第45話 天下五剣が一振り、三日月宗近。
「まだ……だ、ぜ」
止血するように、衣服を剥ぎ取り、右腕に巻き付けると、
「おぉおー!」
狂戦士と化したアイギスが、思わず後ずさるほどの大声を上げると、ロイの目は、大きく見開かれ、瞳孔は、今まで見たことのない、不思議な紋様が浮かび上がっていた。
この窮地に、スキルが目覚めるという奇跡は、まさに千載一遇のチャンスであった。
ロイのスキルステータスには『パラディン』と表示されると、ロイは無意識に印を結び、目の前には、神々しいまでの日本刀が現れた。
リフレクターに取って、ソーディアンの武器を扱うことは、システム上不可能であるなか、その常識を打ち破る、特殊スキルの出現は、ロイに取って、光明を照らす一手であった。
「こ、これは!」
意識を戻した、ロイのアイテムストレージには、『三日月宗近』と銘打たれた日本刀が、その美しいまでの刀身を、ロイを待っていたかのように、己をロイに委ねる。
初めて持つ刀とは思えないほど、ロイの手にしっかりと馴染むと、我の力を使えと言わんほど、三日月宗近から伝わる、人智を越えた力が、ロイに流れこんでいった。
事実、ロイのフィジカル・ステータスは、その神聖な力によって、見る間に回復して、それまでの激痛が、嘘のように消えて行った。
「す、すげー」
その圧倒的な治癒能力と、それ以上に、ロイに流れ込む、悠久の時間を脈打つような感覚は、ロイのシックス・センスを活性化させた。
右手の消失など、無かったことのように、ロイの意識は、超次元の高意識へと昇華していった。
「グ、グルゥ……」
その変化を感じ取ったアイギスは、本能的に脅威に感じると、距離を取ってロイの出方を見ていた。
(儂の力、お主に預けよう)
古の刀には、魂が宿るとは聞いたことがあるが、この日本刀から響く声には、何処が雅さを漂わせた、気品のある、高貴な貴族を思わせる人格が、インストールされているようだっった。
「お前さんは、一体?」
(儂か、儂は三日月宗近という。この儂に相応しい人間が現れるとはな。儂は、嬉しく思うぞ)
そう言うと、三日月宗近は、刀身を輝かせて喜びを表していた。
「刀が喋ってる?嘘だろ」
信じられない様子のロイに、
(お主の弟子は、屠る以外、救う道はない。覚悟を決めて、ことに当たるがよいぞ)
「……何でそこまで」
(儂とお主の間には、共通の意識の帯が結ばれておるのよ。故に、お主と儂は、文字通り一心同体、儂の波動を感じ取れば、お主は、己が剣術を遺憾なく発揮できる、分かるな?)
ロイは意識を集中すると、三日月宗近に流れるパーソナルを感じ取り、
「これなら、行ける!」
刀を構えると、その姿は、実に様になっていた。
それもその筈だ。現実世界に於いての南雲英一郎の剣術は、幼い頃より、総合古武術の師匠であった、祖父の虎次郎によって鍛え抜かれ、真剣を使う、古武術の居合術を、若干、十歳で免許皆伝となった、本物の剣豪であった。
南雲に取って、この日本刀、いや三日月宗近という、紛う事なき名刀を、自身の相棒とすることは、まさに、鬼に金棒という表現を体現するものであった。
(よい覇気であるな。我が力、お主なら正しく扱えるであろうよ)
そう言うと、三日月宗近は無言となり、ロイに自身を預けると、
「ああ、やってやるさ。頼りにしてるぜ、三日月宗近!」
ロイは刀を上段に高く上げると、示現流の蜻蛉の構えを取った。
隙が一切ない、その流れるような身体の運びは、まさに、達人と呼ぶに相応しい、威厳に満ちたものであった。
「……フッフッ」
アイギスは身体を振るわせて、ステップするように、左右に飛び跳ねると、虎視眈々と、攻撃の機会を窺っていた。
ロイは鼻から息を吸って、静かに息を吐き出す。
日本古来の呼吸法を実践することで、意識を高め、余分な思考をシャットダウンさせると、右前足をジリジリと、半歩、一歩と、間合いを自分の内外円に近づけていく。
見えない円形のテリトリーが、徐々に縮まると、あと、一歩という距離まで身体を運んでいく。
「……」
薄く半眼になり、仏のような表情を浮かべる、ロイを見て、アイギスは痺れを切らすと、無鉄砲に、己の巨体を戦かせ、ロイ目掛けて突進していく。




