五つ.新寮生って……
ちょっと早いですが、更新です。もう少し書いてましたが、ちょっとハンパだったんで、切りの良い所まで書いてから更新したいと思うので、予定18日くらいに残りを更新します。
残った僕と琢磨、美紀、有美香の四人は閑静になった食堂で黙々と勉強道具と向き合っていた。静かな時間だった。時々頭を抱えて遠慮深そうに有美香が僕らに質問をしては、手が空いている人が教える。その繰り返しだった。譲治も武士も湊川さんも戻ってこない。
「何か、静かだよね」
「うるさい二人は逃げたままだし、湊川さんに至っては所在不明だからね」
静かだった。試験中の緊張感のある静けさじゃなくて、落ち着いていて穏やかな時間なんだけど……。
「少し、静か過ぎて物足りなさがありますよね」
「ちょっと寂しいのですですよ」
うん、僕もそう思ってた。
「真面目一枚岩って訳にはいかないのが居る以上、本来なら今のうちなんだろうけど、垢抜けた感があるかな」
琢磨でさえもそう感じてる。譲治が居ない。武士が居ない。湊川さんがいない。不思議と言うよりも何かが切れたような、何かが足りないという思いだけが今、この場に少し漂ってる。
「でも、同好会が発足できれば、今のことは懐かしくなると思うよ」
確かに、みんなが同じように笑った。僕らがこうして集っているのは、唯一つの目的のためだけ。
「そう考えると、私たちがここまで勉強に取り組まなくても良い気もしますけど」
美紀が冗談交じりに微笑む。心から思っていない言葉に琢磨も肯いた。
「でもでも、ここが踏ん張り時なのなのです」
そう、僕らは最後の一年を無駄にしない為に、何かを残そうと思ったからこそ、譲治の無茶苦茶な一言から今日まで来てるんだ。やるからには失敗は許されない。
「なので、あの、あのあの、ここから教えて欲しいのですです……」
「有美香はもっと頑張らないとね」
僕らは笑った。恥ずかしそうにしながらも楽しそうにエム有美香の為にも、出来る限りのことをしないと。
「随分楽しそうな勉強会みたいだな?」
そして、見計らっていたかのようにその一声に僕らの視線を集める人がいた。
「大和さん……それに、何してるの、二人とも?」
愛loveヤンキーって描かれたTシャツにジーパン姿の大和さん。そのセンスはどうかと疑うのが先なのか、そのTシャツに書かれているヤンキーと言うものは、メジャーリーグの球団名の最後の一文字がないのか、それともそのままの意味なのか、聞くべきなのか突っ込むべきなのか、僕には言葉を発することが出来なかった。
「世界は狭いな、大樹。もう舞い戻ってきちまった……」
大和さんの手には、いい年をした男子が二人、母猫が子猫の首根っこを噛んで運ぶように襟首を掴れてた。
「大和さん、お手数お掛けしました」
愁いを帯びた目をしている譲治。きっとと言うか、案の定逃げようとしたね? 美紀も分かってるみたいに譲治に冷めた視線を送ってる。その目はちょっと恐いよ。
「気にすることはないぞ。たまたま見かけただけだからな」
たまたま二人を見かけただけで連れてくるなんて、すごいと言うか何者だろうって感じがする。
「俺は寮監だからな。ついでにお前らの顧問でもある」
心を読まれたっ? 僕に向かってニッと笑う大和さんに、僕は冷や汗を隠しながら苦笑した。
「くそっ、何で勝てないんだよ……」
勝負でも挑んだのか、武士は首根っこを摘まれたままぼやいてた。
「お前が俺に勝とうだと? まだまだお前は下等だな」
場がさぁーと引いた。大和さん、それ親父ギャグ? 寒いよ、寒すぎる。
「ぷっ……くくっ!」
琢磨……。僕は君を尊敬するかもしれないよ。頭が良いのに、どうしてこうも弱いの?
