第21話 不可解な挑発
ロイが食い入るように見るが、全て英語で書かれていたため、
「久遠、訳してくれい」
「はい。『本日、日本時間正午より、私達が開催するイベントにて、ライセンスマッチを実施致します。この試合は、従来のマッチに於ける、敗戦時の資産の割合が、50%から100%に引き上げた、エクストラ設定となっております。覚悟がお有りなら、メールの最後にある、承認ボタンをクリックして下さい』……だそうです」
「はぁ?何だそりゃ!」
「ちょっと、冗談でしょ?」
「……レート設定があり得ません」
三人が困惑するのも無理はない。
ニル・ヴァーナの資産は、現実世界での資産価値と、同等であるため、プレイヤーは是が非でも、己の持つ、アイテムや通貨を、死守することを大前提としている。
ライセンスマッチに於いて、敗者は、半分を失う鉄火場のような、真剣勝負。
だからこそ、プレイする者や、観戦する人間に取って、熱狂的なまでの一戦となるのだ。
だが、今回、ラグナロクの代表、ノルンが提示した条件は、余りにもリスキーであった。
Sプラスから、特例的に認められた機能で、指定するチームからの挑戦状には、レートの上限を上げることが可能となり、双方の合意のもとで初めて、試合が可能となるのだが、全資産を賭けた、大博打を張るクランなど、常軌を逸する行為でしかなかった。
「……これは、危険過ぎますよ」
首筋に冷たい汗を滲ませ、滅多に動揺しない久遠が、マウスを握りしめながら硬直していた。
他の三人も同様に、先程までの明るい雰囲気から一変して、ピンと張り詰めた空気が支配していた。
硬直している、久遠達を嘲笑うかのように、新しいメールを告げる、通知音が鳴った。
「!」
「ビックリした、今度は何だよ」
久遠は、突然の音に、心臓が止まる思いだった。
ロイは、何とか、自分を落ち着かせようと必死だった。
「さっ、さっきのクランからだよ」
シオンが、スレッドに、ノルンと書かれたメールを見る。
「きっと、条件を間違えたことを、訂正する内容ですよ」
カナンが、自分に言い聞かせるように、久遠達を見る。
「あ、開けてみます」
久遠が、恐る恐るメールを開くと、
『ふふ、如何に、銀翼の魔術師と呼ばれる貴方でも、全ての資産を賭けるデスゲームには、二の足を踏むようですね。無理もありません。この世界での価値は、現実の世界と同等、いえ、ある意味、それ以上ですからね。特に、貴方にとっては……』
意味深な内容に、久遠は、心臓の鼓動が信じられないほど速まっていく。
『現実世界では、指一本も動かせない、哀れな存在でしかない貴方には、この世界でしか、己の存在を、証明することが出来ないのですから。ご無理をする必要は、ありませんよ』
「!」
その内容に、久遠は絶句した。
自分の身の上は、クランの人間にも話してない内容であり、誰もが知り得ない情報を、このノルンと呼ばれる人間は、如何にして知り得たのか、頭の中が混乱していた。
「……」
ロイは、その内容を見て、いや、他ならぬ南雲英一郎として、決して、容認することが出来ないという、怒りの感情で、ワナワナと震えていた。
「く、久遠、どういうこと?」
「……久遠君」
久遠の身の上を、初めて知ったシオンとカナンは、どう接したらいいか分からず、狼狽えていた。
重たい空気が、先程よりも暗く、その場を立ち籠めていた。
すると、ルチルが、アッケラカンとした様子で現れると、
「みなさん。そんな、暗い顔をしないで下さい、ね」
と言って、笑顔になると、大丈夫ですよと、深く優しい、母親の眼差しを、久遠に向けると、
「まず、久遠の置かれている状況は、本当です。プライバシーに関わる情報であって、シオンさんとカナンさんには、お知らせすることが出来なかったこと、お許し下さい。久遠は、お二人に、無用な心遣いをされることなく、この世界を、一緒に、楽しみたかっただけなんです」
「……久遠」
「久遠君」
「ロイさんは、随分と前から、知っていらしたようですけど」




