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おまけの1

その後の妖精騎士の1幕


 王城の一室、ジャネット王女がミハイル王子に。

「兄上、これを」

「こんなにあるのか」


 ジャネット王女が見せるのは1枚の地図だ。そこにいろいろと書き込まれている。

「我が国にこんなに鉱山資源があったとは」

「いずれも鉱山妖精、ノッカーの話で間違いはありません。詳しく調べるのはこれからですが、これでも4分の1だと」

「信じられないことだ」


 山師なんて言葉があるが、掘ってみて使える鉱石が出るかどうか。どれだけの量がそこに眠っているか、そんなことは簡単に解らない。

 妖精でもなけれりゃ、そんなことは人には調べようが無い。手当たりしだいに掘ってみての博打になる。

 それが最初から解るってのはどれだけ凄いことか。

「ですが妖精からの要請があります。採掘のために山や森を荒らさない方法を開発すること。これができるようなら、ノッカーは他の鉱脈を教えてもいいと」

「これは妖精を怒らせる訳にはいかないか。国営の事業として長期的に取り組む必要がある」

「王家で直轄して進めることにしましょう、兄上」

「できるか? 領主は金の成る木を簡単に差し出すか?」

「まず一ヶ所で試してみましょう。当たりはつけていますのでそこは余にお任せを」

「では俺の方では研究班を組織するか。自然に優しい新しい採掘方の開発。採掘地周辺を妖精好みの自然に回復させる研究。学院の使えそうな奴等を集めるとしよう。ジャネットの方は人手は?」

「今のところはタームがいれば」


 妖精の情報使って採掘なんて、他の国ではできないよねー。この王国ならでは。

 税収とか財源とか見直すついでに国営の事業の効率化とかやり始めた兄妹。

 この兄妹ってのは最近では他国からも、ヤバイ、パないと評判だ。


 で、鉱山について話を通しにジャネット王女。とある男爵夫人と優雅にお茶をする。

「領地のことに関しては、全て夫に任せておりますのよ」

「謙遜するなミスティナ。夫にしっかり首輪をつけて後ろで手綱を握っていると噂は聞いている」

「まったく、誰がそんな根も葉も無いことを。妻として夫を支えているだけですのに」

 扇を緩やかに扱うのは男爵夫人。ジャネット王女のいきなりの来訪に警戒しつつも、優雅に微笑む。

「領地のことについては、夫と話して貰いたいのですが?」

「なに、ミスティナに聞いてみて考えてもらいたいのだ。これは男爵にとっても益となる話だ」

「あの鉱山は我が田舎領地で貴重な資金源。王家といえどそれを奪うような真似は、王族の信を落としますよ?」

「王家の直轄事業として試してみたいことがあるのだ。これにより人足を増やすことができる。道を整備して輸送を便利にする。これは男爵にとって不利益どころか治める領地の民全てに益となるハズだ」

 ジャネット王女がテーブルにパラリと紙を置く。そこには王族と男爵の取り分予定とか、領地の未来のこととか。


「国家事業として行うことでこの地に出稼ぎに来る者が増えるだろう。そして道については王家で作る。この人と道を使ってあらたな商売とかできそうではないか?」

 夫人はチラリと紙を見る。

「これでは王家の利益が少ないのでは?」

「目先の利益は忠実に働いてくれる家臣に譲ろう」

 ジャネット王女はお茶一口飲む。

「王家の利とは百年先、二百年先に民が幸福に笑って暮らせる国だ。それができてこそ王族は民の信を得られる。違うか?」


 男爵夫人、ミスティナはジャネット王女の目を見て背筋に流れる冷や汗を感じる。


 ――これが、街の小悪党を退治して悦に浸る暴れ馬(クレイジーホース)? とんでもないわ。二百年先の王国のことを考えて計を練る、それも十六の小娘が。闇ギルド、夜の蠍を支配下に置くミハイル王子も大概だけど、このジャネット王女もまた銀の髪の王族か――


 王族の祖が妖精の祝福を受けて、紫の艶持つ髪と先を見通す目を授かったという妖精譚。

 それゆえに王族には希に紫の艶の銀髪が産まれるという。

 そんな話を思いだしながらミスティナは戦慄を気取られないように微笑に隠す。


 ジャネット王女はニコリと笑い。

「視察のためにも余が夫、タームを男爵領に行かせたいのだが、良いだろうか?」

「え? 妖精騎士タームを、ですか?」

「慣れない王城暮らしに疲れているのか、少し旅行がてらに。4日ほど滞在でどうだろうか? 余は政務があるのでタームひとりになるが」


 ミスティナは手に持つ扇で顔の下半分を隠す。


 ――あの、妖精騎士、ターム様が我が領地に?


