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次の日
国王陛下たちの住まいである西館の廊下を重い足取りで歩きながら陛下のいる部屋を目指す。
「これからどうなるんだろ」
「よくて解雇、悪くて死刑ね」
「アイリスそんな淡々と言わないでくださいよ。僕緊張してるんですから」
「知らないわよ。そんなこと」
「まぁまぁどうせ俺達運命共同体なんだから仲良くやろうぜ」
アイリスが隣で盛大な溜息をつき、カルマが困ったように笑う。
これから俺たちは今回の紗凪誘拐についての側付きの任を果たせなかったことを陛下に報告して処罰を受ける。
まだ見習い期間だとかいう甘ったれた理由が通用するはずなどなく荷物はダンボールに箱詰めして部屋は来た時の様に片づけてきた。
「解雇になったらみんなはどうするんだ?」
「私は一般人として普通に生活するわ」
「僕はどこかで下働きをしないと故郷に帰るにも帰れないですからね」
カルマは困ったな~と頬をかきながら遠い目をする。
自国でないカルマからすれば何も持たずして故郷には帰れないということなんだろう。
「シャロは?」
「俺は—」
家に帰ってもどうしようもないが家業を手伝うしかないのだろう。
「家の手伝いかな」
無駄口をたたきながらも陛下たちが待つ定跡の間にたどり着く。
扉の前の兵士たちが三度扉をノックしたのち中に入るように促され足を踏み入れる。
陛下はベッドの上で体を起こし俺達を見つめる。そんな陛下の傍らには王妃が座っている。
陛下のサイドには執事長、メイド長、騎士団長、右大臣、左大臣、そしてカルナスさんが立っていた。
ざっと片膝になり首を垂れる。
「「「この度は紗凪様の側付きの任を与えられましたにもかかわらず任を果たせず申し訳ございませんでした」」」
三人の声が定跡の間に響く。
だが、誰も何も申さない。ただただ無言であり、空気が張り詰める。
「そなたらは一度紗凪を妖に連れ去られたが無事あの子を取り戻したことには国王として礼を申そう。感謝する」
国王の言葉から必死に頭を回転させ真意を読み取る。つまるところ取り戻した点は褒めるが側付きの任を全うできなかった件とは別であり、取り返すことはむしろ当然である…といったところだろうか。
「ありがたきお言葉頂戴いたします」
アイリスがしっかりとした声音で返事をする。
「だが一度任を全うできなかったものを今後も紗凪の側付きにはできん。よって本日限りでそなたらの任を解く」
俺の考えはすぐに肯定される。
「そなたらは本日中に荷物をまとめ城内からの退場を命ず」
その言葉にぐっと唇をかみしめる。俺は見習いでなんの力もない。この城での立場なんて代わりの利くちっぽけな立場‥‥それでもあいつの本心に触れたたった一人の友人として今伝えなくてはいけないことが山ほどある。
あいつがどんな思いでいるのか、どんな思いで涙を流しているのか、どんな風に家族を、使用人を、妖を思っているのか―
今伝えなくてはきっとこの人たちは永遠に知ることはないんじゃないかって思えてしまう。だって、だって、だって
彼らは一度だって紗凪を見ようとしていないのだから
「恐れ多くも発言の許可をいただけますでしょうか国王陛下」
周りの視線が一気に集まるのが顔を上げずともわかる。
「国王陛下のご判断に物申すつもりか貴様?」
騎士長の苛立ちの籠った声が室内に落ちる。それに首を振りまっすぐに前を見据える。
「陛下のご命令に物申したいのではありません。私はただ紗凪お嬢様の側付きとして今回のようなことが二度と起きない様にしなければなりません。ですので今回の原因をこの場で述べさせていただきたく存じます」
王家独特の薄いピンクの髪が体勢を変えただけでさらりと靡く。
