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六つ.美紀、憂鬱

予定よりも早い更新です。


長くなるかと思ってましたが、意外と早く区切りが付いたので、先に更新します。

「三年生のふろあなんて初めてなのですですよぉ」

 緊張した面持ちでゆみちゃんが少しぎこちない足取りで隣を歩く。

「私も。男子寮なら何度かあるけど、女子寮は知り合いが居ないもんね」

 四、五階が先輩方の寮室。男子寮なら兄さんや大樹さんの所へ何度か言ったことがあるから少しは慣れているとはいえ、女子寮は少し緊張する。私一人なら間違いなく行けないし、行くこともしない。はっきり言います。行きたくありません。自分から行動しなくてはならないことは苦手なので。

「どきどきなのなのです」

 寮監の大和さんに言われたからとは言え、正直私は気が進まない。ただ、食堂に大樹さんたち男の人だけに残るように言われたような気がして、きっと私とゆみちゃんに聞かせたくない話でもあるのでは? と思うと仕方がなかった。

「美紀、どうかしたですですか?」

「え? ううん。どうして?」

 階段を上がると見知らぬ先輩とすれ違う。学園であるならば特に緊張はしないのだけれど、女性しか居ないとなるとどうも私は不慣れなのかもしれない。入浴もなるべく人の少ない時間を選ぶし、食事も兄さんたちとじゃないと落ち着いて摂れない。

「少し顔が恐いですですよ。すまいりーすまいりーですですっ」

 ゆみちゃんが私の頬をぷにぷにと突いてくる。この子は本当に可愛いと同性ながら思う。自分の事も他人のことにも一生懸命。兄さんの言い出した下らない同好会のことにも一生懸命に今頑張ってる。羨ましいと思うことも多い。お友達になれて良かったとつくづく思う。

「はいっ。みきは笑うと可愛いです」

「ゆみちゃんの方が可愛いよ」

「はうぅ、照れてしまいますですです」

 私もきっと顔は赤くなったはず。ゆみちゃんと一緒に笑うのは嫌いじゃない。

「やっぱり私たちのフロアと少し違うね」

「なのですぅ。湊川さんのお部屋はどこでしょう?」

 部屋番号を確認する。

「……五〇七は、ここでした」

「え?」

「ふぇ?」

 背後から聞こえた囁くような声にゆみちゃんと振り返る。見知らぬ先輩が居た。

「……大丈夫です。あなたは、負けません」

 不意にその先輩が私に向かってそう言った。

「あの……」

 確かに、目の前の先輩の言われた通り、大和さんに言われた、湊川先輩の部屋番号があった。でも私は混乱と言うよりも戸惑いに言葉が出なかった。

「……神様は仰られます。幼稚体型、望みはないわけではない、かもしれない。だそうです」

 今度はゆみちゃんにそう言った。

「ふぇぇっ!? 幼稚ですですかっ!?」

 ゆみちゃんがショックを受けたように後ずさる。この人は一体何なのでしょうか?

