1話
※
「おっはよー! かなっぺ! 今日もダメなの? ダメだったでごさるか?」
ピンポーン! ピンポーン! ピポピポピンポーン!
「突入しまぁす! ゴッゴッゴッゴッ!」
おおー。さおりんがウチの部屋に不法侵入するまで、5,4,3,2,しゅぽ!
しゅぽ? 何の音? しゅぽ! って言ったらLINEだろ!
LINE? ん? ウチにLINE? こんな時間に?
あっ。あぁ! うぁお~~~~!
布団の中でスマホを手繰り寄せると、そこにはLINEで黒澤くんの連絡が着弾していた。
すぐさま起き上がった瞬間――
「おおお~! 起きてるぅ! 今起きたばっかりかい? ピンチだよかなっぺ。8時1分なり」
「だからもう無理だってば!」
それでも運命に贖う加奈子は洗面所に向かって学校の準備を開始した。
黒澤くんごめん! 『おはようございます』の返事を返す時間もない!
「いでぇ! いでぇよ!」
「なんか髪の毛がっ! 絡まってるぅ! 我慢いたせ!」
家を出る頃には8時10分。いや、もう無理だろ!
「走るよ! 本当に遅刻しちゃうでござる!」
「さおりおん! 参るぞ!」
めっちゃ走る走りまくる。もう周囲には同じ高校のヤツもいない。とにかく走りまくって学校の傍までいけば、集団の中に潜り込む感じでセーフ判定になるだろう。
後はもう一心不乱に走るだけだったのだが、ここでなんとさおりんがダウン。
「も~むり。走るの」
「おいぃ~! ここでさおりんだけ遅刻したら、ウチが悪キャラすぎるだろ」
しょうがないので、一回り大きいさおりんをおんぶする。
おかしいだろ。なんでウチの方が明らかに馬力が無いように見えるのに。
【おぉ~早い早いっ! さすがかなっぺで候。体力には定評があるね~】
【さおりんが体力無さすぎなんよ! ちょっとは鍛えろ】
心の中でコミュニケーションを取る二人。楽勝の顔してんのはさおりんだけでウチは必死だった。
いくら何でもおんぶで走るとか、女子高生でも中々できないからさ。
間一髪で校門に滑り込み、教室に入るとウチら以外の生徒は皆座っていた。
「おはよ。沙織。加奈子」
まゆちんが挨拶してくると、「おはよ~ござまーす」と返すさおりんに、ウチは「おうっ!」と、偉そうな返事をするのであった。いつもこんなノリなので許されたし。
「おはよぉしゅ!」
そんな舌足らずな挨拶をしてくるのは白竹ちゃんだ! そこから普通に金髪の染谷(そめや」くんに挨拶され、更には黒澤くんにも挨拶されてしまった。
当然、この御三家には社交辞令用の「おはようございます!」と奇麗すぎる挨拶で対応する三輪さん。その後ろからさおりんも「おはよ~よろよろ」と緩い挨拶を繰り出していた。
さて、黒澤くんなのだが、学校での関係は「昨日会ったばかりの生徒」という立ち位置だ。
今の挨拶も、ごく普通だし、何の違和感もなかったハズ。
だがその裏では……繋がりまくってるわけで。
なんだこれ。凄まじい優越感に顔がニヤけてくる。
実は正統派イケメンである黒澤くんと繋がってて、誰も知らないとか。役得すぎるんだけど。
ウチはスマホを確認して朝に来たLINEの返事を返した。思いっきり寝てて返事が返せなくてごめんなさいと正直に伝えると、音速で返事が返ってきた。
『どうですか? こんな感じでいいですよね?』
と、黒澤くん。
『完璧です! ただ、顔を背けてしまうことがありますけど、気にしないでくださいっす!』
さっきチラっと見たけど、やっぱりダメかもしれない。
まだまだ黒澤くんの顔を見て話すのは時間がかかってしまう気がした。
「あにゅ。三輪しゃん」
背後からの白竹ちゃんの声に振り返ると、
「LINE。するですか? 私もします。なので……」
白竹ちゃんの言いたいことが分かると、
「もちろんっす! よろしくお願いいたします」
早速、白竹さんとLINE友になってしまった。
すると前の席のさおりんも身を乗り出して、
「お~白竹ちゃん! 私もいいですか~? 仲良くして候!」
さおりんも白竹ちゃんとLINEで繋がると、それを見ていたチンパンジーが、
「俺も! 俺もお願いしまっす! このクラスの男子だったら皆知ってるし、知りたいことがあれば……」
ドゴッ!
