第44話 絶体絶命
理性を失い、狂戦士と化したアイギスは、雄叫びを上げ、その場で身体を震わせていた。
その様子にロイは、
「……マジかよ」
先程までの空気が一変して、異様な迄の殺伐とした雰囲気に、身の毛がよだつ思いだった。
「フゥ、フゥゥ……」
荒い息を吐きながら、アイギスは視線を泳がせ、無作為に当たりの構造物を破壊すると、近くで彷徨いていた、エネミーの狼を見つけると、その強靱な牙で、貪り狂うように捕食していた。
バリバリと噛み砕く、その姿は、まさに獣そのものであった。
あっという間に平らげると、まだ満足していないのか、辺りを見回して物色していた。
視線がロイを捉えると、アイギスの口がニヤリと、口角が引き上がると、
「ガ、ガァアア」
のしのしと、その巨体を、ロイのいる方向へ向けると、
「……冗談じゃねぇぜ、あんな化け物、相手に出来るかよ」
その圧倒的なまでのプレッシャーに、ロイの本能が、危険を感知して、警鐘を鳴らしていた。
その場で硬直していたロイを、その大きく見開かれた目を細めると、狙いを定め、
「シャァー!」
その巨体からは、想像も出来ない速さで突進すると、瞬時に間合いを詰めた。
「クソッタレが!」
ロイは己を奮い立たせるように、自分の頬を引っぱ叩くと、先程まで、固まっていた身体を、無理矢理にでも奮い起こした。
タックルをするようにアイギスが、その巨体を、ロイ目掛けて襲い掛かるが、
「そんな攻撃、喰らうかよ!」
紙一重の所で、その攻撃を躱すと、無防備になった、アイギスの後頭部へ裏拳を放つ。
その攻撃は、強かにアイギスを捉えるが、まったく動じることなく、反撃に転じるアクションを見て、
「ちっ!まったく効いてねぇ」
距離を取った、ロイの裏拳を放った右腕を、アイギスが素速く掴むと、もの凄い握力で締め上げていく。
「!」
ロイは余りの激痛に、焦点が定まらず、その場で悶絶していた。
「グゥ、ハァッ!」
アイギスは、猛り狂うように、その強靱な筋力を惜しみなく発揮する。
普通の試合なら、審判が止めに入る危険行為だが、ここは現実世界ではない。
ロイがリザインしない以外、この戦闘は終わることはないのだ。
「離しやがれっ!このクソが!」
ロイは激痛に耐えながらも、必死になって、残っていた左手や、両足を使って反撃するが、アイギスは動じることなく、その場で、金剛力士像のように悠然と立っていた。
ロイの右腕は、軋むように悲鳴を上げると、ボキッと嫌な音がした。
「がぁ!」
強烈な痛覚がロイを襲う。
ダランと力なく右腕が垂れると、満足そうにアイギスが笑い、その腕を強靱な牙で噛み切った。
「!」
気絶しそうな衝撃に、ロイの意識は限界を超え、目は虚ろに彷徨っていた。
アイギスはロイの身体を掴むと、無造作に放り投げる。
その場でアイギスは、噛み切った右腕を地面に投げ捨てると、犬のようにバリバリと、その腕を、むしゃぶりつくように食べていた。
「うっ」
その光景を見ていた、場外の観客の女性が、口を覆うと、今にも吐きそうな表情を浮かべ、観客席からトイレへと駆け込んでいった。
異様すぎる光景は、それまで、熱狂していた会場のボルテージを一気に凍り付かせた。
ハンバーガーを食べていた、肥満ぎみの男性は、食べるのを止めて、ポトリと、食べかけのハンバーガーを落として唖然としていた。
「グッ、フゥウ……」
右腕を食べきったアイギスは、まだ、満足していないのか、ロイの身体を見据えると、ハァハァと激しく呼吸し、獲物を捕らえた獣のように、その牙をロイに向けていた。
「……」
ロイは、虫の息のように力なく、その意識は、絶え絶えと弱々しくなっていた。
最早、一刻も早くリザインしなければ、現実世界の南雲の脳神経にも、重大な影響を及ぼす、危険な状況であったが、ロイ、いや南雲は、まだ諦めてはいなかった。
その不屈の闘志は、現状に於いては、まさに、諸刃の剣そのものであった。




