第23話 作戦会議
久遠たちは、それぞれ、試合に向け準備を進める。
そして、運命の時間となった。
ロビーに入ると、女神テミスの像が、悠然と立っていた。
左手に剣を、右手に天秤を持ち、正義と力の象徴である、テミスによって、勝敗を決するというのが、アトラスの世界に於ける、秩序そのものであった。
外のコロシアムでは、観戦者のうち複数人が、二つの陣営の勝敗を賭けて、簡易的な賭場を開き、観客も、こぞってレートの高い業者に、掛け金を預けていた。
「いよいよだな」
ロイが、装備を確認しながら、ロビーの中央で、ウォーミングアップをしている。
シオンとカナンは、やはり女性らしく、いざ、本番となると、腹が据わるのか、堂々とした面持ちで、試合開始を待ってた。
久遠は、己の剣を構えて目を閉じ、集中力を高めていた。
ゆっくり目を開けると、迷いのない眼差しを、ロイに向けると、
「ここまで来たら、何も考えず、楽しみましょう」
「ああ、何時ものお前さんに戻ったな」
ロイが、大きく伸びをして、安心したように久遠の顔を見る。
そして、続けて、
「ガッポリ稼いで、ディナーは、豪華に行くかい?」
と、冗談交じりに言うと、
「あ、それ賛成!」
シオンが、両手を上げて、目を輝かせている。
カナンも、お気に入りの、グルメサイトの本を見ながら、
「私、マンハッタンがいいです」
「ああ、何時も、ランキング上位のホテルだよね、いいねー」
「ですよね!」
こと食事となると、テンションが上がってしまう、女性陣を見て、ロイが、
「この状況で、食いモンで盛り上がるなんざ、大したもんだぜ」
「ボクも、マンハッタンは、ブックマークに入れていますよ。そうですね。豪華な食事が待ってると思うと、緊張、解けますよね」
そう言って、笑顔になると、
「お、お前もかよ。ったく、敵わねぇな、ホント」
ロイは、久遠の女性的な一面を見て、思わず、肩の力が抜けていった。
「さあ、準備は出来ましたか?」
久遠は、皆に確認すると、三人は、声を揃えて答える。
相手のクランも、準備完了のサインを送ってきた。
「ステージは、何処になりますかね?」
久遠が、決戦の場となる、戦場を考えていた。
ニル・ヴァーナ・アトラスで使用されるステージは、無数に存在し、一ヶ月ごとに、新ステージが登場するほどだ。
ステージは、ランダムで、一戦ごとにに変化するため、どの装備を選択するかで、その試合に於ける、アドバンテージが大きく左右される。
プレイヤーの中には、そのステージを、高確率で予想することで、収益を得る『インデックス』と呼ばれる、情報屋の人間が存在するほど、アトラスに於いて、ステージを予想することは、勝利をする上で、重要なファクターであった。
「ヴァルハラ平原は、苦手なんだよな」
ロイが、盾を装備しながらぼやく。
「遮蔽物が少ないですからね」
久遠が、ステージを思い出して、ロイの意見に頷くと、
「アタイも、そこはちょっとイヤだな、遮蔽物が少ないと、弓兵にとっちゃ、隠れる場所を考えないといけないからね」
シオンは、お手上げといった様子で、ゲンナリとしている。
「二人とも、そんなことを言ってると、本当に、ヴァルハラ平原になってしまいますよ。言霊です、言霊」
カナンが、悪い空気を祓うように、柏手を打って、浄化の真似事をする。
「何やってんのよ、カナン?」
パンパンと、両手を叩いているカナンを、シオンが、不思議そうに見ている。
「浄化ですよ、浄化」
カナンは、真剣な表情で、シオンを見る。
「ああ、カナン。そう言うの、好きだもんね、はは」
一昔に流行った、スピリチュアルや、占いの類いに、目がないカナンは、やたらと、縁起や、験担ぎに五月蠅かった。
女性は、そう言ったことに、興味があると言われているが、まったく、興味のないシオンは、呆れるしかなかった。
カナンの、現実世界での家庭環境を考えれば、無理もないのだが、今は、割愛するとしよう。
試合開始の時間が、迫って来るなか、相手のクラン代表のノルンから、突然の連絡が入った。
久遠は、チャンネルを開くと、ロビー中央のモニターに、ノルンの姿が映る。
全身黒ずくめで、表情を読み取ることが出来ず、性別も、意図的に分からないよう、秘匿されていた。
残りの三人も同様で、体格だけは、何とか分かる程度だった。
「お初にお目に掛かります、久遠さん」