「さぁて、明日の方が今日よりも大変だろ。俺がしっかり今日は監視してやるから、さっさとお前らも座れ」
そういって大和さんが譲治と武士の首を解放する。
「え? 大和さん、ここにいるんですか?」
「あぁ? 悪ぃか?」
「いえ、居てくれるならこの二人も真面目になると思うので」
琢磨の言葉に鋭眼を向ける大和さん。うん、確かに大和さんがいれば譲治も武士も下手な嘘をついて逃げるようなことは出来ないだろうな。大和さんならどこまでも着いていくだろうし。だから恐いんだけど。
「それじゃあ、揃ったことだし改めて始めようよ」
元からあんまり進んでなかったけどね。
「はい」
美紀は静かに肯きながら有美香を見た。
「なのですですっ」
有美香は美紀を目を合わせて、それに便乗するように誰よりも気合の入った声を上げる。それに自分の集中力が付いてくれば良いけど。
「じゃあ僕は誰の勉強を見ようか?」
琢磨はまだちょっと顔が笑ってる。でもやっぱりこの中では誰よりも余裕がありそうだ。こういうときは本当に勉強が出来る仲間が居るのって心強い。
「ちっ、まだ腹筋したりねぇなぁ」
嘘じゃないんだろうね。額に汗が残ってる。試験期間中って分かってるかな?
「……勉強なんかこの世から消えてしまえ」
譲治だけ何を言ってるんだろう。武士以上にやる気がないのはきっと、面白いことがないからなんだろうけど、仕方がないよ。僕らは学生で、一応勉強は本分なんだし。
「おっ? お前ら。湊川はどうした?」
試験勉強に取り掛かろうとした僕らに大和さんが聞いてくる。
「湊川さんならさっき、用事があるみたいでしたけど」
理由は聞かせてくれなかったけど、何か急いでるみたいだった。まだ僕らとの間に壁があるのかなって思うこともあるけど、踏み込むわけにはいかないかな。
「用事? ……ぁあ。何だまだやってたんだな」
そうかそうか、と大和さんが一人で納得したように腕を組んで肯く。
「大和さん、何か知ってるんですか?」
みんなの勉強に集中使用としていた視線が集まる。譲治は勉強にふてくされてるのか、大和さんを見る目がどうしてか挑発してるように見えた。そんなに機嫌悪くしなくても。
「お前ら、ほんとに麗香を仲間にしたのか?」
でも、大和さんは僕らの視線に怪訝な視線を返してきた。
「あぁ? どーゆ意味だ、こら」
武士が仲間を侮辱されたとでも思ったのか大和さんを睨む。すごいや、武士。大和さんに啖呵を切れるなんて、経験してるのに相変わらず命知らずだよ。
「いや、待てよ? 仲間にしたからこそ、か?」
今度はいきなり大和さんが首を傾げる。みんなも同じように不思議そうに小首を傾げていた。何だかドミノ倒しみたいに僕らの首が曲がるのを見ていると少し面白かった。
「どうしたんですか? 湊川先輩のことを大和さんはご存知なのですか?」
美紀が珍しく口を挟んだ。他人のことなんて僕らのこと以外じゃなかなか深入りしようとしないのに。
「知ってるも何も、あいつ、紗枝ちゃんとこの寮生になったわけだしな。俺がチェック入れてねぇわけがないだろう」
「え?」
「はい?」
「ほぇ?」
「ん?」
「あん?」
「……ふん」
あれ? 何で譲治だけ鼻で笑うの? そこ、絶対鼻で笑うところじゃないって。って、そうじゃなくて。
《えぇっ!》
僕らの声が食堂に響いた。まだ残っていた生徒たちの驚きと疑問の眼差しなんか、今の僕らには気づくことなんかなかった。
「ちょっ、ちょっと、大和さん。それ、どういうことですかっ!?」
湊川さんが寮生の仲間入りってどういうこと? そんな話、聞いてない。
「あいつも照れてんのか? まぁいい。どうせすぐバレるなら、俺から話してやるか」
やれやれ、と大和さんが息を吐いて武士に手のひらを見せる。
「あん? んだよ?」
「茶、持って来い」
「あぁっ!? 喧嘩売ってんのか、このやろう?」
大和さんが武士にお茶を要求する。別に本気じゃなくて、この人のお茶目なんだろうけど、相手を間違えてると思う。
「はい、どうぞ」
「お、おお。さんきゅうな美紀ちゃん……」
そんな大和さんと武士を他所に、美紀がそそくさと席を立ってカウンターの所にあるセルフドリンクからお茶を持ってきた。大和さんも美紀の行動にちょっと戸惑っていた。
「それで武蔵さん、続きは?」
琢磨が眼鏡を上げる。ちゃんと説明を求めようと真剣な眼差しだ。ってことは、琢磨も分からないんだ。譲治だけが分かってるのって不思議に思うのと同時に、何だろう? 自分でもよく分からないものを感じる。
「麗香はな、今日から女子寮五階奥から三番目、五○七号室に入室することになった。確か、同室は神路祇七夕奈だったな」
僕らは沈黙した。いや、なんて言うか驚きすぎた?
