第34話 雌雄の刻
弓の弦を、ビンっと、弾きながら、右手に装着した三河かけを直すと、アルテミスを倒すための戦略に、思考を回転させ、一つの答えを導き出した。
「やっぱ、屠龍しかないか」
残り少ない、タオを総動員しても、この技を発動することが、本来は出来ない程に、大量のタオを消費するはずだが、シオンは、フウッと、息を吸って、
「最後の花火は、盛大に……ってっか」
自身の体力を、タオにアクセスすると、体力ゲージが、凄い勢いで削れていく。
「シオン、まさか!」
「そのまさかだよ、カナン。後は野となれ、山となれだぜ!」
「……」
シオンの意図を、理解したカナンは、自分に出来ることが、何一つないことを痛感し、慚愧の思いに駆られていた。
それを感じ取ったシオンは、アッケラカンとした声で、
「カナンは、十分仕事したっての、気にすんなって」
「でも!」
声を震わせ、泣きそうになるカナンを、
「泣くなよ。まだ、負けと決まったワケじゃねぇ。変なフラグ、立てんなよな、へへ」
インカム越しでも、シオンの優しさを感じ、カナンは、涙を拭いて、
「ご武運を!」
「ああ、任せな!」
矢を番え、スキルを再び発動した、アルテミスの姿を捉えると、
「奴さんも、やる気じゃねぇかよ、いいねー!」
矢を番え、高濃度のタオを集約した、アルテミスの周囲には、凄まじいまでのオーラが充満していた。
「……」
シオンは、目を閉じ、意識を集中させる。
あらゆる雑念を払い、相手の肉体の奥にある、心の動きを読み解くように、自身の意識を高め、明鏡止水の境地に達する。
風が、シオンの髪を撫でる。
薄く開けた、両目を俯瞰するような、高次元の意識が、アルテミスを見据えると、
「……弓術奥義・屠龍」
放たれた矢は、高出力のエネルギーとなり、龍神の姿となって、うねるように、相手目掛けて襲い掛かった。
「……」
同時刻、アルテミスも矢を番え、己の全てを賭けて、渾身の一撃を見舞った。
「フェンリル・ド・ルナ」
矢を覆う禍々しい狼が、シオンが放った龍神を、噛み殺すように牙を剥く。
お互いの攻撃は、拮抗するように、中央で混ざり合い、そのエネルギーは、眩い閃光となって、空中に飛散すると、大地に落ちて、炎上していった。
パワーバランスは、僅かに、アルテミスに味方する。
龍神を食い破るように、狼の牙が、龍の喉元を食い破ると、龍の姿を宿した矢は、矢尻から折れる。
競り勝った、アルテミスの矢は、その勢いを失うことなく、シオン目掛け、その牙は、容赦なく、シオンを食い破った。
「……」
薄れ行く、意識の中で、シオンは、
「後は任せたぜ、久遠」
そう言い終わると、シオンのアバターは消滅していった。
「……そんな」
カナンは、シオンの最後の言葉を聞き、信じられない、といった表情で、その場で、立ち竦んでいた。
その彼女を襲うように、背後から、黒いフードを被った死神が現れる。
「え?」
結界に護られていたカナンは、その気配に気付くよりも速く、死神は、手に持った鎌を振り上げた。
「ソウルイーター」
ヘルメスが詠唱した、即死効果の呪文は、結界内の守護を、容易に破ると、その鎌は、カナンの背中を切り付けた。
「あ、あ……」
呼吸が出来なくなり、窒息状態の、カナンの意識は次第に薄れ、体力を示す、ステータスバーは、徐々に減り続けると、赤色のデッドラインまで削られていく。
消えゆく、意識の中で、カナンは、
「……久遠君」
その一言を最後に、カナンのアバターも消滅する。
一連の惨状を、目の当たりにした、場外の観客達は、その余りにも、突然の出来事に、動揺を隠せず、戦慄を覚えた。
ライセンスマッチに於いて、現状の、トップクランのシューターと、ディーヴァが、得体の知れない、無名のクランの二人のよって、倒されたことに、一般の観客はおろか、名だたる、高ランカーの猛者達も、モニターに映る現実を、受け止められずにいた。