「……心配には、及びません」

 先輩がゆみちゃんの肩に手を置いて、小さく笑みを浮かべた。不思議な人、というよりも既視感に近いものを感じてしまう。

「ふぇ……?」

 真面目なゆみちゃんにいきなりなんて不躾なことを言う人だろうと言うのが、私に浮かぶ印象の先輩。つい警戒してしまう。

「……小さいことは、良いことだと、仰ります」

「神様がですですでしょうか?」

 ゆみちゃんもこんな下らない話に真剣にならなくても良いのに、瞳を潤わせて聞く。

「……特変な趣味を持つ、気持ち悪い病気の人だけです」

「ふぇぇぇ〜。やっぱり私はダメダメなのですですぅ」

 みきぃ、とゆみちゃんが私に抱きついてくる。つい私は先輩であるにも関わらず、ゆみちゃんにひどいことを言った先輩を睨んでしまった。

「……私の言葉では、ないですね?」

「知りません。いきなり何なのでしょうか?」

 何なのだろう、この人は。いきなり声をかけてきたかと思えば、悪びれる様子も謝罪もない。

「……申し訳ありません。お気に障りました」

 少しだけ、プチっと私の中で何かが切れたような気がした。謝罪をしてきたかと思えば、続く一言の言い方が謝罪の意ではなく、意見の押し付けのようだったから。

「先輩に対してお言葉になりますが、急に何なのでしょうか? ひどいことを仰っているという自覚はおありですか?」

 私の大事な人にひどいことを言う人は嫌い。為に成るならまだしも、そうでないのは明らかな誹謗中傷にしかならない。

「……気にしないで下さい。こういう性格ですので」

「はい?」

 その言葉は私たちが知り合いの上で、第三者に対して掛ける言葉であると認識する。それを何故この先輩は自分自身で言うのか理解出来ない。

「誰かいるわけ? 人の部屋の前では静かにするもの……あら?」

「あっ、湊川先輩」

 私の胸でしくしくと泣いているゆみちゃんの後ろのドアが開いて、湊川先輩が出てきた。思わず助かったと、ひどいことを言う先輩とは言え、知らない人と会話を交わすのは、私自身も嫌で、誰か知り合いがいれば、と上条先輩のことも考えていた。

「……お知り合いです」

「神路祇さん、そこは普通は聞くものよ」

 湊川先輩がそう言う。もしかしてこの方が湊川先輩と同室の神路祇先輩?

「……そうでしたか。お知り合いですか?」

「ええ。発足前の同好会の子たちよ」

 湊川先輩は難なく言葉を交わしている。私には全く理解できず、怒りすら覚えたと言うのに。

「あなたたちどうしたのよ? って有美香? 何で泣いてるの? どうかしたの?」

 少し、胸の辺りが冷たい。有美ちゃんの涙? ブラまで染み込んでる? 

「あ、いえ。その……」

「……お気に障ったようです」

 その物言いがですが、と言いたい衝動を抑えた。先輩に対して言える口がない。

「ああ、そう言うことね。だから言ったでしょ、神路祇さん。初見の人にはそう言うことは言わない方が良いって」

「……そうですか?」

 どうして私を見るんですか、この人は。私に同意を求められても困るだけなんですが。

「それよ。それを止めなさいって言ってるの。あなたたち、誤解とまではいかないけど、神路祇さんのことは気にしない方が良いわよ。こういう人だから」

「それはどういう……」

「まぁその辺の話は中でしましょうか? ここだと人目を引いて、美紀、あなたも嫌でしょう?」

 私のことを見透かす、いえ、きっとこれまでの私を見て湊川先輩は私という人間を解釈したと言うほうが正しいのかもしれない。嫌いではないけれど、湊川先輩は兄さんたちとは違う感性を持っている。だから少し苦手と言う意識が私の中にある。

