第10話 エルシャとカラクリ人形
「おおい、ちびっこ隊員。お客さん来てるぞー」
副長のジョンソンさんの、のんびりした声に呼ばれました。今日は子供警ら隊員エルシャの出勤日です。
「はぁーい」
ジョンソンさんに釣られて、ついわたしも、のんびり返事をしてしまいました。
詰所の受け付けまで行くと、先日ダグラスお父さんの家に落とし物を持ち込んだ男の子がいました。
あまり印象の良い相手ではありませんが、ピッと敬礼してキリリと挨拶します。
「子供特別警ら隊員、エルシャです。ご用件を伺います!」
「おまえ、なんだよその制服……、長帽子まで……」
“おれの方が……”とか“おれだって……”とか、ぶつぶつ言っています。
ははーん……。どうやらこの男の子、ちびっこ警ら隊への入隊を希望しているみたいです。
「ご用件をどうぞ」
残念ながらわたしの一存では、何も言えません。とりあえず、用件を聞くことにしました。
「また落とし物を拾ったんだ。前と同じ場所で……! 事件の匂いがしないか?」
ニヤリと笑って言いました。手の中には、小さな兵隊さんの人形があります。
『事件の匂いがしないか?』は、子供に人気の冒険推理小説のヒーローの決めゼリフです。
返し言葉は『正義の出番だね!』。ヒーローの助手である男装少女のセリフです。
もちろんしっかり返しましたとも! わたしもその小説は愛読していますから。
ですが、ソレはそれ、コレはこれです。すぐに手続きを開始します。
「落とし物の届け出書類を作りますね」
「ちぇー。ノリが悪いなぁ。で? 書類……? ちびっこ警ら隊員は、そんなのやるのかよ……」
「わたしの担当は、道案内と迷子と落とし物です」
「えーっ……、地味……」
格好よく、犯人を捕まえるとでも思ってたんですかね?
「お名前と、人形を拾った場所を教えて下さい」
「おれの名前はビリー。拾ったのは、四番街の馬車通り。えっと、黄色い風見鶏のあるお屋敷の前だよ」
「馬車通りの名前はわかりますか?」
「うーん、帰ってお父ちゃんに聞いてみればわかるかも……。それより、案内するから一緒に行った方が早いよ」
「わかりました。席を外していいか、隊長に聞いて来ますね」
必ずヘンリーを連れて行くようにとは言われましたが、ダグラスお父さんの許可はすぐにもらえました。
「お待たせしました。行きましょう」
ヘンリーを連れて詰所の前で待っていてくれた、ビリーくんに声をかけます。
「その犬、この間もいたよな。おまえの犬なの? 一緒に行くの?」
「わたしは“おまえ”じゃなくてエルシャです。この子はヘンリー。ヘンリーはわたしの相棒で、警ら犬です」
「でっかいなぁー! それにすごく強そう!」
ビリーくんは、キラキラと目を輝かせています。どうやら、彼の判断基準は“強そう”一択みたいです。
「ヘンリーは強いですよ。馬より大きな熊を追い払ったこともありますし、二階の窓までジャンプしたこともあります」
「すっげぇ! かっけぇなー!」
そうでしょう、そうでしょう! えっへん! ヘンリーの格好良さをわかってくれるなら、ビリーくんは悪い子ではないようです。態度はちょっと失礼ですけどね。
褒められて上機嫌なヘンリーを先頭に、連れ立って四番街へと向かいます。
* * *
王都には、八本の大きな環状道があり、それに交差するように、中心地から十四本の馬車道が走っています。環状道の内側を一番街、二番街と区切り、さらに十四本の馬車道でおおまかな住所とされています。
最近わたしは、ちびっこ警ら隊員として道案内をしながら、自分専用の地図を作っています。
ヘンリーと見つけた抜け道や、特徴のある建物、ピートくんに教えてもらった美味しい屋台など、ずいぶん書き込みが増えて見ているだけで楽しいです。
詰所の隊員から『エルシャの地図貸して』などと言われることもあるんですよ!
その『エルシャの地図』を見ながら歩くわたしに、ビリーくんは、途切れることなく話しかけて来ます。
『あの赤い屋根の家、春に子猫が産まれてさ。全部が黒猫で足だけ靴下履いてるみたいに白いんだ』
『あっちの倉庫は毎年ツバメが巣を作る。今年も、もうすぐ雛が孵るから見に行くといいよ』
『あの郵便ポスト、夜中にお化けが手紙を出しに来るって噂があるんだ。知ってる?』
悔しいくらいに情報通です……! しかも全部が気になります! 『靴下子猫』『ツバメの巣』『お化けポスト』。絵にして全部地図に書き込みます。
「あの空き地……。前は、マーサおばさん家があったんだ……」
ビリーくんはそこで言葉を途切れさせました。黙り込み、立ち止まります。
「それで……?」
わたしが続きを促すと、誤魔化すみたいにへへっと笑い、急に駆け出しました。
「何でもねぇよ! あっちの床屋は……」
気になりましたが、無理に問いただすほど親しくありません。仕方なしに後を追います。
「このへんだよ。あの側溝のところで拾ったんだ」
「教会通りと公園通りのちょうど真ん中ですね。そこから一本入った、脇道……」
ビリーくんの言っていた通り、黄色い風見鶏のあるお屋敷の裏手……高い塀のすぐそば。地図に風見鶏と人形の絵を書き込みます。
「目的、完了ですね。帰りましょうか」
地図を肩掛けカバンにしまって、塀に背を向けた、その時……。
「まって……まって! いかないで!」
低い位置から、幼い女の子の声がしました。
「ねぇ、いかないで。これ、あげるから!」
女の子の声は、塀向こう側から聞こえてきます。小さな手が隙間から、にょっきり出てきました。
その手の中には三つ目のカラクリ人形が握られています。
「あっ、それ……! おまえの仕業か!」
ビリーくんが叫ぶように言うと、小さな手はビクッと震えて人形を落としてしまいました。
「ビリーくん、小さい子にそんな言い方は良くないです。……はい、どうぞ」
人形を拾って小さな手に乗せてやると、女の子はそれを握ったり開いたりしました。
「その人形は、仕掛け時計のカラクリですよね。時間になると演奏するんですか? 素敵ですね」
「つまんないわ! いつも同じだし、だれもみていないのに、ばかみたい! ほしいならあげるわ。あと四つあるの」
「大切な時計でしょう? お家の人が困ってしまいますよ」
「こまらないわ……。だっておとうさまも、おかあさまも、かえってこないもの……」
女の子は手を引っ込めて、代わりにペタリと壁に顔をつけてこちらを見ています。
話し方からして、このお屋敷のお嬢さまなのでしょう。少し見える服も貴族の子供服です。わたしと同じくらい……六歳か七歳くらいでしょうか。
「ねぇ、あなた。そのかっこう、もしかして、けいらたいの……」
「へへっ! そうだよ。おれたち、ちびっ子警ら隊員なんだぜ!」
「おれたち……?」
ビリーくんが威張りながら、きっぱりと大嘘をつきました。困った人です。
「それなら、しらべてほしいの。わたし、たぶんこの家の、子どもじゃないの」
ビリーくんがピューッと口笛を吹いて、あのセリフを言いました。
「事件の匂いがしないか?」
読んでいただき、ありがとうございます。面白かったら☆評価とブクマをお願いします。
新作短編投稿しました。
転生理系女子が『君を愛することはない』と言われたので、脳科学と行動科学で運命の恋を解体してみた
https://ncode.syosetu.com/n4601mb/
ナーロッパ恋愛劇×脳科学コメディです! 週末のお供にどーぞ!