「? 何だお前ら? 俺を変態を見るような目で見やがって」
「いえ、私はそんなつもりでは……」
美紀が視線を逸らす。ちょっと図星を疲れたみたいに顔が赤くなった。分かりやすいなぁ。それが美紀の素直な所なんだけど。
「いや、変態だろ、てめぇ」
うわぁ、僕らが切り込めない鋭角から武士が突っ込んだ。恐いもの知らずもここ場で来ると、あんまり言いたくないけど、本当に馬鹿だ。
「吾妻、お前は後で裏に来い。筋肉の使い方ってもんを教えてやる」
寮監から総長に目が戻った。
「へっ、何だよ。全然恐くなんかねぇぜ? よぉし、いい、いおっちょやってやるぜ」
声は元気なんだけど、言葉が震えてる。恐いなら言わなければいいのに。
「あの、あのあの、湊川さんは、どうして寮に入ったのでしょうか?」
有美香が少し覚えた眼差しで大和さんに聞いた。
「そりゃ、お前らの仲間に入るためだろ? じゃないならこんなところに来るような人間じゃねぇだろ」
自分の仕事場で生活の場をこんなところ呼ばわりするなんて、とか思う前に意外すぎる事実に驚いた。湊川さん、僕らの為にこの前の譲治の言葉を考えてくれてて、本当にそうすることにしたんだ。意外だけど嬉しかった。
「少し意外です。湊川先輩がこうも早くそうするとは思ってませんでした」
美紀も僕と同じだったみたい。だって、あんなに僕らが何度も何度もぶつかって、やっと仲間になったのに、今度は譲治のたったの一言でそうなるんだもん。
「よしっ、勉強は休憩だっ! お前ら、麗香を迎えに行くぞっ!」
「しゃっ! 行ってやんぜっ!」
譲治が唐突に言う。それに即座に便乗する武士。この二人、本当に勉強したくないんだ。でも、今はダメじゃないかなぁ。今まで休憩してたのに。
「美紀、有美香」
「はい?」
「なんですですか?」
大和さんが美紀と有美香を呼んだ。
「お前らは麗香の荷解きの手伝いをして来い」
その指示に二人が首を傾げる。どうして私たちが? 美紀の目がそう言ってる。
「で、残り二人はこいつらの勉強を見てやれ」
「はぁ、まぁ普通はその人選になるか」
「うん、そうだよね」
琢磨と僕は納得した。
「ちょっと待て。何で美紀とアメリカンだけなんだ。俺たちも行った方が早い」
「そうだぜ。俺の筋肉の活躍時じゃねぇかよ」
でも、譲治と武士は不満げ。気づいてないのかな?