「お邪魔でなければ」

「良いわよ。ね? 神路祇さん」

「……神は、拒むべからずと仰るものだと思ってました」

 神路祇先輩は、また私たちとは違う感性の持ち主のよう。

「その言い方は、神は拒んだと思われるわよ」

 苦笑する湊川先輩に誘われて、私はゆみちゃんとゆっくりと室内に通された。

「ごめんなさいね。まだ荷解きが途中で散らかってるけど」

「……気にします」

 空気が凍りついた。

「あの、今のはもしかして、気にしてないですと言いたいのでしょうか?」

 居心地の悪い空気に、思わず口が動いた。

「……そうですか?」

 神路祇先輩が言葉は尋ねているのに、首は肯定に動いていた。

「みたいね。私もまだ昨日会ったばかりで完全に理解したわけじゃないのよ」

 神路祇先輩が肯かれたから、きっと間違いじゃないと思うけれど、その言動には冷や冷やする。

「……とりあえず、どうぞ」

 わたしとゆみちゃんを、神路祇先輩がご自身のベッドに案内してくる。初めて普通に接してもらえたような気がする。

「で、有美香、あなたはどうしたのよ?」

「……私の、失言ですね」

 と思ったのも束の間。舌の根も乾かぬうちに神路祇先輩は反省の色の感じられない言葉を発した。

「……有美香。何言われたか知らないけど、神路祇さんの言うことは大抵反対の意味なのよ」

 湊川先輩がはっきりとため息を吐いて、ゆみちゃんに苦笑した。その表情は恐らく事の次第を把握しているように私には見えた。

「……ふぇ? 反対、ですかぁ?」

「そうよ。あなたは可愛い。誰にでも好かれるくらいに愛らしいわ。失敗する姿も悩む姿も」

「はぅぅ、私は何をするのもどんどんどん臭いのですですぅ……」

「……泣き上戸、ですか?」

 神路祇さんが小首を傾げながらゆみちゃんを見る。この人はやっぱり変。私の中の長年に渡って培われた、養われなければ良かったと後悔する勘が訴える。

「どう見ればそう見えるのよ。って有美香、そうじゃないのよ。あなたは知ってるでしょ? 私の悪い癖。そう言う意味じゃなくて、結果が伴わない……じゃなくて、その、そうっ、一生懸命な姿に皆があなたのことを認めているのよ」

 その瞬間、私は一人取り残されたような疎外感を覚えた。この人は苦手。その認識が強くなった。私でさえ一年を掛けて今の間柄になり、近づいた距離を、湊川先輩はゆみちゃんの姿をこの数日で見抜いた。元々人付き合いが苦手な私だから、他の方を比べるのは無理な話ということは理解している。だからこそ、孤独を感じてしまう。

「……大丈夫です」

「え?」

「……人は思い込みで人を殺せる。神は仰りたがっています」

 時が止まる。空気が凍る。この人は一体私に何を言おうと言うのか、言ったのか、理解出来ないです。そんな恐ろしいことを平然と言う同性に、正直怖気をかすかに覚えます。

「そうですですでしょうか?」

「そうよ。ね、美紀。あなたもそう思うわよね?」

「え? あ、はい」

 とっさに答える。

「ほらね? あなたのことを一番知っている彼女でさえそう思っているのよ。自分の事にもう少し自信を持ちなさい。ねっ?」

「美紀……はいなのですですよっ! 私は私なのですっ! 私が私らしくあれば良いのですっ」

「そうね。それでこそ貴女よ」

湊川先輩は私の言葉に、有美ちゃんに笑顔を見せる。私にはとっさのことで、何を聞かれたのか分らなかったけれど、話の流れを遮ることはしなかったよう。

「……心配は、不要です」

 そして神路祇先輩はまた唐突に私の耳元に囁きかける。ドキッとして少し鳥肌になる。

「……あなたも、自身に自信を持ってください……ふっ」

「え?」

 笑った。神路祇先輩が鼻で笑った。おかしいことがあったとは思えないのですが。

「……おかしくありません。神も大爆笑をしようとしていました」

「はい?」

 私にはさっぱり何が何なのか分らない。この人のペースは兄さんよりも読むことが出来ない。ご自身で笑ったことなのに、それを自らが否定する。兄さんのように人柄が知れていて、なおかつ私が見知る人であるならば、もう少し話に入ることも出来るのに、神路祇先輩とはそう言うものではない上に、そもそも湊川先輩ともそれほど親しいわけではないのだから、私はどうするべきなのか、考えることも出来なかった。

「はいはい。神路祇さんもくだらない駄洒落とかいらないわよ。そもそも、何しに来たのかを先に説明してもらえるかしら?」

「……面白いですよね?」

 湊川先輩の救いの一言に、ほっとした途端に神路祇先輩が私に同意を求めるように聞いてくる。どうすることがこの場において最も自然であり、私が先輩方との関係性を犯すことなく、この距離を保つことが出来るのか。考えるにも前例のない人柄の方との接触は、私には練ることが出来ない。

