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電書第3巻(完結)3/25コミックシーモア配信予約開始 ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる
第一章

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第46話 ラスボス、キャサリン

「エルシャ、あんた……よくもやってくれたわね」


「……ご機嫌よう、キャサリンさん」


「なに気取ってるの? 機嫌なんかいいわけないじゃない。あんたのせいで、この屋敷はめちゃくちゃよ!」


 わたしはこの人が、怖くて仕方なかった。わたしの生殺与奪の権利は、この人の手の中にあったのです。


「屋敷の采配は夫人の仕事です。この落ちぶれ具合は、あなたの責任だと思いますよ」


「ずいぶん、生意気な口を効くようになったのね……。野良猫みたいに這いつくばって、床に落ちたものを拾って食べていたくせに」


 エバンスさんの前で、恥をかかせて屈服させるつもりですね。この人は心を折ることが本当に上手です。


「なんてことを……! 子供にそんなことをさせるなんて……。人として許されることではありません!」


 エバンスさんがわたしの前に、立ち塞がって言いました。ヘンリーも一歩前に出ます。


「あら、あなた取り調べ官の……。その子に肩入れしてるの? 仕事に私情を持ち込むなんて、役人失格じゃない?」


 ……嫌なところをつつくの、本当に上手い。


「エバンスさん、先に行っててもらえますか? この人と少し話をします」


「エルシャ。人を人とも思わない、品性下劣な人間と言葉を交わしてはいけません」


「ありがとうございます。でも、たぶん、これがわたしの最後の闘いです。どうか、やらせてください」


「エルシャ……」


「大丈夫です。わたしは辺境で鍛えましたから、取っ組み合いになっても負けませんよ!」


「……わかりました。でも、淑女なのですから、取っ組み合いは避けて欲しいですね」


「わかりました。善処します」


 エバンスさんが、玄関扉の向こう側に控えてくれます。扉は少し開いたままです。


「あら、逃げないの? ふふ。今なら謝れば許してあげるわよ。下女見習いとして、この屋敷に住まわせてやってもいいわ」


「何に対して謝れと言うのですか?」


「馬鹿みたいに叫んだりして、この家の評判を落としたじゃない! いつもみたいに這いつくばって謝りなさい! “わたしが悪いです、ごめんなさい”って」


 キャサリンの目が、嗜虐の色に染まります。口元が笑みの形に歪むと、それが地獄のような時間のはじまりの合図でした。

 

 殴られ、蹴られ、ムチで打たれ、いつもお腹が空いていました。誰にも話しかけられず、明日が来なければ良いのにと思いながら、屋根裏部屋で毛布にくるまって眠った。


 あの頃のわたしは、キャサリンの言う通り、『ごめんなさい』と『わたしが悪いです』としか言わない、踏みつけられる、ドアマットでした。


「ほら、言いなさいよ。あんたが全部悪いんだから!」


「悪いのは、あなたでしょう?」


「何ですって?!」


「あなたがわたしを追い詰めたから、耐えられなくなったわたしが、全てを叫んで逃げたんです。原因を作ったのも、引き金をひいたのも、あなたです」


「ふん! 愛されたかったとでも言うの? 前妻にそっくりな継子なんて、愛されるわけないじゃない」


「わたしが母に似て綺麗で可愛く、貴族女性らしい品があるのは、わたしのせいじゃありません」


「自慢なの?」


「ええ。母様に似ているのは、わたしの自慢です。あなたは、欠片も持ち合わせていないものですね」


「なんて生意気なの!」


 キャサリンが、わたしを打ち据えようと、手を上げました。ビクッと身体が揺れます。でも視線は逸らしません。


 ヘンリーが低く唸り声を上げます。


「わたしはまだ、届けを出すまで伯爵令嬢です。あなたは本日づけで平民になりますが、暴力を振るって、大丈夫ですか? もう家族じゃないですし、『しつけ』の言い訳は通用しませんよ」


