第55話 ラグナロク = ケルベロス
英一郎たちは一頻り会話を済ませると、指定された会議室へと向かった。
途中、テトの職員達が英一郎を見て、敬礼するが、
「お前さんら、そんなに堅くなりなさんな」
と言って、近くにいた男性の背中を軽く叩くと、
「あ、ありがとう、ご、ございます!」
男性はそのスキンシップに、思わず背中がピンと伸び、驚きで顔が紅潮する。
英一郎は通りすがりの職員一人一人に、元気よく手を挙げて声を掛ける。
「楪葉のおとん、相変わらずやな」
「この国のトップの方とは思えませんね」
後に続く夏希と琴音は、感心したように微笑むと、
「ボクのパパだからね」
フフンと鼻が高くなり、上機嫌の楪葉が、スキップしながらクルクルと回ると、
「おーおー、ご機嫌なこって」
「ふふ」
会議室のセキュリティを、楪葉が解除すると、
「私達はここで待機します」
「……」
警護の二人が直立不動で、左右に鎮座すると、
「ああ、頼むぜ」
最強のセキュリティを有する施設でも、自分達の任務に忠実な二人を見て、英一郎は誇らしくその瞳を見て頷く。
本会議室の前室は、近未来的な洗練された内装で、しかし、観葉植物なども多く配置されていた。
窮屈さを感じさせない空間には、ほのかに、エッセンシャルオイルの芳香が癒やしを提供していた。
「お待ちしておりました、首相」
一礼をして、小柄な女性が英一郎たちを出迎える。
雪のような髪に、純白の肌は、希少種と呼ばれる『アルビノ』で、その人間離れした美しい容姿は、見るもの全てを魅了する存在であった。
「めぐみお姉ちゃん!」
楪葉はめぐみに勢いよく抱きつく。
「こんにちは、楪葉」
めぐみは楪葉を軽く抱きしめ、その元気な笑顔を見て微笑むと、
「今日はすみませんでした」
と言って謝罪をする。
楪葉がニル・ヴァーナの運用に対する情熱を、痛いほど知っていためぐみは、先の、サーバーダウンの原因の一端が自分にあると詫びると、
「お姉ちゃんは悪くないよ、最後のアレ、サムスのバカがやったんだし!」
「しかし」
それ以上の会話を塞ぐように、楪葉は、めぐみの口を両手で覆うと、
「大丈夫なの!」
楪葉は顔を近づけて、めぐみを見ると、
「ありがとうございます」
めぐみは一礼して楪葉を見た。
「話は終わったかい?」
近くにいた小柄な男性が、ニコニコしながら近づいてくる。
「遊君」
楪葉がそう言って名前を呼んだのは、先の戦闘で、ヘルメスとしてディーヴァのプレイヤーだった三浦遊だった。
その後ろには、大柄な男性と、スラッとした長身の女性が立っていた。
「よお、一樹、藍!」
英一郎は二人の顔を見て、近づいていくと、
「首相、先程はお世話になりました」
「私も堪能させて頂きました」
アイギスのプレイヤーの柏木一樹と、アルテミスのプレイヤーの丹下藍が、英一郎に深々と一礼すると、
「ったく、カタッ苦しいのは抜きだぜ」
二人の肩を力強く叩くと、あれ?と言った表情を浮かべる。
「サムスの姿が見えねぇな」
奥の本会議室には、様々なエンジニアや、各省の関係者が席に着いていたが、肝心のサムスの姿が、この場にいない違和感に、
「あの野郎、逃げやがったな」
楪葉がイライラと、怒りのボルテージが上がるなか、それを制するようにめぐみが、
「サムスは、海外での有識者との会合が急遽入ってしまい、会議には、ネット中継での参加となりました」
「ま、しゃーねぇか」
英一郎は納得して、先に本会議室に入っていく。
ケルベロスのメンバーも後に続くと、最後に残った夏希と琴音は、
「ほな、行こか」
「さぁ、楪葉ちゃん」
二人に促されるように楪葉も、怒りの矛先を収められない様子で、プンプンとしていると、
「……そう言えば」
踵を返して、めぐみが楪葉の前に立つと、
「楪葉宛てに、サムスから預かっていた物がありました」
「え?」
トートバッグから綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出すと、楪葉に渡した。
「どうゆうこと?」
ハテナ顔の楪葉を見て、めぐみが、
「お詫びと感謝を込めた贈り物、では?」
そう言って、楪葉を見て小さく笑うと、本会議室へと入っていった。
「サムスが、ボクに?」
男性からのプレゼントなど、英一郎以外、貰ったことがない楪葉は、突然の事に、胸の鼓動が不自然なまでに高まっていった。
「殿方からの贈り物、やりますわね」
「サムスはんも、抑える所は抑えよるわ」
と言って、中身が気になったのか、二人は楪葉に、早く開けるように促すと、
「ふ、ふん!こんなので、ボクの機嫌が直ると思うなっての!」
と言って、満更ではない様子の楪葉は、箱を開けようとすると、
「ビックリ箱やったら、ウケるわー」
「変なフラグ、立てちゃ駄目ですわ」
ワクワクする二人の顔を、呆れながら蓋を開けると、