「アホか。変態のレッテルが欲しいなら行っても良いぞ」
女子寮は原則男子禁制。大和さんと女子寮寮監の霧島紗枝さんの二人の管理人質があるのは、男子の見張りも兼ねての女子寮で入り口の傍。僕らが女子寮に行けば、間違いなく女子から非難が浴びせられる。そして大和さんに絞られる。だからほとんどの男子は規則を守ってる。
「男子たるもの変態で何が悪い」
「へっ、馬鹿馬鹿言われ慣れてる俺に、変態なんざ今更だぜ」
「うわぁ、無駄に格好良いねぇ。言ってることはアホでしかないのに」
僕の心は琢磨が代弁してくれた。
「兄さん、みっともない真似はお父さんたちに報告しますよ」
「俺は仲間を迎えに行くだけだ。それの何が悪い」
行く場所が問題だと思うよ。女子寮じゃなければ大丈夫だと思うけど。
「武士さん、男なら好きな女は魅せて待つ、ですです」
わお。有美香って本当に帰国子女なのかな? どこで覚えたんだろ、そんな言葉。
「いや、前に玉砕されてなかったかい、武士?」
「うおぉぉっ! それを言うなあぁっ!」
武士が頭を抱えて一人で悶え始めた。邪魔だなぁ。と言うか、湊川さんに結構嫌煙されてたから、武士のトラウマなんだ。ちょっと可哀想かも。
「まぁ荷物は部屋に運んである。荷解きも七夕奈に手伝ってもらうだけじゃすぐには終わらんだろ。お前らも手伝ってやれ」
「ですが、三年生のフロアですし、何より私たちも明日の試験がありますから……」
「そうなのですです。湊川さんにはお世話になりましたが、私は明日がもっと心配ですですよぉ」
二人とも試験期間中だから、素直に肯かない。それだけじゃないだろうね。美紀も有美香も三年女子フロアに行く機会がないから、あんまり行きたいと思わないだろうし。
「心配すんな。紗枝ちゃんに話はつけてある。勉強も麗香と七夕奈に見てもらうように俺が言っといた。あいつらは頭は良いぞ」
湊川さんが頭が良いのは聞いたけど、同室の神路祇さんって人は僕は知らない。
「そうなの、琢磨?」
こんな時、頼りになりそうな琢磨に聞いてみる。眼鏡を上げて、蛍光灯にレンズが反射した。
「神路祇七夕奈。湊川さんと同じ三年四組。出席番号二十番。僕らが毎年初詣に行く神路祇神社の一人娘で、成績に関しては学年五位以内を常にキープする才女。物静かで大人しいけど、歌が上手いって一部では評判があるみたいだよ。聞いたことがないけどね」
しーん。
あぁ、なんて静かなんだろう。向こうで夕食の支度をしてる学食の調理師さんたちの作業音しか聞こえない。
「あれ? どうかしたのかい?」
「俺にも勝らない情報収集だな……」
大和さんが驚いてる。あの女子寮の入寮生のことならほとんど知ってる大和さんが琢磨に驚いていることに僕は驚いている。
「なぁ戦艦よぉ、俺ぁ女子寮入るだけでこいつより変態になっちまうのか? ……あぐぁっ!」
「誰が戦艦だ、こら。目上に対する物言いってもんを弁えろや、こら」
武士が大和さんにも引けを取らない琢磨に対して、これの方が変態だろ、と余計な一言を入れたせいで首を絞められる。相変わらずなんだから、武士は。
「でもな、妹尾。お前の情報には一つ抜けてんのがあんぞ」
「おぐぉ……」
武士の首を腕で冗談半分に締め上げながら大和さんが僕らを見る。
「七夕奈はな……いや、やっぱ良い。忘れろ」
琢磨と譲治がこけた。美紀と有美香と僕はポカンとした顔のまま。武士は首を絞められてた。
「言わないのかよっ! どんな放置すんだよ」
「武蔵さん、そこは教えてくださいよ」
「んなもん、お前らが七夕奈と仲良くなりゃ早ぇ話だろ。何でもかんでも人に頼るな」
大和さんは武士の首を解放すると、美紀と有美香に早く言うように指示した。
「分かりました。初めからそのつもりだったことには、いささか不満がありますが、大和さんの指示なら従います」
「美紀が行くなら、私も行く行くです」
美紀は不満顔だったけど、勉強の出来る二人と言う点に妥協したみたいに、有美香と一緒に女子寮の方へ歩いていった。
「よし、行ったな」
すると、なぜか大和さんは二人が行ったことを見計らってから、僕らに集まるように手招きした。