「なにを言っているの?」


「家の財産を盗んで愛人と駆け落ちしたあなたを、父が放っておくとお思いですか? 離婚届けが本日、受理されました」


「えっ……」


「父は盗難届けも出していますから、逮捕状もそろそろ下りると思います」


「そんな……、えっ、嘘……」


「もう、逃げられませんよ。一緒に逃げてくれる下男もいませんしね」


「わ、私も暴露してやるわ! お前がこの家の恥だって! みっともなく謝っていたくせに、伯爵家を破滅させたって!」


「みっともないのも、恥ずかしいのも、わたしではなく、子供を殴って喜んでいた、あなたです」


「ね、ねぇ、悪かったわ。あの取り調べ官とか、警ら隊の隊長とか、あなた親しいんでしょ? とりなしてよ。何とかしてよ!」


「たった六歳の幼女に、何とか出来るわけがありません」


「ひどいわ! 仮にも義母だった私を!」


 顔を手で覆い、シクシクと泣きはじめました。


「愛さなくて、当たり前の継子なんでしょう?」


 キャサリンの涙が、ピタリと止まりました。これ以上、わたしに言っても無駄だと思ったのでしょう。

 きびすを返して階段を駆け上がっていきます。


「父のところへ行ったんですかね……」


 説得出来るつもりなんですか、あの人……。さすがキャサリンです。


「エルシャ、終わりましたか?」


「はい、エバンスさん。ふふ、勝ちましたよ!」


「さあ、今度こそ、帰りましょう」


 玄関を出て、わたしは振り返らずに、扉を閉めました。最後に、玄関に敷かれた、少し擦り切れた玄関マットにだけ、心の中でさよならを言いました。



   * * *



 玄関を出て、うーんと伸びをします。書類を提出すれば、わたしは正式にこの家の人間ではなくなります。少しの寂しさはありますが、清々しくていい気分です。


「エルシャ、エルシャ!」


 門の向こうから、ピートくんの声がしました。なぜか新聞配達人の格好をしています。


「心配で……! 迎えに来たんだ」


 ピートくんったら! 嬉しくて走って門から出ると、ハドソン先生もいました。診察バッグを持って、所在なさそうに立っています。


「いや、わしは……近所で往診があったから……」


 ハドソン先生は貴族街の往診は受けないのに……。

 他にも、副長のジョンソンさんと、事務のカールさんもいます。二人とも、雑役人のような格好をして荷車まで引いています。


「ふふっ、お二人とも、変装が似合っていませんね。ピートくんは新聞配達人、すごく似合ってます!」


「ちぇ、褒められた気がしないなぁ……。あ、あれ……?」


 ピートくんが、街路樹の向こうを見ながら言い淀んでいます。見ると、郵便配達人の格好をしたダグラスさんがいました。


「なんだ、みんな来ていたのか……」


 気まずそうに言いながら歩いて来ます。

 ダグラスさん……その制服や配達用のバッグ、どこから借りて来たんですか?


「ダグラス、変装が完璧過ぎて返って引くよ」


 エバンスさんが呆れたように言いました。ピートくんがお腹を押さえて肩を揺らして笑っています。


「それでエルシャ、エドワード氏との面会はどうだった?」


「無事に終わりましたよ。書類もあとは提出するだけです」


「そうか。じゃあ、帰ろう」


「はい!」


 副長のジョンソンさんが、わたしを抱き上げて荷車に乗せてくれました。ピートくんも乗ろうとしたら、年寄りに譲らんかとハドソン先生が乗り込んで来ます。


「うわっ、重っ……先生、ちゃんと座ってて下さいよ!」


「枯れ木のような年寄りと、幼児が重いわけがなかろう! キリキリ働け!」


 皆さんの笑い声に包まれて、荷車がゴトゴトと動き出しました。


 もう振り返りません。


 わたしの帰る家は、西区八番街警ら隊の詰所なのだから。



読んで頂きありがとうございます。


次話の後日談をもちまして、第一部はおしまいです。

キャサリンとの会話の中で、『みっともないのも恥ずかしいのも、子供を殴って喜んでいたあなたです。わたしじゃない』というセリフがありました。

これが、作者の一番、言いたかったことです。

いじめられている側は、自分を惨めだと思い、恥じて、知られたくないと思います。作者にも経験があります。

でもそんなことないんです。みっともないのは、いじめている側です。エルシャの世界では立証できませんでしたが、現代ならばいじめは犯罪です。まずは自身の安全を確保してから(これ、大切です! ちゃんと計画を立てて!)隠さず、臆さず、叫んでしまえばいい。エルシャのように。


•児童相談所全国共通ダイヤル:189(いちはやく)

•DV相談プラス:0120-279-889(24時間・無料)

•いのちの電話:0570-783-556(10時〜22時)


『屋根裏のエルシャ第3巻』にあたります。3巻のあらすじをお見せしちゃいますね!


――

「踏みつけられる“ドアマット”のままでいたらダメです。“いつか”なんて、そんな日は来ないんです!」

『格差姉妹』『出産で母を失った家』『君を愛することはない系仮面夫婦』。

 ファンタジー界隈のテンプレ“ドアマットヒロイン”を、元ドアマット幼女が正論でぶった斬って助け出す!

 けれどエルシャの救出劇の裏では、王都には五年前の悪夢が忍び寄っていた。

 正体不明の爆破犯――“霧の爆弾魔”。

 やがて事件は、隊長ダグラス・リードの壮絶な過去と交差する。

 守るべきは、小さな温もりか、それとも亡き家族への誓いか。

「ヘンリー、わたしたちも行きましょう!」

 救助犬ヘンリーと共に、ちびっ子探偵エルシャが霧の王都を駆け抜ける!


――


どうですか? 3巻も読みたくなって来ましたか?笑

そんなあなたに朗報です! 『屋根裏のエルシャ第3巻 元ドアマット幼女、ちびっ子探偵大活躍!』はコミックシーモア様にて絶賛予約受付中です。作者の名前をポチッとして、活動報告へ進んで下さい。予約ページへのリンクがあります。

コピペはこちらを↓

https://www.cmoa.jp/title/1101472615/vol/3/


まだまだ続きますから、どうかブクマ登録、☆での評価をお願いしますね!


ここまで読んで下さった皆さま、本当にありがとうございます。この先も、どうかよろしくお願いします!



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― 新着の感想 ―
6歳と思えば素晴らしい啖呵です。 父親にもそうでしたが、キャサリンに対しては読んでいてスカッとしました。 かっこいい!
乗っ取りと義母が殺し合う血みどろ展開は自分の中にだけ展開させて置こうw 爽やかな第二章を楽しみにしています。 書籍1~3とコミックス1の同時発売も。
 どこまでも我が身第一な後妻が、見事に撃沈しましたか。普段は丁寧口調かつ落ち着いてるエバンスさんですらボロクソに言われるほど難のある人物でしたが、これで一区切りつきましたね。  重要な局面に、エルシャ…
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