やはり父親にはまだ及ぶまい。あの方であれば、即座に考えが至っていだろう。
「躊躇が過ぎれば時期を逸しますか。ロウザめ……本当に厄介な奴らを味方にしたものです」
時間もさほど残されていない。
目的は違えど、ロウザの元に集っている者たちも『宝』を狙っている。情報の上ではこちらがまだ一歩か二歩ほど前を進んでいるが、猶予を与えては先を越されることも十分以上に考えられる。
理想で言えば、城内での勢力図を盤石にし、考古の憂いを立ってから手中に収めるべきであった。
けれども、ロウザ優勢となった今からではそれは難しい。ここから挽回を目指すのであれば、危険を負った一手を指す必要がある。
シンザの中で揺れ動く天秤が、遂に傾いた。
「──これより、私も本腰を入れて動きます。そのつもりでお願いします」
腹を括ったシンザの言葉を受けて、男たちはそれぞれが笑みを浮かべた。
サンモトでの予定外な傭兵家業を無事に終えた俺たち。
その数日後──なぜか俺は、コウゴ城の中庭でランガと相対していた。
別に切った張ったの物騒な様相ではない。
というか今の俺は槍どころかいつもの鎧すら纏っていない。
上半身は完全に裸であり、下半身には腰に『廻シ』と呼ばれる長い帯状の布を巻いただけである。ついでにそれは俺の正面に立つランガも同じである。
「ふむ……予想通りではあるが、極限まで無駄を削ぎ落とした見事な体躯だ。やはり、市井に流しておくには惜しいな」
「お褒めに預かり光栄だ……おたくもまぁ凄いけど」
重量増加で普段から重たい黒槍を背負ってるし振るってるおかげで、故郷の村を出た頃からは考えられないくらいに俺の体は筋肉質になっているし、自覚も十分にあった。
だが賞賛を述べるランガも相当なもんだ。身長は俺よりも確かに大きいのだが、『厚み』という点で言うと倍近くはあるのではないか。腕など丸太もかくやと言わんばかりで、ウチの女性陣の胴回りほどもありそうだ。
俺とランガの格好は、サンモトに古くから伝わる『相撲』と呼ばれる格闘技の様相だ。裸一貫でぶつかり合い、相手の足裏以外を地につけた時点で勝敗がつくと言う非常にシンプルなもの。なんでも神様の御前に捧げる『国技』としての意味合いもあるらしい。
「忙しいのは百も承知だが、その上で俺の誘いに乗ってくれたのは感謝する」
「ウチの親分が『是非にも』と頼まれちゃぁ、従うほかねぇだろ。そこそこ時間も空いてたしな」
本来であれば、ランガがロウザの下についた時点で、将軍様にお目通を願うところ。が、どうやら近頃の将軍様はかなりの多忙らしく、すぐには会えなかった。そもそも先日の会合もかなり無理して予定をやりくりしていたらしい。
そんな折にランガから申し出があったのだ。
俺と一度、手合わせをしたいと。
もちろん、刃傷沙汰はよろしくと言うことで、コウゴ城の庭先に男二人裸で向き合っている次第である。
ちなみに、彼女たちは縁側に揃って陣取っているわけなのだが。
「ウチのユキナくんがちょっとエッチすぎる」
キュネイが妙に興奮気味で目を爛々と輝かせていた。
「下手な下着姿よりもエッチすぎる。あれはおいそれと他人様には見せられないわね。下手したら捕まっちゃう」
「キュネイちゃん。涎、ヨダレ出てるから。あと、色気も凄い事になってるって。もうちょいと抑えてくれ」
ジュルリと、口端から溢れ出る唾液を拭いムンムンと色気を撒き散らしてるキュネイに、珍しくリードが真っ当なツッコミを入れる。
「リードくん、あの肉体美を見てムラッとこないの!?」
「あ、いや……確かに凄いよ? あんな細マッチョに抱きしめられたら、どんな女でもコロっていっちゃいそうなのは分かるけども」
鼻息荒めなキュネイに詰め寄られてリードもたじたじになっている。気圧された拍子に色々と口走っているのを当人は気がついているのだろうか。
「……どうしたんですかミカゲさん。そんなもじもじしちゃって」
「そう言うアイナ様も、頬が赤くなっていますよ」
最初は何気なく眺めていたミカゲとアイナも、キュネイの『熱』に当てられたせいで意識をし始めてしまったのか、俺をチラチラと眺めては恥ずかしげに顔を背けていた。