「そう言う言い方を改めなさいって言っているのよ。後輩虐めに見えるわよ。それで美紀、一体二人してどうしたのよ?」

 湊川さんの一言が会話の流れを生み出す。神路祇先輩は嫌悪というよりも、私が理解できなかったように不思議そうにこちらを見る。

「……では、これを返却へ、行きましょう」

「はい?」

「ほぇ?」

 再びの唐突な物言い。私とゆみちゃんは何故? と疑問符が浮かぶ。

「はい、いってらっしゃい。ちょっと荷物置かせてもらっても良いかしら?」

 それなのに、湊川先輩は慣れたように受け流しつつ、自身の用件を問う。

「……ご随意に、と神は貴女の意見を受け入れます」

「そう。ありがと」

「……では、お邪魔したようです」

 神路祇先輩が、数冊の本を胸に抱いて、部屋を後にした。残された私には言葉が浮かばない。ゆみちゃんも不思議そうに見送り、室内には沈黙が。

「変わった子でしょ? でも気にしないで」

「不思議な先輩さんなのですですでした」

 ほぇ〜、と兄さんたちに大しても平気そうだったゆみちゃんでさえ、呆気に取られている。私でさえそうなのだから。

「はい。一体どういう方なのでしょうか?」

「見たまんまだと思うわよ。言葉遣いに関しては私も未だにおかしいと思うけど、本人は至って普通なのよ」

「普通、ですですか」

 あれがあの方にとっての普通。私には理解出来ない。

「あの子って、神様の言葉が聞こえるらしいのよね」

「え?」

 思わず口から出た言葉。兄さんたちも随分と変、と言うか普通の方とは違う感性を持っていることには、私自身も納得している。だから兄さんたちのことは受け入れているし、長い時間を共有した影響で、多少の耐性はあると思う。しかし、神様の言葉を理解する人がいると言うことには甚だ理解出来ない。

「私だって信じてるわけじゃないわよ。でもたまに話したこともないのに確信を突いてきたりするのよ。まぁ神様の言葉と言うよりもあの子の毒舌の方がしっくりくるのよね」

 湊川先輩が小さく息を吐く。私も今は同調した気分を感じる。

「まぁ、あの子の言うことは大抵逆のことを言うから、厳しい言葉も逆に考えればいいのよ」

 それはつまり、先ほどのことは、私たちに本を返却に誘うのではなく、神路祇先輩ご自身の意見を私たちに伝えたということで、湊川先輩はそれを理解していたから先ほどのように受け流した。そういうことになるようなら、少しは理解できた。

にしてもどうしてあたしの周りって、ああいうのばかりなのかしら……」

 今度ははっきりと分かるため息に、罪悪感が沸く。

「申し訳ありません。兄さんたちは大和さんに絞られていると思うので」

「首根っこ掴れてましたですですよ」

「また何か仕出かしたの? 仕方のない連中よね。……あっ、別に人として悪いって訳じゃないのよ?」

「はい、理解しています。私はもう半ば諦めているので」

 湊川先輩の言う、悪い癖が出たけれど、兄さんたちに思うことに関しては明白な事実であり、妹の私にはそのフォローは不要と言う認識しかない。

「苦労してるのね。それで、どうしたのよ? 私、片桐君に先に帰るって伝えたと思うんだけど」

「はい。それで大和さんに荷解きを手伝うように言われまして」

「それで、あのですですね、お勉強も教えて頂けたら明日が強くなれるのですです」

 私とゆみちゃんの話に、湊川先輩は悪戯のバレた普通の子供のような反応を見せる。その反応は私たちの中には長らくない反応で、先輩であるにもかかわらず、少々新鮮に感じた。

「あの人は口が軽いのね……」

 私たちがここを訪れて時間が経つ今に、湊川先輩は寮へ入寮したことを思い出されたよう。

「あの、聞いても良いですか?」

「なぁに?」

 神路祇先輩のベッドに腰を下ろしたままの私たちを他所に、湊川先輩は部屋の片方の空間に積み上げられたダンボールを開封していく。

「どうして寮へ来られたのですか?」

「美紀、それはゆーすうぉーかーずに入ったからなのですですよっ」

 私の問いかけはゆみちゃんに答えられる。でも私は納得しない。その答えはあくまで其の内でしかないから。

「その言い方は、私が来ることを望んでなかったみたいな言い方ね?」

 私とは明らかに違う。私には湊川先輩の考えていることが読み取れない。何故この直なのか、何故こうも早い行動なのか。

「そう聞こえたのでしたら申し訳ありません」

「良いのよ別に。ただ、引き入れられた以上は、一緒に居られる時間が私も欲しい、じゃダメかしら?」

 笑みを浮かべる湊川先輩は、心からそう言う気持ちがあるのだと分ってしまうほどに、澄んでいた。不躾な質問を投げかける私が愚かだと自覚してしまうほどに。

「いえ、構わないと思います。失礼なことをお聞きしてしまい、申し訳ありませんでした」

 この人はきっと、私が思う以上に人の心を解する力を持っている。きっと私がどんな失礼なことを聞いても、私が愚かだと思わずにはいられない答えを見事に返してくる。私の考えは見透かされている。けれど先輩の考えは見せない。先輩として尊敬に値する方だと直感が訴えてくる。

