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電書第3巻(完結)3/25コミックシーモア配信予約開始 ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる
第一章

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第45話 ドアマット幼女、父との決別

 皆さま、こんにちは。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 父が、わたしとの面会を受ける条件に出したのは、“わたしがひとりで来ること”でした。


 弱虫で姑息な、あの人らしいですね。


 エバンスさんが粘り強く交渉してくれましたが、わたしはその条件を受けることにしました。

 大丈夫です、ヘンリーを連れていきます。


『ペットの犬なら一緒でも構わない』という了承をもらいました。


 ヘンリーが、熊にも負けないわたしの相棒だということは内緒です。そんなことを教える筋合いはありません。


 当日は、ソフィアさんがお直ししてくれた、母様の子供の頃のワンピースを着て行きます。ダグラスさんが買ってくれたブーツを履いて、エバンスさんにもらった帽子も被ります。


 ダグラスさんは直前まで、門まで着いて行くとか、変装すれば大丈夫とか言っていましたが、最後は引いてくれました。


 その代わり、長いことヘンリーに話しかけていました。こっそり聞いていたら『お前が守れ』とか『腕や足なら噛み付いてもいい』とか言っていて、笑ってしまいました。



   * * *



 グリーンウッド邸へは、エバンスさんが付き添ってくれます。たぶん父は警ら隊の人たちが怖いんでしょうね。


「エルシャくん、これが必要な書類です。必ず家章を押してもらって下さい。グリーンウッド邸では、何も口にしないこと。部屋に入って、エドワード氏以外の人間がいたら、すぐに退室して下さい。私は隣の控え室にいます。ヘンリー、くれぐれも、頼みましたよ」


「わふっ!」


 何人もの人に、わたしのことを頼まれて、ヘンリーは鼻息が荒いです。落ち着いてと声をかけてから、ドアを開きます。


 父は机に片肘ひじをついていました。部屋には他に誰も見当たりません。


 わたしを見て、うんざりした顔をしています。何度も見た覚えのある顔です。そのあと、ヘンリーを見てぎょっとして言いました。


「なんだその大きな犬は! 聞いてないぞ!」


「大人しい犬です」


 父と会話をするのは初めてです。こんな人でも話しかけて欲しくて仕方なかった頃もありました。今は嫌悪感しかありません。


「早速ですが、この書類にサインと家紋の封蝋をお願いします。後ほど、隣の部屋にいるエバンス取り調べ官が確認してくれます」


 父の前に書類を二枚並べます。ヘンリーはわたしの足元から離れずに、ぴったりくっついています。


「なんだこれは……」


「わたしの、爵位の放棄と、グリーンウッド家からの離籍届けです」


「意味をわかっているのか?」


 バカにしたような、皮肉気な顔で言いました。


「もちろんです」


「平民になるんだぞ? お前みたいな子供が、どうやって生きて行くつもりだ」


「ご心配は無用です。あなたと関わらずに生きて行くことがわたしの希望です」


「エルシャ……」


「……わたしの名前、知っていたんですね。グリーンウッド伯爵()()


 父の顔が赤く染まりました。


「非常に不快なので、もう二度と呼ばないで下さい」


「父親に向かって、なんて言い草だ!」


「あなたが父親だったことは、わたしの記憶の限り、一度もありません」


「こ、このっ!」


 父がガタンと椅子から立ち上がりました。


 ヘンリーがわたしの前に進み出ました。身体を低くして、唸り声を上げます。


 父が「ヒィィ」と言って、椅子に倒れ込みました。笑ってしまうほどにみっともないですね。


「もう、いいじゃないですか。サインして下さい。欲しかったんでしょう? ……妻を見殺しにしてまでも」


「お前……、誰にそんなことを吹き込まれたんだ?」


 気味の悪いものでも見るような顔をしていますね。でも、このくらい言わせてもらいます。


「この家も、伯爵位も、あなたにあげるわ。わたしはいらないもの」


「つ、強がりを言いおって!」


 大きな声で怒鳴りました。声がかすれています。お酒の飲み過ぎですね、きっと。


 ヘンリーがまた、唸り声を上げました。今度は『ガルルル』と喉も鳴らしています。


「脅すつもりか!」


「脅す? なぜ? わたしはあなたの希望を叶えるために来たのに。でも、ヘンリーもわたしも、あなたがとても嫌いなので三度目は飛びかかるかも知れませんね、わたしとヘンリーで」


 父が慌てて引き出しを開けて、万年筆とグリーンウッド家の紋章印を取り出しました。二枚の書類に、読みもせずにサインをし、封蝋に印を押します。


「確認しなくていいんですか?」


「もういい! さっさとこれを持って出て行け!」


 投げ捨てるように、書類を渡して来ます。わたしは床に落ちた二枚の書類を拾いました。


「では、失礼致します。母様と、おじい様、おばあ様の分まで、せいぜい長生きして下さいね。グリーンウッド伯爵」


 わたしが捨てたものを、後生大事に抱きしめて、この寒々しい屋敷で長生きすればいい。


 返事はありませんでした。ただ、椅子の肘掛けを握る指先が、真っ白になっているのが見えました。


 控え室に戻ると、ドアのすぐ前にエバンスさんが立っていました。ヘンリーもクゥーンと鳴いて、足元に擦り寄って来ます。


「エルシャくん、大丈夫でしたか? 怒鳴り声が聞こえたので……!」


「ヘンリーが守ってくれました。これ……書類です」


 父から受け取った二枚の書類を、エバンスさんに渡します。エバンスさんは、すぐに机の上に広げて、用意していた書類と見比べています。


「……ええ、大丈夫です。署名も紋章印も、正式なものです」


 エバンスさんは書類を大切にしまって言いました。


「さあ、長居は無用ですよ」



 * * *



「待ちなさいよ!」


 玄関から出て行こうとするわたしに、声をかける人がいました。父の後妻のキャサリンです。


 かつて『義母はは』と呼んだこともある、わたしの最後の頸木くびきです。



読んで頂きありがとうございます。


出ました! ラスボス、キャサリンです!笑

エルシャの勇姿をご覧あれ!

第一章の最終話は、3/22の夜に投稿します。

ブクマや☆での応援、よろしくお願いしますね!



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 後妻などが暴虐にはしる前から家族への愛情など殆ど無かったでしょうに、今さら父親面し、大人の人間の代わりに連れてきた番犬ならびにパートナーにビビりまくり……滑稽ですねえ。カタルシスに溢れてまする。 …
妻の治療をさせず、実の娘の虐待を放置した父親は、どれほど冷酷で残忍な人物なのかと思いましたが、意外なほど臆病で小心者に見えました。 もしかしたら、三度の走馬灯を経験したエルシャが強くなったために、相対…
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