1話
「ねぇ加奈子。明日の入学式が終わったら会って欲しい人がいるの」
「…………」
「ちょと昔からの知り合いでね。一緒に住もうって話になっちゃってさ、一度顔合わせも兼ねて挨拶しにいくわよ」
「なんだそれ? お、男?」
ウチは怪しさ満点の顔で親指を立てると、オカンは「イエース」とか抜かしやがった。
「マジか」
「マジよ」
「再婚?」
「ちょっと違うかもしれないけど。そんな感じ?」
うそだろ?
もしかしてそんな話をする為に、この天丼ってことか! 久しぶりの贅沢品に「裏がある」とは思ってたが、まさかの再婚話にビックリしていると、
「しかも、その男性には、息子が2人もおりまして……」
なっ……んだと?
「あんたと同じ年の子の男の子と、小学校6年になる可愛い弟ちゃんがいるとしたら?」
高校に上がる前にママが再婚して、その連れ子と一緒に住むことになった件だと?
そんなラノベみたいな話があってもいいのか! いいやあるハズが無いと思ったウチが馬鹿でした。
だがしかし。そこから恋愛に繋がると言うのは考えにくい。
無理。絶対むりだ。あり得ない。
それはあり得ない!
「どう? こんなドラマみたいな展開よくあるよね? 急に同じ年の子と暮らすようになりました~みたいな。図星でしょ?」
天丼をモグモグ食べてしまうと、何も言わずに部屋に帰ろうとする。
「ねぇ加奈子。こっちの家の事情は話してあるから心配しないで」
ウチの足が止まる。
「あ、そう……だから何? 事情を知ってるからって……ウチと仲良くできるとは限らないでしょ?」
「その辺は大丈夫。ちにみに……向こうの親御さんも普通の人とは言いにくい特殊能力も持ってたりするわよ」
オカンの方に振り向くと、
「こころが読めるの?」
「ううん。そーいうのじゃないわね。まぁ似たようなモノだと思うわよ。明日、ご挨拶した時に説明するから、サクっと入学式終わらせてきなさい」
オカンはそう言うと、いつものニコ顔をお見舞いしてくる。
興味なさそうな顔して、かなり期待してしまった。
ウチと同じような……特殊能力?
しかも男? 弟もいる? そこまで聞いて期待するなというのが無理だろと思った。
いやいや、何を期待するの?
オカンの連れ子とヨロシクやってる未来でも想像すんのか?
無理に決まってる。
ウチのどこを見て好きになるのか、その男にぜひ聞いてみたい。
※
次の日。
遠くからウチの玄関をシバキまくる音が聞こえてくる。
「おはよ~! おっはよ~! かなっぺぇ! 参るぞぉ!」
ドタドタドタドタ!
「どやっさ~! かなっぺぇ! おはよ~!」
「やっぱり寝てたねぇ~!」
あ~この子は坂田沙織という、ウチの将来の妻となるべき人物である。
コミュカ抜群、カワイイ、女子からも慕われており、ふくよかなボディも併せ持っており、ウチは彼女に何一つ秀でた部分がない。
さおりん(沙織のことね)はウチの身体を揺り動かす、すると――
【ほーら、朝だぞ。起きろぉ】
その声は、ウチの頭の中にダイレクトに飛んできた。
その声にむくっと起き上がる。
「……何時?」
「7時55分」
「もう無理だろ!」
飛び起きたウチは洗面所に向かうと、歯磨きしてる間に、さおりん(沙織)が、髪の毛を解いてくれる。
「やばいぞ、やばいぞ、ゴッゴッゴッゴッゴッ」
どこかの軍隊みたいに言うのやめて。逆に焦って遅くなるから!
