第33話 断末魔
炎龍は、けたたましい咆哮を上げ、ノルンに、右腕を振り上げて攻撃をした。
「待つんだ、ウェルシュ!」
「聞かぬわ!」
久遠の意志に反して、単独で切り込む炎龍を、ノルンは、
「勇ましいですね、ですが……」
剣を構えて、薙ぎ払った一撃は、紙のようにスッパリと、炎龍の右腕を切断した。
「それは、蛮勇と呼ぶのですよ、炎龍」
「グウォォォォ!」
炎龍は、自身に起きたことを、理解する余裕などなかったが、意志を持つが故に、その痛みは、壮絶な痛覚となって襲い掛かる。
「お願いだ、戻ってくれ、ウェルシュ!」
久遠は、必死に懇願するが、炎龍は、聞く耳を持たないどころか、逆上して、理性を失い欠けていた。
「この程度……儂は炎龍、このような者に敗れては、名が廃るわ!」
顎を震わせ、口を大きく開けると、その鋭い牙で、ノルンを噛み殺そうとする眼光は、血管が浮き出ていた。
「……」
そんな、鬼の形相の炎龍を、ノルンは哀れなモノを見るように、冷徹な視線を送る。
「その目、気に食わぬ!噛み砕いてくれよう!」
凄まじいスピードで、ノルンの頭上から、顎門を開き、ノルンの首を噛み切る寸前、
「……終わりです」
剣を中段に構えて、素速く、炎龍の心臓部を貫くと、
「ま、まだ、だ」
落ち行く意識の中で、最後の力を振り絞ると、一矢報いようと、牙を向けた。
「……」
心臓に突き刺した剣を抜き、ノルンの剣は、頭上の炎龍の頭部を、容赦なく刈り取った。
凄まじい血飛沫と共に、頭部は、力なく落ち、胴体は、有り処を無くし、その場で留まっていた。
「ウェルシュ!」
炎龍のステータスが消滅し、クリスタルが砕けるように、消滅していった。
「……嘘だろ」
ロイは、炎龍の死を直視することが出来ず、これは、何か悪い夢でも見ているのではないかと思うほど狼狽していた。
「自身の力に絶対的な自信を持つ、それは誇れることですが、その過信が、あの者の目を曇らせただけのことです」
アイギスは、遠い目をして、消え去った炎龍を忍ぶように、手を十字に切り、哀悼の意を示した。
炎龍を倒され、久遠は、酷く動揺していた。
切り札の召喚獣を、意図も容易く倒す、武器の出現。
それを、見事なまでに扱う、ノルンの圧倒的なまでの力量。
久遠が、今までの、ライセンスマッチで、数多くの戦いを、繰り広げたプレイヤーとは一線を課す、いや、次元の違いすぎる、レベルの持ち主を目の当たりにして、この勝負は、負けてしまうのではないかと、弱気になった。
「まだ、勝負は終わってませんよ、久遠さん」
印を解き、魔剣グラムを仕舞い、通常の剣に持ち替えたノルンは、挑発するように、久遠を見て微笑む。
「久遠、俺がサポートに回る!」
そう言って、久遠の元に、駆け寄ろうとするロイを、アイギスは、小剣を、ロイの足元に投げて牽制する。
「何しやがる!」
ロイは、アイギスに、怒りの視線を送ると、やれやれ、といった様子で、
「『大将同士の戦い、見届けても、遅かぁねぇよな』では、なかったのですか?クラウド殿」
先刻言った言葉を、一言も違わず復唱され、ロイは、思わず感情的に、アイギスを罵倒するように、食って掛かる。
「今の状況で、動かねぇ奴なんているかよ!馬鹿じゃねぇか、テメー!」
「……」
アイギスは、一呼吸すると、構えを取り、
「では、戦闘を再開するということで、宜しいか?」
「上等だ、掛かってこいや!」
ロイは小剣を構え、久遠に、
「この唐変木を、とっとと倒して、すぐ、お前のサポートに付くから、心配すんなよ、大将!」
盾を、小剣で勢いよく叩き続け、己と、久遠を鼓舞し、戦意を、無理矢理にでも高めていく。
苦境に立たされた、前線の戦闘のなか、シューター同士の決戦の時も、刻、一刻と、近づいていた。
「さて、どうしようかね?」
シオンは、最後の一手に使うスキルを、考え倦ねていた。