「そう謝らないで。あなたたちは後輩なんだから遠慮しなくて良いわよ。それに私の方が同好会に関しては素人だし、ここまで本音を言えるなんて、感謝してるわ」

 想像も出来ない日常からの解放。私の主観でしかないけれど、最近の湊川さんには刺々しさを感じない。この前までは兄さんたちにはともかく、大樹さんにすら嫌悪を抱いていたのに、今私の前で微笑む先輩が同一人物には思えなかった。

「えへへっ、美紀美紀、感謝されてしまいましたですですよ。照れるですですよぉ」

「うん。良かったね」

「はいなのですっ!」

 ゆみちゃんの笑顔は凪をもたらしてくれる温かさと優しさがある。

「少しは、私のことも信じてくれるかしら?」

「え?」

 それでも、その言葉にその凪が凍りつくように払拭される。

「もちろんなのですですよっ! 乙女の心は本音が後、なのです」

「有美香、前から思っていたんだけど、どこでそんな言葉覚えるのよ?」

「ぐらんまに教えてもらいましたですです」

「お婆さん? 有美香のおばあさんは変わってるのね」

「はい、変わってましたですですが、私は大好きなのです。尊敬するぐらんまです」

「そう……。有美香に思われてお婆様も幸せだったと思うわよ」

「はいっ!」

 そんな私を残して、ゆみちゃんと湊川先輩は楽しそうな会話で笑いあう。それでも私は再び湊川先輩の貫禄を見せつけられた気がした。ゆみちゃんのおばあさんはすでに他界されている。私は去年それを知っていた。だから私はグランマと出てきたことで、また湊川先輩に疑いを抱いてしまった。けれど、湊川先輩はゆみちゃんの言葉を聞き逃すことをせず、さらに場の空気を汚さないようにゆみちゃんに合わせた。全ての不審が、不信を否定する要素がないと痛感させられてしまった。

「湊川先輩」

「ん? どうかした?」

「皆さんが食堂で待っていますから、片づけを急ぎましょう。私たちのことをこき使ってくださって構わないので」

 なら、私に出来ることはない。この人は誰よりも虐げられることが似合わない。誰よりも心を読み、澄んだ瞳で相手を理解する能力に長けた方。認めないわけにはいかない。それなら私は後輩として、一人の女として、手本とすべき要素を吸収させていただくことが、出来ること。

「そうなのですですっ! その為にやってきたのですですよ」

「……だったら、遠慮なくこき使わせてもらおうかしら?」

 やっぱり。今の私には敵わない。兄さんがあれほど単純な理由で湊川先輩を引き込んだ理由が、大樹さんがあれほどまでに必死になっていた理由を、私は受け止めよう。

「はい、お任せ下さい。麗香さん」

「後輩は先輩にこき使われるのが、日本の常識なのですですっ!