「かなっぺママ。ご飯は用意してなかったね。冷蔵庫を確認! 何もありません! では飯抜きで行きまっしょい!」
家を飛び出すと、走りまくる。高校に向けて走りまくる。
ウチの家から10分くらいな場所にあるのがせめてもの救いだ。
そう言えばさっき、心の中に声が聞こえてくると言う表現をさせて貰ったが、本当の話なのである。
心。つまり頭の中にダイレクトにさおりんの声が聞こえた。というのは……
私には特殊能力がありその一つは、【身体が触れている人間が【今考えていること】が分かる】ということ。
分かるんだよ。手で触れていると、その人の思考を知ることができる。
じゃあさっきの【ほーら、朝だぞ。起きろぉ】って言うのを例にとると、さおりんがそう心の中で訴えてたセリフだ。でもコレはちょっと使い方が違う。
コレは……寝てるウチを起こすように手を掴んで【心を読めるウチを逆手に取って心の中で伝えた】のだ。
つまりさおりんは、ウチの特殊能力を把握しており、自分の心の中で【ほーら、朝だぞ。起きろぉ】と訴えることにより、心が読めるウチに語り掛けた。というわけ。
この特殊能力を知るのはオカンとさおりんだけ。
あとはオカンのオトンのジジイだけしか知らない。トップシークレットなのだ。
あともう一つ特殊能力があるが説明が長くなるので、まずは学校に行かなければ。
※
さおりんと走ること5分くらい。
すると前方に、見慣れたポニーテールを発見した。
「おーいまゆちん!」
振り返ったポニーテールはスラっとしたボディで長身。そして胸もスラっとしており、ウチよりも小さいという、花を持たせてくれるキャラである。
まゆちんとさおりんとウチはみな幼馴染である。
中学校も小学校も幼稚園まで一緒の仲であり、足並みを揃えてこのツマラン人生を謳歌していた。
もちろん異性と付き合った経験もなく、乙女人生を突き進む三人だったが、そろそろ裏切者が出てきそうな雰囲気ではあった。まぁウチは最後まで売れ残り確定してるようなものなので、二人が異性と付き合おうと友情は壊れないぜと高らかに宣言するのであった。
※
高校の入学式。あぁとうとうウチもJKなる存在になってしまったのか。
高校の体育館に集められた新一年生たちがぎっしりと埋まっている。
結構マンモス高校らしく、1年だけで300人くらいいるらしい。
その一角で我らが3人は固まって、校長であろうハゲのおっさんの演説みたいなモノを聞いていた。
当然、何のやる気も出てこない。ハゲ頭のジジイの話なんて右から左へ抜けていく。
「ねぇ。アレ見てよ。右、右だよ」
まゆちんが小声で囁いてくる。
「お~アレか? あの銀髪だろ?」
「そそ、あの銀髪さん。後ろからでもイケメンっぽいのが分かるわよね」
ほっほっほっ。まゆちんもまだ若いのお。イケメンがおったくらいでキャピキャピ騒ぐとか、厨房までにしたほうがいいぞ?
「でも~やっぱり知り合いだらけで候。どこかで見かけた人が殆どだよね?」
さおりんはちょっとウンザリ顔をお見舞いしてくる。
まぁそれはしょうがないだろう。地元の中学の8割くらいこの学校だろ? まゆちんもさおりんも、高校になって新たな男子とのスィートな日々を期待してたようだが早速暗礁に乗り上げていた。
「あれ見て見ろよ。絶対可愛いぜ?」
ウチらの前方に見えるサル。もといチンパンジーの類がキーキーうるさい。
確か同じ中学でもいたチンパンジーだ。
何で人間はチンパンジーが紛れているのに気が付かないのか疑問である。
こいつも同じ高校かよ。うざっ!
確かにめっちゃ目立つ女の子がいる。
ピンクのフワフワロングで絶対可愛いヤツだと思った。
後ろ姿だけでも美人確定だろ。しかも後ろからでも何かスタイルがアンバランスながらオスが好きそうな体つきをしてらっしゃる。こんなん絶対に人生勝ち組やん!
神は不平等だとつくづく思ってしまう。
ああ、ウチもあんな顔に(まだ顔も見てないけど)生まれたかった。
※
まゆちんとさおりんとウチで3人同じクラスとなり、テンションは爆上がりだったのに、教室に入ったら、アイツがいた。
チンパンジーである。何でお前はいつもいつもウチのいく手をさえぎりやがって!