「かまわん。申してみろ」
「はッ、ありがたきお言葉。今回の原因が何であったか陛下はご存知でしょうか?」
「…」
「原因は紗凪お嬢様が西館の使用人の落としたハンカチを拾い渡そうとしたときに使用人の言葉が紗凪様を傷つけたことから始まります。…いえ、それも違いますね。最初の始まりはお嬢様が5歳の時の癇癪からです」
誰も知らない始まり。紗凪の心が泣いた日
「城の中ではあの日以来紗凪様を恐怖の目として見るものが少なくなかった。紗凪様はそれに気づいておられながらも頑張れば認めてもらえるかもしれないからと務めて明るくふるまわれました。自室ではいつも声を殺して泣きながら…妖達はそれをずっと見ていたのです。紗凪様の涙を—だから今回紗凪様が涙を流されたことに妖側は我慢ならなかった。故に今回の騒動が起きてしまったのです。」
「だから自分たちは悪くないと?」
「いいえ、我々がお嬢様の側におりましたら防げたかもしれないことに変わりはありません。ですから先ほども述べましたように陛下のご判断に対する異論はございません。ただ…‥‥」
陛下の瞳にはうっすらと俺が映りこんでいるような気がする。
「ただ私個人の意見として申させていただきたいのは陛下をはじめこの城の者が皆、紗凪お嬢様と向き合ってほしいというその一点のみです」
あえて個人だということでここから先のもしも対策をしておく。無礼だと不敬罪を被るのは俺一人で十分だ。
「それはどういう意味だ」
低くも威厳ある声が、瞳が俺を射ぬかんばかりの凄みを持つ。
「言葉のままです陛下。陛下はお嬢様と向き合っておられないではありませんか」
「貴様!!陛下の対してその口の利き方はなんだ!?」
「「シャロ!!!」」
一瞬で俺は地面に押さえつけられる。
後ろ手手を拘束され首元に剣を当てられる。それでもなお視線は前を向いたままで。
両サイドからわずかに悲鳴めいた声で名を呼ばれた気がしたが今は気にしていられない。
こちらだって引けないものがある。守りたいものがある。
「向き合っているというのなら何故お嬢様と会われないんですか?なぜお嬢様をこの城に縛り付けるのですか?なぜあのお方の前で名を呼んで差し上げないのですか?わかろうとしてあげないのですか?」
「黙れ!黙らねば—」
「首でもなんでも持っていけばいい。俺は黙ったりなんかしない!!紗凪お嬢様がどんな思いでウレーナ様の想いを引き継いでいるかあんたらは考えたことがあるのかよ!!!!」
“ウレーナ様の想い”それを聞いた瞬間に拘束の力が一瞬でも緩まるのが分かる。それはほとんど条件反射の様なものなのだろうけれど
「ウレーナの、ウレーナの想いとは何ですか?あなたはあの子がなぜ国から出て行きどんな思いで私達を思っていたのか‥知って、いるの‥‥ですか?」
今まで口を開かなかった王妃様がポツリポツリと話しかける。
その瞳は大きく揺れながら…
「私はすべてを存じ上げてはおりません。ただ紗凪お嬢様はウレーナ様の想いを受け継いで自らの意思で王城に戻ってきたことを知っています。あの方には妖側に残るという選択肢だってあったのです。でもあの方は王城を、人間側を選んだのです。「お母様の想いを今度は私が叶えるんだ」っておしゃってあの方はこちらに戻ってきたまでです」
それは国王両陛下には衝撃を与えたようだった。
まるで紗凪がそんなことを言っていたなんて信じられないと、ウレーナ様が紗凪に託した思いなど考えたことがなかったと、、、そんな風に言っているように見えた。
その姿を見てこれならきっと俺が居なくなっても大丈夫なんじゃないかと安堵の笑みがこぼれたのは誰も知らない。
今回は家族の確執って結構根深いんですよね~って思う瞬間でした。
次回は2月19日です。




