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47. 花屋にて

場所は変わり、大通りにある花屋にて。


シルク達は喫茶店を出ると、グレイの目的である肥料を購入する為に花屋へと足を運ぶ。

グレイ達にとっては馴染みのある花屋であり、店員はグレイを見かけた瞬間驚いて鼻元を隠す素振りを見せた。

相変わらずの様子にグレイは苦笑いするも、目当ての肥料について店員に話しかける。


ミュスカとシャロンも後ろで苦笑いをしているが、苦笑いする要因は別にもあった。




「こちらは小振りですが、花束にすれば圧倒的な華やかさになります。シルク様にとてもお似合いです!」


「…とても綺麗ですね」



赤い薔薇の前ではしゃいでいるウィンと、その隣でシルクがじっと薔薇を見つめている。

ティピックは笑いながらミュスカ達に話しかけた。




「折角の君達の買い物に割り込むようになってしまって申し訳ないね、ウィン君がどうしてもシルク君と行動したいって聞かなくてさ」


「本当シルクの事が好きなんだなアイツ…」


「相当ですよね…仕事の時もそうなんですか?」


「いいや、仕事はちゃんと弁えて行動しているからあんな感じじゃないよ。寧ろ仕事で関わることがほとんどで、プライベートで関わるのはいつ振りか…本当に久しぶりだから、その反動だろうね」




ティピックは微笑ましそうにウィンとシルクの後ろ姿を眺める。

シルクは1本の薔薇をウィンから渡されると、大切そうに手に持っては薄っすらと微笑む。そんな様子にウィンは頬を紅潮させ、更に薔薇を持たせようと多くの薔薇の中から良さそうなものを選別しだす。勿論どれも赤いものだ。


シルクが他の花も見たいと言うと、ウィンは素直に従って別の花を選びだす。

しかしどれもやはり赤色のものを選択していた。



「赤色しか勧めてねぇじゃねぇか…寧ろ押し付けていないか?」


「ウィン君にとってシルク君のイメージカラーは赤色だって認識されちゃってるんだよねぇ、仕方が無いんだけどさ」


「何か理由があるんですか?」


「…君達、シルク君の仕事着を見たことはあるかい?」




シャロンとミュスカはシルクの仕事着、狐面に黒いローブの姿を思い浮かべる。

ミュスカに至っては仕事終わりの物騒な姿を目にしている為、思い出しては冷や汗を流した。


そこで、2人ははっとする。

ウィンがシルクに対して赤色をイメージカラーとしている理由は、もしや…と。


ティピックはくすくすと笑いながら言葉を続けた。





「ウィン君はシルク君とは仕事中に出会っていてね、その時の姿がとても印象的だったようなんだ。『真っ赤でとても綺麗だった』って言ってたのを覚えているよ」


「そ、そうなんですか…」



真っ赤とはどういった真っ赤なのか。

2人は口には出さず心の中で留めることにした。



そんな中、グレイが店員と話を終えてシルク達に近付いて行った。

シルクがグレイに気付くと、同時にウィンも振り向いては邪魔するなと言わんばかりにジト目を向けている。



「博士、目当ての物はありましたか?」


「あぁ、店員さんに聞いたら倉庫に仕舞ってあるから取ってくるってさ。シルクはどうだい、何か気になった花はある?」


「そうですね…」



シルクはきょろきょろと辺りの花を見回すと、とある花に視線を留めて手を伸ばした。

黄色いマリーゴールドを優しく撫でると、ウィンは驚きつつ焦った表情を浮かべた。



「もしかしてそちらの方がお気に召しましたか?申し訳ございません、気付かず他の物をお勧めしてしまって…」


「これ、ウィンさんに似合いそうです」



シルクはマリーゴールドを手に取りウィンの前にかざすと、納得したかのように小さく頷いた。

ウィンは一瞬固まり、恐る恐る目の前に出されたマリーゴールドを受け取る。




「これ買います」


「即決だねぇ」




見守っていたティピックは軽く吹き出し、シャロンとミュスカはぽかんとした表情をしていた。

ミュスカはファッションフロアにてシルクからネクタイをかざされたことを思い出し、相変わらず自分ではなく相手の似合いそうなものを選んでいることに苦笑いする。



「ちなみに僕にはどれが似合うと思う?」


「博士は…」




シルクは再び辺りを見回しながら花屋の中を歩いて行く。

ティピックは笑いが治まると目を細めてシルク達の様子を見つめ、ぽつりと呟くように近くにいるシャロンとミュスカに語り掛けた。




「…君達は、シルク君とどう関わりたいんだい?」


「どうって…」



突然の問いかけに2人は驚く。

ティピックは申し訳なさそうに笑ってから言葉を続けた。




「シルク君の体質について聞かされているくらいの仲なんだ、その事実を知った上で君達は今後、彼女とどう関わっていくつもりなんだろうと思ってね」




シルクは身体の成長が止まったまま何年もの長い時間を過ごしている。

自分だけが歳をとらず、周りは次々と年齢を重ねては最終的に朽ちていく。


これから先も長く関われば、最終的には別れがやってくる。

しかしその別れはどれも、シルクが皆を見送る結果となってしまうだろう。


ただ1人、時間が止まったまま。

取り残されたかのように、永遠と生きながらえたまま。



シャロンとミュスカは互いに視線を合わせては複雑な表情を浮かべる。

その後、先にシャロンが口を開いた。




「俺達はまだシルクとは出会ったばかりなんだ。シルクにもシルクなりの生き方があるだろうけど…シルクが困っているなら、その助けにはなりたいかな」



続いてミュスカも顔を上げて言葉を続ける。

迷った様子は無く、至って真剣な表情で。



「実際シルクさんはこれまで記憶が曖昧のまま過ごしていましたが、最近は記憶を思い出すようになっています。記憶をすべて思い出すことがシルクさんの為になるなら、僕達はその手助けをします」


「…それは君達にとって何か利点があるのかい?」



ティピックは静かに目を細めながら2人を交互に見つめる。

2人は利点という言葉を聞くときょとんとした表情をして、顔を見合わせた。




「困っている奴を助けるのに、具体的に理由がいるのか?」


「さぁ…?理由と言われましても…」




2人の素の反応にティピックは目を見開き、直後に再び笑いを堪えるように肩を震わせた。




(…シルク君が受け入れられたわけだ)




ティピックは軽く深呼吸してから、2人に軽く謝罪をしてふんわりと笑顔を浮かべる。

意図の読めない笑顔に対し2人は怪しむも、その直後に青いスターチスを手にドヤ顔で駆け寄ってきたグレイに気を取られ、考えることを放棄した。


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