「あん? んだよ?」
「いいから寄れ」
そして僕らは意味も分からないまま、食堂内で円陣を組む。
「何だ、これ?」
「さぁ、僕に聞かないでよ」
譲治が聞いてくるけど、僕だって意味が分からない。
「それで、どうしたんですか?」
「ああ、実はな、七夕奈のことだが」
ひどく真剣な眼差しが近くにあって、声が低さを増した。僕らは大和さんの雰囲気にみんなして喉を鳴らせた。きっとすごく大事なことなんだ。湊川さんの同室だって言ってたけど、普通は新学期始まって一月が経とうとするのに入寮出来るだけの部屋が確保出来るかは難しい。二人一部屋が基本なのに、今まで一人だったってことだよね? 普通はそうならないように調整されるはずなのに、それがないってことはやっぱり重要なことなんだ。
「神路祇七夕奈は……」
ごく。武士の喉が大きくなる。
「……ぐがぁぁっ、ぽ」
そして漂うさっきの昼食の臭い。
「くっせっ!」
「吾妻、てめぇゲップすんじゃねぇ!」
「うっ、これはひどい」
「うぅ……」
その瞬間、息を大きく呑んで喉を鳴らした武士が、ゲップをした。円陣が崩れ、武士に向かって僕らは手を仰ぐ。
「いやぁよぉ、んな集中力使うことしてっと、息呑んじまうんだよ。んで、そうしたらゲップが出んのは普通だろ?」
僕らが明らかな嫌悪を見せてるのに、武士は全く気にしない。
「うおっ! くせぇっ。こっちに仰ぐんじゃねぇよ」
そして自分の吐き出した息の臭いが届いて、武士も手を仰ぐ。さながら有毒ガスの発生現場のように、僕らは窓を開け、新鮮な空気を求めた。
「ったく、俺がせっかく溜めた間を台無しにしやがって。後で俺の部屋に来い」
大和さんから武士にお呼びがかかった。この人もこの人で学生みたいだ。
「で、さっき言いかけてたことは何なんだ?」
譲治が話を戻す。今度は大和さんも円陣を組むようには言わない。むしろ、誰よりも僕らに距離を置いてる。まさか僕らも武士みたいなことをすると思われた? しないのに。
「ああ。神路祇七夕奈はな、巫女だ」
ぷ〜ん。
まだちょっと臭いが残ってた。沈黙に漂う武士の胃の中の臭いがなかなか強烈に漂ってる。美紀たちがいなくて良かった。
「それだけか?」
「それだけじゃねぇ」
待っていた言葉のように大和さんはにやりと笑う。
「七夕奈はな、胸がでかい」
ぽーん。
チャイムが鳴った。どうやら試験中も午後の分のチャイムまで鳴るみたい。もしかしたら先生が設定を変えるの忘れただけかもしれないけど。
「そんなことか。生憎、俺はでか乳に興味はない」
譲治が言い切る。失念したみたいにつまらなそうに。
「胸? 胸は脂だろ? んなもんに興味ねぇよ」
武士も言い切る。譲治とは意味合いが全然違うけど。
「そうなんですか。そこまでは注視してなかったなぁ。今度実際に見てみないと」
琢磨は違う。きっと本人の認識としてはあくまで情報収集なんだろうけど、その言い方はどうかと思う。
「えっと……」
僕はなぜか照れた。と言うよりも、そう言う話は恥ずかしくて苦手だ。
「何だ、お前ら。つまらん反応だな? もっとあるだろ? 胸がでかいんだぞ」
大和さんは僕らにもっと話にノッてこいよ、と言うけど、ついていくのは難しい。
「一ノ宮。お前胸が好きだったろ」
「いつか話したみたいに言うな。俺はな、ないチチに萌えるんだ」
譲治が豪語した。僕らは引いた。
「変態だ。変態がここに居るぞ」
「女子ボディビルダーにしか燃えんお前に言われる筋合いはないぞ」
そして僕と琢磨と大和さんはまた引いた。
「良かったよ。二人と相部屋にならなくて」
「僕もだよ」
譲治か武士と同室になってたら、きっと僕は変な影響を受けたかもしれない。
「おめぇらは分かってねぇ。譲治のロリコンは変態だが、俺は正常だ」
「いや、正常じゃねぇぞ、吾妻」
大和さんもフォローしようにも否定することしか出来ないみたい。
「何でだよっ! 肉つきの良い女の何が悪ぃんだよ」
それはきっと肉違いだよね? 一般的な意味と武士の常識には大きな差異があるみたいだ。
