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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
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84. 家庭事情

 その後もフレイスからの質問は続き、時にはシャロンやペーシェ、プラットにも質問がぶつけられた。



「シャロン様は魔法学校に通われているのですよね、学校ってとても大きいところなのですか?」



「ペーシェ様とプラット様も普段から魔物と沢山関わっていらっしゃるのですか?大きな魔物とも戦ったりするんでしょうか…?」



「外に出る機会がなかなか無いので、皆様から話を聞くととてもわくわくします!もっと元気になったら私、色んな所に行ってみたいですわ!」




 そう笑顔を浮かべるフレイスを微笑ましそうに見つめるクロテッド社長。

 しかし時折その笑顔に一瞬だけ陰りが入り、悲しそうにも見えるときがあった。


 シルクは静かにクロテッド社長の様子を伺いつつ、フレイスの無邪気な言葉に耳を傾けては紅茶を一口ずつ飲み込む。

 メイドがおかわりの紅茶を注いだところで、フレイスの質問はクロテッド社長に向けられた。




「あの、おじい様…」


「どうしたんだい?」



 フレイスは一瞬視線を伏せ、再びクロテッド社長に視線を移す。

 先程まで笑顔を浮かべていたが、今は不安が入り混じったような表情を浮かべている。




「お父様とお母様は、いつ戻ってこられるのでしょうか」



 その言葉に対し、クロテッド社長は申し訳なさそうに眉を下げる。



「まだしばらくは仕事の方で忙しいそうだ。仕事の度合いを見て、私からも言っておこう」


「…いいえ、お気になさらないで!お父様もお母様もお仕事で大変なのは知っていますから」



 まるで無理矢理笑顔をつくるようにテーブルに向き直り、ゼリーを一口頬張る。


 確かに邸宅に伺ってから一度もフレイスの両親の姿を見かけていない。

 平日である為仕事で出ているのは頷けるのだが、フレイスの言い方からはまるで暫く帰ってきていないとも受け取れてしまう。



「フレイス嬢のご両親はどのようなお仕事を?」



 プラットがさり気無く尋ね、ペーシェも興味があるのかクロテッド社長に視線を移す。



「二人も私の会社で働いているんだよ。父のベルジュは開発部に、母のミルティは経理部に所属していてね…ちゃんと家に帰るようには言っているのだが、ここ最近は新たな開発に向けて熱心に取り組んでいて、仕事詰めの日々を送っている」



 クロテッド社長は軽く溜息を吐いてそう語るも、フレイスには安心させるように優しい笑顔を向けた。



「もうすぐその開発が一段落着きそうだから、フレイスは安心して待っていてくれ」


「…はい!」



 フレイスは素直にそう頷いたが、やはり複雑な気持ちは拭われていなかった。

 シルクはじっとフレイスの様子を伺い、表情の中に様々な気持ちが渦巻いているのを静かに読み取っていた。


 残念な気持ちと同時に、どこか安心しているような…妙で複雑な気持ち。

 これは何かがあるなとシルクは追加で入れられた紅茶を一口飲んだ。




 その後も茶話会の時間は過ぎて行き、午後二時を過ぎた辺りでクロテッド社長が申し訳なさそうにフレイスに語りかけた。



「楽しい時間は過ぎるのが早いものだね、私もそろそろ会社に戻らなければならない」


「そうなのですね…久しぶりにとても楽しい時間を過ごせましたわ、ありがとうおじい様」



 フレイスは残念そうに肩を竦めるが、直ぐに笑顔をつくってお礼を言う。

 クロテッド社長がフレイスの頭を優しく撫でると、フレイスは目を細めて嬉しそうに息を漏らした。


 フレイスが自室に向かうのをシルク達も付き添い、部屋の前に辿り着くとフレイスはシルク達にもお礼を言って丁寧にお辞儀をする。



「また、遊びに来てくださいね」



 そう言ってふんわりと笑顔を浮かべるフレイスに、ペーシェ達も笑顔を返す。

 シルクもお辞儀をしてから顔を上げ、シルクなりの笑顔を向けた。

 それでも無表情であった為か、隣でシャロンは苦笑いを浮かべていた。



 そうして邸宅を出る頃には、空の分厚い雲はより一層濃くなっており、ぽつりぽつりと小雨が降り注ぎだしていた。

 執事が直ぐに自家用車に入るよう促した事で、シルク達はさほど濡れずに済んだ。



 再び車に揺られながら外の景色を眺めるシルクであったが、行きとは違って考え事を頭の中で巡らせていた。

 クロテッド社長の表情、フレイスの言葉、家庭環境、病…色んな考えが静かにぐるぐると渦巻いていく。




「まーたシルクさんったら黙り込んじゃって。魔法防衛省に戻るまで時間があるし、それまでまたお話ししようじゃないの」



 再びペーシェがそう語り掛け、シルクは考えを巡らせるのを中断しては、またかと無表情ながらも呆れたように首元のストールをぐいと上げる。


 茶話会の途中でシルクが語っていた質問の返答に対し、フレイスだけでなくその場のほとんどの者が興味を示していた。

 実際クロテッド社長も興味深そうに耳を傾けていたし、同席していたメイドと執事も若干そわそわした様子であった。




「回復魔法の即効性や異言語魔法が使えるってのも驚いたけど、思ったよりも経験豊富というか、知っている事が本当に多いよね。いつから何でも屋をしてるの?」


「秘密です」




 流石に返答に困り、シルクはすかさずそう言いながら視線を逸らした。

 いつからだなんて、もうとっくの昔に数えるのをやめている身なのだから。



「えー、シルクさんって本当に謎が多すぎるよ。年齢も分からないしさぁ…何年何月何日生まれ?」


「……秘密です」


「…もしかして結構な大人だったりする?」


「おいペーシェ」



 ペーシェの何気ない質問にプラットが横から注意を入れ、シャロンもジト目になる。

 分からないと言えば余計に混乱を生むかもしれないと思い、シルクは秘密以外の返答はせず、再び外の景色を見つめるように視線を逸らした。


 外では雨が本格的に降り注いでいた。

 暫く雨は止みそうにない。


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