「三輪ぁ~~! またお前かよ!」
手前にいるチンパンジーがウチの名前を口に出してる。それが腹立つ!
「え? みんな一緒なの?」
その後ろにいるメガネがそういうと、
「はっはっは、マジこれ? 3年2組じゃん。坂田や真由子も一緒かよ!」
その後ろにいるソフトなモヒカン野郎が笑い転げていた。
なんだこれは……
まんま中学と一緒なんだけど。
「梶谷もいるの? 信じられないわっ」
「すごいねーほんとに3年2組じゃん」
既に教室は動物園のようになっていた。
「南中の奴らがほぼ占めてるし、これじゃ新しい出会いなんて期待できねぇよ!」
黙れチンパン! お互い様だろ? ああ、高校生活に少なからず希望を抱いていた自分に合掌。そんな夢幻は潰え去った。
「おおっ」
「おい……西部!」
「おっと、マジかよ」
さっき見かけたピンク髪の美少女だ。同じクラスらしい
三馬鹿がびびって見てる先には、それはもう凄く可愛い女の子が教室に入ってきたのだ。
男性が欲しがる要素をこれでもかと言うくらいガン積み過ぎて笑えてくる。
だが、教室に入ってくる様子は、どこからどう見ても怯えまくってて、今にも食べられてしまうといった感じにしか見えない。
教壇の上にあるプリントを見てから、ウチのやや後ろを見てから、こっちに向かってくると、後ろの席に座るのだった。
そのタイミングでチャイムが鳴り、みんな各々の席へと帰っていった。
その中で空気の読めないヤツがいた。チンパンである。
「ねぇねぇ。君! 名前は何て言うの? 俺、西部。西部 浩一っす。これからよろしくね。この辺の奴ら、全部俺の知り合いだからさ、何でも俺に聞い……」
「お前は動物園に帰れ!」
チンパンジーを早速駆除した。
頼むから人間だと思い込んでるのをやめてくれ。
お前がどう足掻こうが、こんな可愛いピンクちゃんが相手してくれると思ってるのか? 冗談は顔だけにしてくれよ。
「お前には無理だって」
梶谷がニヤニヤしながら、ウチの意見に賛同すると、
「西部。やめときなよ。怖がってるじゃん」
さおりんにも叩かれ、
「そうだよ。完全に引いてるし、やめろよもうっ!」
チンパンジーの親友のメガネにも突っ込まれ散々であった。まぁいつものことだけど、西部の災難はそれだけでは終わらなかった。
「そこ、俺の席だと思うんだけど」
西部の後ろには金髪の男が立っていた。
「あ? あぁ。ごめん。なぁ君。ここの席と前の席とかわってくんね?」
しれっと席交換を要請した西部。だが、その金髪さんの顔がみるみると般若のような顔になってしまう。
「あ? なんで前の席と変わらなくちゃいけねぇんだよ。初日から俺に喧嘩売ってんのか? いい根性してんなおいっ!」
チンパンジーには『ケンカ売ったらヤバいヤツ』という危機管理能力が欠如しているらしい。
どう考えても、外見からもヤバイってわかるだろ?
一発触発の場面、梶谷が立ち上がると「あ~~すません。すません! こいつバカなんで!」と割り込んでくる。
いい友達を持ったな西部よ。梶谷にマジで感謝しろよ。
さて、金髪さんの隣には……先ほどのピンクちゃんが座っているわけで。ビビってらっしゃる。まぁピンクちゃんじゃなくてウチだったとしてもあんな顔になってると思う。
そして最後に入ってきたのは……
「あらっ……」
と、さおりんの甘いボイスが聞こえてくる。
おおっ……これは……正統派だ。
中学にはいなかった黒髪の正統派な男の子だ。
彼は金髪さんの後ろに座る。
そんで、ウチの隣はというと……
人間と勘違いしているチンパンジーだった。最悪すぎ。
さて、この数時間後……わかる事なんだが、
このクラスに、オカンの再婚相手の息子がいたなんて、思いもしなかったさ。