西部の座ってる椅子を蹴り上げる金髪な染谷くん。
「三輪さん! 今のはアウトですよね?」
そう言って笑顔を見せてくれる染谷くんに親指を立てて「アウトっす」と返した。
染谷くんは白竹ちゃんにLINEの話をしない。それは流石にダメだと思ってるのか、話題に入ってこなかった。友達になろうと昨日の時点で言ったにも関わらず、ここは積極的に動かない。
う~む。中々。礼儀をわきまえてるというか、染谷くんはかなり「聡い」感じがする。
当然、我らが黒澤くんもニコニコしてるだけで、LINEの件には無言だった。
昨日のLINEでは「染谷くんと白竹さんは是非とも仲良くしたい」と言ってたが、このタイミングではLINE友に持っていくのは難しいな。
男子と女子の立場なわけだから、軽々しく発言すれば、相手にも迷惑がかかる可能性があるからだ。それを危惧して染谷くんは言わないのだろう。
まぁもし染谷くんが打って出たら、それに同じように便乗するのもアリだったが……
うむ。ここは『見』ですね。焦らなくてもいいっしょ。
「ありがとぉございます! 三輪しゃん。坂田しゃん。よろしくですっ!」
こんなにすんなりとLINE友になれるのは、同性だから。それだけだよ。
まぁ、白竹ちゃんとは仲良くやりたいんで大歓迎でっす。
※
休憩時間になると、染谷くんと黒澤くんは教室から出ていく。
黒澤くん曰く、この高校生活で一番欲しいのは「友達」ということで、その第一筆頭なのは染谷くんなのだそうだ。
自分と同じように遠くからの転校生。前の席だし、気が合いそうな感じがするという。
それならウチは、さりげなく援護射撃しようとは思ってたが、その必要も無さそうではある。黒澤くんもさ、コミュ力がさおりん並みだと思ってる。
「白竹ちゃんは、どっちがいいのかな?」
まゆちんがこれ見よがしに聞いてるぞ。
「あふ? にゃに? にゃにがいいしゅ?」
「金髪さんな人と、黒髪の正統派イケメンだったらどっちがいいのかな~っと思った次第でございまする」
さおりん? ストレートな質問しすぎだろ。
すると白竹ちゃんは、マジ顔からさらに顔を赤らめてしまう。
「あにゅ、あにゅ……そ、それわちょと、ど、どちらも素敵な、と、とにょがたです!」
またブサイクになってる。顔芸がすごい白竹ちゃんだったが……
ちょっとさ、そのリアクションが余りにも本気すぎるのに違和感を感じる。
「あははっ。どちらも良い殿方だからねっ!」と、さおりん。
「あひ、どちらも良き。です」
何でだろう。さおりんに対しても、本気でビビってる感じがする。
こんなに可愛くて、男からの誘いなんか、引く手あまただろうし、コミュ力がウチ並なのには驚かされる。
とはいえ、このリアクションが嘘だとも思えないんだよなぁ。
その顔じゃ、男に対しても対応が慣れてるんじゃないの?
というごく自然な予想は外れてしまう。
目を見ればある程度は分かる。本当に自分に対して自信がない。そういう目をしている。
だからこそ、不思議と白竹ちゃんには引き寄せられるモノがある。
どこか同じような親近感というか、感情を持っているのでは? そう思ってしまう。
「め、めめ。お目目。お目目の保養……良き。です。福眼……」
ウチは「クっ」とウケてしまう。目の保養とか。ウチが頭の中で言ってるのと同じだからだ。
「ふむ。白竹ちゃん。ウチと同じ意見だね。あの二人は目の保養に良き存在になりそうで」
すると白竹ちゃんの顔がパーっと明るくなるのだった。
そして手を握られてしまった。
「ですですよねっ! あにょ。見るだけ。見るだけで。良き。良き目の保養ですっ!」
【はふっ。三輪さん……三輪さんと仲良くならないと!】
当然聞こえてくる心の声。白竹ちゃんの今の声が聞こえてくると、ウチは心の底から震え上がるような気持ちになった。
この感情は素直に嬉しかった。いや、めちゃくちゃ嬉しかった。
『この時点』では、白竹ちゃんはウチと仲良くしたいと思ってくれている。それがどれだけ嬉しいか、計り知れない。
「あはっ! かなっぺと白竹ちゃんは相性よさそうだぬ」
そういいながらさおりんもウチに抱き着いた。首筋に指が触れている。
【かなっぺ。何か読めそう?】
【うむ。白竹ちゃんはウチらに友好的なのは【真】である】
さおりんと心でコンタクト中に、
【坂田さんとも……】
ギュっと手をつかむ白竹ちゃんは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、真面目な顔になったのを見逃さなかった。
【頑張るんだ。私はこの高校で……絶対変わるんだ】
その白竹ちゃんの感情はあまりにも大きくて、ウチも一瞬真顔になるほどだったが、そこは引きつり笑いで凌いだ。大丈夫。くそデカ感情にウチの心の内までは読めないだろう。
【女の子のお友達。女の子がいい】
なぜ? なんで? 女? お、男じゃないのか?
そんなバカな!
心の中の叫びを……ウチに偽るなんて……
しかもウチの能力を知らない人間が、自分の心の叫びを偽るなんて……
そんなの……絶対に不可能なんだ!
じゃあその気持ちは【真】だというのか? そうとしか考えられない!
ここまでストレートに好意を持たれている。
嬉しく感じないワケがない。この子は絶対に仲良くするべきではあるが……
で、こんな微笑をつい最近見たというか、昨日見たような感じがするんだ。
ああ。そうか。理解した。
楓蓮さんと……どこかしら似ている気がするんだ。




