83. 豪華な茶話会
回復魔法で一時的に体力が回復したフレイスは、最初に外に出たいと申し出た。
しかしいきなり外に出るなど激しい動きをするのは身体に障るだろう、とクロテッド社長やメイド長、そしてシルク達も同意見であり、フレイスはしょんぼりと肩を落とす。
暫くの間ベッド上で過ごしていたのもあり、身体が重いながらも退屈な日々を送っていたのだろう。
自室でもできる読書には飽きてしまい、勉強は嫌いではないが今はそのような気分にはなれないようだ。
「では、皆様のお話を沢山聞きたいですわ!」
フレイスはどうやらシルク達のことに興味津々な様子だ。
これまでこの邸宅への訪問者はクロテッド社長やフレイスの両親の仕事関係の者達、そして医療従事者の者達ばかりであり、フレイスとプライベートとして訪問してくる者は滅多にいなかった。
体調不良である期間が長いが故に同年代の友達をつくる機会が無かったのもあり、フレイスの話し相手は身内と邸宅にいるメイド達や執事達のみである。
今回訪問したシルク達の存在はフレイスにとってとても新鮮なものであり、緊張感はあったものの体力が回復したことで気持ちが前向きになり、好奇心が芽生えている状態だ。
それならば、とクロテッド社長は茶話会を開こうと提案する。
早速準備をとメイド長が部屋の扉を開けようと振り返ると、扉は半開きになっている状態であり、開いた隙間から数名のメイドと執事の視線がぶつかった。
皆フレイスのことが心配で、中の状況をこっそりと伺っていたのだ。
メイド長は呆れながらも、聞いていたのなら話が早いと各自に指示を出して準備に取り掛かった。
そうしてシルク達は広い食卓に案内される。
自室から出るのが久しぶりである為、フレイスはきょろきょろと辺りを見渡しながら、興味のある物を見つけてはクロテッド社長に聞いていく。
飾られている花瓶の花が違うものになっている、久しぶりにこの絵画を見た、以前此処にあったカーテンの装飾が違うものになっている、と嬉しそうな表情で語っていき、そんなフレイスの様子をクロテッド社長も嬉しそうに頷きながら耳を傾けている。
そんな二人の様子を後ろから見ているシルクだが、とある疑問を抱いていた。
…何かもやもやする、と。
普段は感じていなかった、何とも言えないもやもやした気分。
そしてこの感覚は、内容は違えど以前にも似たような経験をしている。
初めてアパートに越してきた時の、掃除されていない環境を目の当たりにした時。
その時は苛立ちが主であったが、不思議なもやもや感が似ている気がした。
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昼時というのもあり、お茶菓子だけでなく簡単なサンドイッチなどの軽食も準備されていた。
簡単なものにはなりますがと料理長直々に伺ってきたのだが、シルク達はテーブルに並べられている食事の種類を見て固まる。
「簡単って言ってるけど、十分豪華じゃね…?」
シャロンがそうぽつりと言葉を零した。
サンドイッチ、サラダ、キッシュ、スープといった軽食。数種類のスコーン、ミニタルト、ゼリーやプリンといったデザート。
傍らには空のティーカップとティーポットが添えられており、早めの豪華なアフタヌーンティーといった状態である。
「フレイス様の病の治療に携わってくださる方々だと聞きまして、つい張り切ってしまいました」
料理長がはにかみながらそう語る。
実際大きく貢献するのはグレイである為、やはりグレイも連れて来るべきだっただろうかとシルクは軽く首を傾げながら眉を下げ、瞬きと同時にいつもの無表情に戻る。
ペーシェとプラットは自分達はそこまで関与していないのだが、とでも言いたげに苦笑いを浮かべていた。
フレイスとクロテッド社長が隣り合わせになるように椅子に座り、シルク達も各自椅子に座っていく。
茶話会が始まると、フレイスは早速目の前に準備されているスープを一口飲んで頬を緩ませた。
「美味しい…!いつも食べてるスープとはまた違った味ですわね、これも優しい味でとても美味しいですわ!」
料理長の腕前は素晴らしく、シャロンもサンドイッチを一口食べるとその美味しさに一瞬目を見開き、次々と口に運んでいく。
実際お腹を空かせていたペーシェとプラットも食事を進めていき、シルクもキッシュを一口食べてはゆっくり咀嚼して味わう。
しかしシルクは目の前の食事の量を改めて確認しては、静かに冷や汗を流した。
目の前に出されているものを一人前としても、シルクにとっては量が多すぎるのだ。
以前のように全く食事をとらずに過ごしていた時期に比べれば、今ではミュスカの促しの成果もあって一日三食食べられるようになってきている。
それでも、ようやく最近一人前食べられるようになったばかりだ。流石に目の前にある量を食べられる自信は無い。
途中でシャロンに助けてもらおうか、と考えながら紅茶を飲む。
ふと視線を感じ、シルクはその視線とぶつかる様にちらりと瞳を動かした。
フレイスのピンク色の綺麗な瞳がじーっとシルクを見つめている。
「シルク様は、普段はどのようなことをされていますの?」
この言葉にはペーシェとプラットも反応し、食事の動きを止めた。
分かりやす過ぎだろ、とシャロンが心の中でつっこみを入れる。
「普段は何でも屋をしています」
「何でも屋…何でもしているお仕事なのですか?」
シルクは視線を軽く上に向け、どのように説明しようかと考えを巡らせる。
あまり難しい言葉を使わないように、分かりやすい言葉を選びながら言葉を続けた。
「悪い魔物を退治したり、薬草を採ったり、困っている人を助ける為に調べものをしたり…色んなことをしています」
「沢山あるのですね!魔物と関わるということは、やはり危ないお仕事なのでしょうか…?」
フレイスは少し眉を下げながらそう質問する。
あまり怖がらせるような内容は控えなければ、と考えながらシルクは更に言葉を続けた。
「悪い魔物とばかり関わる訳ではありません。時にはお話してから素材を採ったりもします」
「お話できるのですか!」
「はい、凶暴な魔物でない場合はそうしてます」
フレイスは興味深々な様子でシルクの話を聞いている。
途中でシャロン達が引き攣った表情で固まり、クロテッド社長も目をぱちくりとさせた。
「お話とはまた…魔物とだよな?」
プラットが疑わしそうにシルクに問いかけるも、シルクは無表情のまま淡々と答えた。
「はい、異言語魔法を使えば可能になりますので」
異言語魔法。
高難易度な魔法の一つで、上級者向けの魔法である。
「その魔法、聞いたことがありますわ!とても難しい魔法だと聞きましたが、シルク様は使えるのですね!」
フレイスはそう言いながら瞳を輝かせる。
シャロンは視線を遠くに向けてしまっており、ペーシェは笑顔のまま固まり、プラットは眉間に指を当てて目を閉じた。
シルクはシャロン達の反応が気になり、軽く首を傾げた。




