第47話 脱・ドアマット幼女
すみません(つД`)ノ おしまいと言いましたが、間違いです。
後日談がありました!笑
皆さん、こんにちは。
すっかり春めいてまいりました。街を歩く人々は重いコートを脱ぎ捨てて、明るい色の服の裾を軽やかに翻しています。
エルシャ六歳。このたび、めでたくグリーンウッドの姓を捨て、平民になりました。
役所に書類を提出に行き、手続きはあっけないほど簡単に済みました。
「新しい家名は、どうしますか?」
役所の人に聞かれました。
「えっと、好きな家名をつけて良いんですよね?」
「はい。高位の貴族家名と被ることは避けて頂きたいですが」
「では……“グリーンフィールズ”と……」
「草原ですか……。良いですね。あなたに似合っています」
係の人は、キリッとした印象の女の人でした。わたしはもう、女の人も怖くありません。
家名は、いつか見た夢に出てきた景色から付けました。ヘンリーと走った、空に続く道のある草原です。なかなかのセンスだと思いませんか? とても気に入っています。
そしてこれを機会に、わたしは自分を“ドアマット幼女”と称するのを、止めることにしました。
わたしの心は今、春風のように軽やかです。
「ねーねー、エルシャ。どうしてグリーンフィールズにしたの?」
役所に付き添ってくれた、ピートくんに聞かれました。
「グリーンウッドは“森”でしょう? わたしは、深い森を抜けて、見渡す限りの草原に立っているみたいな気分なんです」
「へぇー。エルシャは詩人だなぁー」
自然体で気負わないピートくん。ずっとこのままでいてくれるといいなと思います。
「エルシャ、いい天気だから遠回りして帰ろう。公園のチューリップが咲いたって、妹が言ってたんだ」
「わぁー、素敵です! でもピートくん、お仕事は?」
「うん。なんか『ゆっくりして来ていい』って言われてる。会議があるんだってさ」
「会議……。ピートくんは出ないの?」
「あはは! ぼくが会議で何しろって言うの? さっ、ポップコーン買って食べながら行こう!」
ポップコーンと聞いて、ヘンリーの耳がピクッと動きました。
こんな楽しそうな計画を、当たり前みたいに思い付くピートくんが、わたしもヘンリーも大好きです。
* * *
――会議室にて。
議事進行 ダグラス・リード
辺境の牧場から返信が来た。前グリーンウッド伯爵の財産と牧場は、エルシャが相続するよう、全ての手筈は整っているそうだ。
前伯爵夫人との契約により、ソフィアさんご夫妻が、エルシャが成人するまで責任を持って管理してくれる。
「後見人に関してはご夫妻は、辞退するそうだ。もちろんエルシャが望めば、牧場で育てる用意はあるが、“エルシャお嬢様を、最後まで使用人として支えたい”と書いてある」
エルシャは役所に、書類を提出しに出かけている。ピートとヘンリーに付き添いを頼み、我々はエルシャの後見に関することを話し合っている。
「後見人を引き受けるのは問題ないが……。わしら夫婦は嬢ちゃんが成人するまで、生きていられるかわからんからなぁ」
ハドソン医師が言った。
「だが、辺境のトーマス氏と連携して、嬢ちゃんを立派な薬師になるまで導く……。年寄りの最後の仕事としては、贅沢この上ないな!」
うむうむ、と頷いている。
「うちは子供が出来ませんでしたし、妻は大賛成してくれています。金銭的にもエルシャくんに苦労させずに済むと思いますよ」
エバンスが言った。
「ただ、うちは男爵家ではありますが貴族なので。エルシャくんには、爵位や社交が負担になるかも知れない。もちろん、彼女が望んでくれれば、立派なレディに育てるつもりです」
エバンスの奥さんは穏やかな人だから、きっとエルシャにも優しく接してくれるだろう。
「俺は……やもめだからな。仕事が忙しいし、お袋は足が悪いし……。俺が後見人になっても、エルシャにメリットはないだろう」
エルシャと縁が切れるわけではないなら、俺は遠慮しても良いと思っている。エルシャが穏やかに、楽しく暮らせることが大切だ。
そもそも後見人というのは、誰かひとりに決めなければいけないのか? このまま、全員で見守れば良いんじゃないか?