「まぁまぁ。人の趣味は千差万別なんだから。それよりもすることがあるだろ?」
かなりずれた所で琢磨が修正に入った。食堂でするような話じゃないしね。熱くなる僕らも僕らなんだろうけど。
「そうだな。続きは俺たちの部屋で語り明かすぞ」
譲治がそそくさと男子寮の方へ背を向ける。
「おう。おめぇらに筋肉の良さを身をもって教えてやるぜ」
譲治に続いて武士も席を立つ。一応本気で女の子の胸について語ろうとしてるんだろうけど、時と場において二人の行動は明白すぎた。
「ああ、良いだろう。とことん話してやる。夕飯までみっちりと勉強した後でな」
両脇を通り過ぎた二人を大和さんが振り返ることなく腕だけを後ろに伸ばして、譲治と武士を床に転げさせた。
「二人とも、ちゃんと勉強しようよ……」
「駄々を捏ねるだけ時間が延びることに気づかないのかい?」
僕と琢磨はさっさと勉強を始めればそんなに遅くならないのに、と譲治と武士に言うけど、二人は舌打ちして大和さん指導、いや、これはなんて言えばいいんだろう。
「おい一ノ宮、そんなとこでつまってんじゃねぇぞ、こら」
大和さんが譲治と武士の間に座ってる。
「吾妻、お前やる気あんのか? あぁ?」
そして二人の勉強を見ながら、顔を寄せてる。
「何だ、この拷問は……」
横をちら見する譲治。
「こっちにゃ教科書はねぇだろ」
そしてばっちりと物凄く近いところに大和さんの顔があって、譲治は視線を落とす。
「ち、近ぇよ……」
同様に武士も隣をちら見する。
「そんなに俺が気になるか?」
なんて言うか、武士も譲治も肩身が狭そう。大和さん、ただ隣で勉強を見るならまだしも、その顔は明らかに……
「啖呵切ってるね、あれ」
「だよね、やっぱり」
譲治と武士が視線を逸らせるだけでも、大和さんは二人に顔を寄せて喧嘩を売るように顔を寄せて睨んでた。恐い。僕らに時々二人が助けを求めるように見てくるけど、無理。出来ないよ、大和さんに逆らうなんて。
「おいこら、手が止まってんぞ」
僕と琢磨は譲治と武士に心の中で合掌した。
〜ユースウォーカーズの、ユースウォーカーズによる、ユースウォーカーズのための予告〜
「お前らに今日は伝えることがある」
「んだよ譲治?」
「俺が猛烈に感動した言葉を教えてやる」
「嫌な予感がします」
「と言うか、下らない事なんだろうね」
「何なんなんでしょう?」
「早く言いなさいよ。私、やることあって忙しいんだから」
「ん? やることって何々? ねぇねぇねぇ麗ぴょん」
「な、なんでもないわよっ!」
「まぁまぁおさえて。それで譲治、話って何?」
「昔の人間は良い言葉を残した。それはな、やるは一時も恥。やらぬは大した恥はない、だ」
「おぉ! すごすぎて何がすげぇのかよく分からねぇぜ」
「そうなのですですっ! 誰の言葉なのですですかぁ?」
「俺」
「昔の人の言葉はどこに言ったんだろうね? いや、譲治には無意味だったかな?」
「兄さんに時間を割いた自分が馬鹿でした」
「そうね。悪いけど私は先に帰らせてもらうわ」
「あ、湊川さん。またね」
「え、ええ。ま、またね、片桐君」
「おやおやおやぁ? 大樹君、顔が赤いぞぉ〜?」
「そっ、そんなことないよ。それよりも、予告はどうしたのさ? これ、明らかに予告じゃないよね?」
「……所詮は無理な話です。馬鹿しかいないのですから」
「え?」
「……と、神は仰ってみようかと思ってますか?」
「えーと……?」
「あん? 誰だおめぇ?」
「見かけない顔だね?」
「どちら様でしょうか?」
「なのなのですですよ」
「はいはいはーい。あたし、あたし知ってるよぉ」
「つーかお前ら……俺の話はもう無視か? ぽっと出の奴に俺はあっさりお流れか?」
「……それではまたねぇ〜、と神は仰るつもりです」
「え? あの、ちょっと? まだ全然予告してないよ? と言うか、君は誰?」
残りを更新しました。
内容の都合上、少し長くなるかもしれないと思ったので、サブタイトルも変更しました。
次回は少し続きがあって、いよいよ本格的にユースウォーカーズの活動始動っ! のつもりです。




