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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
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82. 一時的な回復

 フレイスと対面する準備が整い、メイド長の案内に沿ってシルク達はフレイスの部屋がある二階へと足を進めていく。

 扉の前まで辿り着くと、先にメイド長とクロテッド社長が部屋に入り、その後入るよう合図を出された。


 再び開かれた扉の先に、大きなベッドが一つ。

 そこには一人の少女が上半身を起き上がらせた状態でこちらを見つめていた。


 肌は白く、パジャマの袖から見える手首は細く、如何にも病人といった雰囲気だ。

 しかし頗る体調が悪いという様子も無く、シルク達の姿を見た途端笑顔を浮かべた。



「フレイス、此方の方々が先程言っていたお客様だよ」



 クロテッド社長は優しい笑顔を浮かべてフレイスに語りかける。



「初めまして、フレイスと申します」



 フレイスはゆっくりとお辞儀をしてから顔を上げるも、緊張しているのか掛け布団を両手できゅっと軽く握り、顔を軽く伏せたりちらりと視線を向けたりとそわそわした様子だ。


 各自で簡単に自己紹介を済ませた後、クロテッド社長は申し訳なさそうに眉を下げながらフレイスに再び語りかけた。



「久しぶりの客人でやはり緊張しているだろうかね」


「ええ、少しだけ…でも、とても嬉しいわ」



 フレイスは目を細めてふんわりと笑顔を浮かべる。


 クロテッド社長はシルクに視線を移し、合図するように静かに頷く。

 シルクはフレイスに近付くと、片膝を床についてしゃがんだ。



「まずは回復魔法を施させて下さい」


「まぁ、私に魔法をかけて下さるのですね!」



 魔法という言葉にフレイスは瞳を輝かせる。

 お願いします、とお辞儀をした後にシルクは失礼します、と呟きながらフレイスの手に自らの手を優しくのせた。


 シルクはゆっくりと目を閉じ、意識を集中させる。

 その様子を後ろから見ているシャロンはごくりと唾を飲み、ぺーシェとプラットは興味深そうに視線を向ける。


 メイド長は内心落ち着かないのか、緊張した表情でありながらも祈るように両手を胸の前で握っている。

 クロテッド社長は静かに、かつ真剣な様子でシルクの後ろ姿を見つめていた。



 シルクから少しずつ魔力が高まっていく気配を感じ取る。

 シルクの手元が僅かに光を放ち、フレイスは目を閉じてゆっくり深呼吸している。



 そうして数十秒経っただろうか。

 シルクは静かに手を離し、首を傾けながらフレイスに問いかけた。



「お加減、如何でしょうか」


「…不思議だわ。いつもより身体が軽く感じます」



 フレイスは自らの両手を見ながら握ったり開いたりを繰り返す。

 顔色は先程まで青白いに近い白さであったが、血色が戻っているかのようだ。


 そのままゆっくりとベッドから下りようと動き出すと、メイド長が慌てた様子で近寄ろうとする。

 しかしクロテッド社長が静かに腕を動かし、止まりなさいと合図を出す。



「少しだけでいいの…でも、やっぱり歩けないかしら」


「…では、もう一度私の手を」



 フレイスはベッドの端で座った状態になると、シルクから差し伸べられた手を握る。

 それを合図にするようにシルクがゆっくりと立ち上がると、再び手元に意識を集中させた。


 本来ならしばらく寝たきりの状態であった為、立ち上がりが困難だろう。

 しかしシルクが回復魔法を継続して使用しているこの時間だけ、フレイスの脚の筋力は一時的に補強された状態となる。



 フレイスがゆっくりと立ち上がり、一歩前に踏み出した瞬間、クロテッド社長は目元に涙を浮かばせながらフレイスの前へと向かって歩み寄る。


 フレイスはシルクの方へと視線を向けると、シルクは軽く頷き、繋いでいた手を静かに離した。

 その後、フレイスはクロテッド社長に向かって飛びつくように駆け寄り、そのまま抱き着いた。



「おじい様!私、今とても身体が軽いわ!久しぶりにベッドから離れられた!」


「あぁ、フレイス…!良かった…良かった…!」



 あくまでも体力を回復させたのであり、病が完全に治った訳ではない。

 それでも二人にとってはとても嬉しい事であり、互いに抱き締め合う。


 クロテッド社長の頬に温かい涙が伝っていった。

 メイド長も嬉しさが込み上げているからか、手持ちのハンカチを目元に軽く当てている。



「こんなに早く回復魔法を完了させるなんて…」


「うひゃー、シルクさんやばすぎでしょ」



 後ろから見ていたプラットとぺーシェが驚きを織り交ぜた声色でそう小さく呟く。

 シャロンはまるでシルクの代わりのように自信満々な表情で驚嘆している二人を見つめた。



 シルクは抱き締め合うフレイスとクロテッド社長の様子を見つめながら、シルク自身も安心して軽く息を零す。

 ほんの少しだけ目を細め、ふんわりと柔らかな笑みを浮かべるも、それは次の瞬きと同時にいつもの表情へと戻る。



「ずっと無表情って訳では無いんだな」


「もっと笑顔でいれば良いのにねぇ〜」


「…またシルクの事見過ぎだってば」



 ぺーシェとプラットから再び視線をぶつけられている事に気付き、シルクはふいと視線を逸らした。


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