「責任を負う人間が必要なんじゃよ。嬢ちゃんのように、複数の家庭が手を挙げてくれる子供ばかりじゃない」
「このまま王都で暮らすとしたらいつまでも詰所で寝泊まりしているわけにはいかないですよ」
なるほど。その通りだな。
「うちのお袋も、エルシャのことを可愛がっている。後見人を引き受けることに問題はない」
ただ、俺にその資格があるのかと、考えてしまう。
全員が黙り込む。どうするのがエルシャの幸せなのか。すぐに答えの出る問題ではない。
しばらく沈黙が続いた会議室に、ノックの音が響いた。
「隊長、エルシャちゃんが戻りましたよ。どうしますか?」
「……本人に聞くか?」
「そうですね。養子先を決めるのは、まだ先でも良いですから。気楽に選んでもらえば……」
結局、エルシャ本人に、聞いてみることになった。
「エルシャ」
どう声をかけるべきか……。俺は言葉を選ぶことが苦手だ。ついつい、要点のみを口にしてしまう。ダメだ……思いつかん。
「エルシャの後見人を決める話し合いをしていたんだ」
「後見人、ですか?」
「簡単に言うと、エルシャくんのことに責任を持つ人間……ですね。相談にも乗りますし、支援もします。仮親のようなものです」
「仮親……皆さんが……?」
「もちろん、決めなくてもいい。エルシャは辺境に、自立出来るだけの経済基盤があるからな」
「仮の……親子……」
エルシャの頬がぽっと赤くなった。
「……ダグラス父さん」
「……エバンスお父様」
「……ハドソンおじいちゃま」
「み、みなさんが、大好きなので……選べません……!」
エルシャは、顔を真っ赤にして照れながら言った。
「ほほっ、いいのう……」
ハドソン医師が愉快そうに笑った。
「はい、とても、いい……」
エバンスは、感無量といった風に目を閉じた。
「う、むう……」
変な声が出た。“父さん”が、思いのほか胸に沁みる。
「もし、許されるなら、皆さんを……そう呼びたいです。ダメですか?」
俺はエルシャが幸せでいてくれるなら、俺の許ではなくてもいいと思っている。だが、エルシャが困った時、助けて欲しい時には、一番に駆けつけたいし、頼って欲しい。
そういう意味では、俺こそが“後見人”には相応しいのかも知れない。
「わかりました!」
エバンスが、パンっと手を打った。
「詰所を改装しましょう。エルシャくんの部屋を作ります。そこを拠点にして、好きな時に、好きな家に来ればいい。改装資金は私が出します」
「わしも金ならあるぞ! わしの家にも嬢ちゃんの部屋を用意しようかの!」
ハドソン医師は愉快そうに笑った。
「もちろん、我が家にも!」
くそっ、ブルジョワ共め!
「あー、うちは狭いし古いが、エルシャの部屋くらいは用意出来る。それでやってみるか?」
「夢みたいです! お父さんがいっぺんに三人も出来ちゃうなんて……。そんな子供は、王都でも、わたしだけだわ!」
エルシャが、ぴょんぴょんと飛び上がって喜んだ。こんなにも子供らしい姿は珍しい。
「エルシャ、僕の家にも泊まりに来いよ! 騒がしいけどさ!」
ピートがドアから、ひょいと顔を出して言った。
「あっ、うちも、うちも!」
「お前んちは、掃除してからにしろよ!」
会議室の扉の向こうで、隊員たちがわちゃわちゃと揉み合って、途端に騒がしくなる。
その後、ヘンリーが興奮して遠吠えをはじめ、すっかり収拾がつかなくなった。
『エルシャが喜ぶなら、もう何でもいいんじゃないか?』。そんな気にさせられた。
数日後、前代未聞の『後見人届』が、役所に提出された。
《後見人届け書》
以下の者を、エルシャ・グリーンフィールズの後見人とする。
後見人《代表》ダグラス・リード
《副》後見人 チャーリー・エバンス
ハワード・ハドソン
後見人補佐 西区八番街警ら隊一同
第一部 完
盛大にやらかしていて面目ない限りです(つД`)ノ
ここまで読んで下さった皆さま、本当にありがとうございます。おかげさまでエルシャはドアマット幼女を、無事に卒業しました。ですが、エルシャの物語はもう一幕、続きます。
今度は間違いなく、次は外伝『ピートくんの初恋』です。
これからもよろしくお願いします。
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