 王国いちの美麗な騎士、その姿絵だけでも貴族の女達には高値で売り買いされてたり。今もいろんな噂のある男、妖精の祝福と呪いを受けたという奇跡の美貌の美青年。


 ――それがひとりで来るということは?

 抱いた女をありとあらゆる病から癒すとか、抱かれた女にも妖精から幸運が授けられて、家が栄えるとか、眉唾物の噂ばかり。

 だけど、エィメル公爵の娘が長い患いから急に治ったのも妖精騎士の仕業だっていうし。

 何より、あの妖精騎士が本当に私のところに?


 思わずゴクリと唾を飲み込むミスティナ。まるで思惑を見透かしたように頷き微笑むジャネット王女。

 ミスティナは気を取り直して、

「我が領地は田舎ですが、見るべきところはいくつかあります。4日の滞在とは短くないですか? せめて10日は無ければ、くつろぐこともできますまい」

「タームも余の夫として政務があるのだ。せいぜい5日というところだろうか。滞在中のことはミスティナに任せよう。好きにしていいぞ」


 ――好きにしていい! 奥さん公認で! 何をしてもいいの? ムニャムニャしてもいいの? え? ほんとに? うわぁ――


 ミスティナは嫁いでから少し気の弱い夫を支えていた。で、イマイチ領地運営が下手な夫の代わりをしてた。それで夫を操っているとか言われてたり。

 旦那のことは愛してるけど結婚して15年、子供も大きくなってここ数年ムニャムニャしてない。

 ぶっちゃけるとムラムラする夜もある。

 そんなミスティナのところに、妖精騎士が来るという。

 好きにしていいというジャネット王女の言質つきで。


 ミスティナはコホンと咳払い。

「我が領地には小さいながらも銀の取れる鉱山もあります。少し離れているのですが鉱山事業を王家が一括管理したいというのであれば」

「ほう?」

「そこまでの道も整ってはおらず我が領地では道を作ることも難しく、これを王家に手伝っていただけるなら有り難いのですが?」

「検討しよう。そうなると視察する鉱山がふたつになる訳か。それならば、そうだな」

 ジャネット王女は男爵領の地図を広げて考える。

「こことここか。ふむ、ならばタームには12日ほど滞在してじっくりと見てきてもらうとしようか」


 ――妖精騎士、12日ゲット!――


「ときにジャネット王女。妖精騎士の好物はなんでしょうか? それと苦手な食べ物は?」

「余の夫タームは好き嫌い無く何でも食べる。あぁ、霧の森では肉と魚が無かったので肉料理と新鮮な魚料理は喜んで食べるぞ」

「では我が領地の名物のソーセージなどいかがでしょう」

「喜ぶだろう。それにタームには本当に嫌いなものは無い。ミスティナも聞いたことはあるだろう。タームが霧の森で何をしてきたか」

「妖精の呪いのままに400人近い純潔の乙女をたいらげたとか」

「だからミスティナも安心するといい」


 ――何を安心すると? それはまぁ、私も若くは無いですけどね――


「安心して一緒にターム()ソーセージを食べるといい」


 ――ターム()ソーセージを食べてもいい! ジャネット王女なんて懐の大きい。自分の夫を『食ってよし』と差し出すなんて!――


「妖精騎士の来訪、とても待ち遠しいですわ」

 夢見る乙女の顔で男爵夫人は顔を赤らめる。

 いつの間にか妖精騎士は政治交渉のカードのひとつに使われるようになった。

 まー、結婚してもいろんな女が欲しがるいい男なわけだし。

 それどころか誰かのものになった途端に欲しがる女ってのもいるわけだし。

 独身のときはモテなくて、なぜか結婚してからモテるようになるって現象、アレはなんだろうね?

 鉱山視察のためにタームが男爵領に旅行することが決まって。


「そんなわけでターム」

「はい」

「きっちり男爵夫人を落としてくるように」

「はい、ジャネット」

 忠誠を誓う主人にして妻のジャネット王女に柔らかく微笑みながら良い返事のターム。

 慣れたなー、オイ。



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