第47話 届いた、一薙ぎの剣撃。
久遠はその攻撃を見切ると、隙を突くように、脇腹へ高速の連続攻撃を繰り出す。
だが鋼のような肉体となったノルンには、その攻撃は全く通じず、カンカンと、甲高い音と共に弾かれた。
「……」
それでも久遠は、諦めず、頭の中で打開策を練り上げていた。
「この状況でも諦めない、その表情、素晴らしいですね」
ノルンは満足げに、久遠の目を見て、己の拳を合わせて臨戦態勢を取り、
「さあ、次は、どのような策を講じるのですか?」
ノルンの不敵な笑みを見ても、久遠は動じることなく、冷静に相手を分析した。
僅かな剣撃のやり取りで、ノルンの異常なまでの防御力を確認すると、それを上回る一手を講じるには、どのような戦術が有効かを、瞬時に検討する。
自身が持つ、炎属性の魔法攻撃は無効化され、剣撃は鋼鉄の肉体によって、致命傷を与えることも不可能だった。
「……どうすれば」
思考を回転させ、久遠は戦術を一から組み上げようとするが、この状況を打ち破る妙案が、なかなか浮かばなかった。
そんな中、ふと視線に、久遠が放った魔法攻撃で燃えている、民家のすぐ横にあった井戸を見て、
「炎、井戸……水」
久遠は唐突に閃いた。
金属は高温の熱と、急速な温度低下を繰り返すと、劣化によってその強度は、著しく耐久性が落ちると聞いたことがあった。
「これだ!」
久遠は普段は、炎属性の魔法を得意としていたが、それ以外の属性のスキルもカンスト済まで鍛え上げていた。
今回は炎属性と水属性を同時に使うという、高等スキル『ダブル魔法』を瞬時に発動すると、印を結び、魔法を詠唱する。
「ふふっ、何をするのでしょう」
ノルンは久遠の一手を心待ちにしていた。
「その余裕も今だけですよ」
そう言うと、無数の炎の弾と、水の弾を周囲に出現させ、ノルン目掛けて一気に放った。
夥しいまでの炎と水の波状攻撃を、先程と同様に、回避することなく受け止めるノルンを見て、久遠はその油断も計算済で、一気に距離を縮めた。
全弾がノルンに着弾すると、水蒸気が辺り一面を包み込んでいった。
その靄に乗じて、気配を消した久遠は、ノルンの気配を感じ取ると、狙いを定めて、渾身の一撃を見舞った。
剣撃は見事にノルンの腹部を捉えると、その強靱な肉体の殻を破り、内部へと剣先を走らせた。
「!」
久し振りに感じる痛覚に、ノルンは翼を広げて上空に飛び立ち、距離を置いた。
「……攻撃が通るなんて」
先程まで、高揚としたテンションだったノルンは、その痛みで我に返り、困惑の表情を浮かべていた。
「まだです」
久遠は飛翔すると、上空でノルンと対峙する。
「……」
ノルンは剣を構えた久遠を見て、まだ納得していない様子で狼狽えていた。その表情を見た久遠は、
「昔見たアニメを参考にしただけですよ」
と言って、久遠が幼い時に見たアニメで、今のような状況に陥った主人公が、その窮地を打開した時の展開を、ノルンに掻い摘んで説明すると、
「……アニメも馬鹿に出来ませんね」
それまでの余裕の表情は消え、本気になったノルンは、拳を正しく構えると、
「本気で行きますよ、久遠さん!」
久遠の魔法攻撃によって、防御力が著しく低下したノルンにとって、久遠の剣撃は脅威でしかなかった。
『剣道三倍段』という言葉がある。
無手が真剣を相手にするには、相手の技量の三倍の実力がなければ勝てないという、武道の常識を肌身で感じていたノルンは、久遠を相手に油断するほど迂闊ではなかった。
「行きます」
久遠は剣を構え、翼を羽ばたかせると、ニル・ヴァーナで設定された限界高度まで上昇する。
そして、
「はぁっ!」
音速を超える、神速の域まで達した久遠は、その剣を、ノルンの頭上から一直線に、兜割りの要領で、その頭蓋を粉砕する強力な一撃を放った。
「!」
ノルンは極限まで集中力を高め、その一撃に全意識を注ぎ込むと、正面から立ち向う。