「……ありがとう、二人とも。でも有美香、それは違うと思うから使いどころは気をつけるのよ」

「ふぁっ!? 違うのですですかっ?」

「少なくともそんなことをするような真似はしないわよ、私は」

 愉快な笑い声が重なる中のその笑顔に、私は初めて笑えたと思う。







〜ユースウォーカーズの、ユースウォーカーズによる、ユースウォーカーズのための予告〜



「……何見てんだよ。こっち見んじゃねぇよ」

「は? んだよ、いきなり? つーかてめぇ、誰だっつーの」

「……と、神は私を見てますか?」

「いや、僕に聞かないでよ……」

「ああ、見てるぞ」

「兄さん、適当なことを言わないで下さい」

「……そうですか。照れてしまいますもんね」

「神路祇さん、それ、照れてるの? こっちに意見求めてるわけ?」

「前回もそうだけど、変な人がここにはよく集うね?」

「自分だって変だよ? って、あたしも変っかぁっ! って何言わせるんじゃ、ゆみっちっ!」

「痛いのですですよぉ〜。なぜなぜ私を叩くですですかぁ〜、あぅあぅあぅ〜」

「えっと、みんなちょっと聞いて。ねぇってばっ!」

「どうかしましたか、大樹さん?」

「おう、何だよ? さっさと言えよ」

「そう大声を出さなくても聞こえてるわよ」

「大樹の声ならどこにいても私には聞こえるわってか?」

「なっ!? ち、違うわよっ! そんなわけないでしょっ!」

「兄さん、大樹さんの話を折らないで下さい」

「妹よ、恋とは戦いだ。先手必勝という言葉は、好きな男と先にやっちま……っ」

「……死にたいですか、兄さん」

「うわぉ、みきみき、目が凍ってるよ? まだ春だよ? 桜だよ? 雪は早くないかなぁ?」

「氷柱のように射抜いてるけどね」

「ふぁぁっ! 美紀、落ち着くですですっ」

「……情け無用にやっちまえ」

「うおっ! またいきなり出てくんなよ」

「……と、神は初めに全てをお許しになります」

「君は、本当に神社の娘なのかい?」

「……あぁ、どんどん時間がなくなっていく……」

「ありゃ? 大樹君がどんどん暗くなってるぞ? た〜いっき君っ!」

「うわぁっ!? なっ、何? ちょっ、上条さん、いきなり抱きつかないでっ」

「っ!?」

「ちょっ、何してるのよっ」

「先手は必勝だぞ? 良いのか、二人とも?」

「あ、あの、あのあののののっ、美紀、湊川しゃんっ、とってもお顔がこわこわなのなのですですよ」

「あ〜ぁ、今回も予告にならないみたいだね?」

「しゃーねぇな。ここは俺の筋肉を特別に披露……」

「するな、気持ち悪いもん見せると客が減る」

「遠慮してくれるかい。君の暑苦しさで喜ぶ人はいないよ」

「……死ねば、良いのに。と、神が仰りました」

「初めて神の言葉が出てきたわね……」

「それよりも上条先輩。いつまでそうしてるおつもりですか?」

「ん〜、大樹君ってあったかいねぇ。すりすりしたくなっちゃったぁ」

「ちょっ、や、止めてっ! く、くすぐったいよっ! あはっ、あははっ!」

「うおぉぉっ! 俺にももっと出番をくれぇぇっ!」

「さて、大樹の代わりに予告は僕が代行しようかな。次回のユースウォーカーズは、試験がいよいよ終わり、結果が突きつけられるかもしれないね」

「予告で、かも、はないんじゃないの?」

「ですですですよぉ。試験はまだおわっ……はうわっ! 明日の試験勉強、まだしてないのですですよっ!」

「んなもん忘れた頃にここに来てみりゃ終わってんだぜ、ゆみ公」

「そうだ。そして俺たちは青春を謳歌する」

「それは読者の方だけであって、私たちは明日も試験ですよ。今日も大和さんに監督をお願いしましたので、兄さんと武士さんは逃げないでくださいね」

「マジかよっ!?」

「試験があるのかっ!?」

「僕らは当事者だからね。さて、上条さん、そろそろ僕ら勉強に戻るけど一緒に来るかい?」

「ん〜ん。ざぁんねぇん。気持ちはいっぱいあるんだけどねぇ。でも用事があるの。ってことであたしはおっさきぃ〜っ!」

「……以上、予告でした。と神は仰るおつもりです」

「……ははっ……はぁはぁ……ふぅ、ははっ……はぁ……。あ、あれ? 予告は?」

「終わりましたですですよ」

「すみません。大樹さんが楽しそうでしたので、お邪魔できませんでした」

「片桐君。貴女も高校生なんだから、不用意な異性との接触は気をつけるべきよ?」

「くっそぉ。誰か俺と変わってくれる奴はいねぇのかよっ! 誰か俺の変わりに試験受けてくれよっ! プロテインとダンベルやるからよっ」

「なら俺は金を出してやる。幾らだ? いくら出せばお前は俺の代わりをする?」

「……誰に言ってんだ、貧乏が。と神があざ笑いあがってます」

「……結局、こうなるんだよね、僕らって……」

次回更新は、まだ書いてない上に他作品もあるので、7月1日以降10日以内ということにしておきます。


次からは内容もハチャメチャになるかなぁとネタ集めから始めます!

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