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25. 気まずい空気

4人で食卓を囲み、それぞれ食事を食べ進めていく。

会話も無く沈黙が続き、カトラリーと皿の接触音がやけに大きく聞こえてしまう。


いつもならシャロンは早食いで既に半分以上食べ終えているところだが、今回は珍しく食事のペースが遅い。それをグレイは不思議に思いながら、ふとシャロンの視線の先…シルクの様子も伺う。



シルクはグレイの言う通り狐面を外しており、スカーフと黒いローブも着用していない。シンプルな白いシャツと黒いズボンの姿で静かに食事を摂っている。


ミュスカお手製の食事を黙々と食べているが、やはりいつもの無表情とは違って若干雰囲気が柔らかくなっている気がする。グレイはそう考えては、ミュスカの反応も気になり視線を移した。



対してミュスカはシルクの方を凝視したまま、カトラリーを中途半端な位置で固定している。全く食べていない訳では無いのだが、口元にカトラリーを運んでも途中で止まり、シルクの様子を伺う事に集中してしまっている。



「…2人ともどうしたんだい、何だからしくないね」



そう尋ねた瞬間、2人は明らかに動揺するように瞬きしては視線が泳ぐ。分かりやすいなと思いながらグレイは添えられたサラダをもしゃもしゃと頬張った。



「そんなに穴が開くほど見られたらシルクも困っちゃうでしょ、ねぇシルク」


「…はい?」



分かりやすい反応の2人に比べ、シルクは本当にぽかんとした様子でグレイの問いかけに反応した。

シルクは視線を気にするどころか考え事をしていたようだ。グレイはつい面白くなってしまい吹き出しそうになるのを堪える。



「すみません、考え事をしていました」


「ふふ…僕の方も急に話しかけてごめんね…っく」


「ちょっと先生、吹き出さないで下さいよ?」


「何やってんだよ先生」


「元はと言えば2人が発端だからね!?」



流石に変な沈黙が続くのは埒が明かないと、グレイは何かしらの話題を持ち掛けることにする。

普段なら研究や魔法植物についてを1人で語り、シャロンとミュスカそれぞれが偶に相槌を打って反応することがほとんどだ。

しかし今回はシルクもいることであり、昨日からやたらと2人が気になっていたことを話題に出してしまう。



「ところでシルク、仕事の方は順調だったのかい?」



その瞬間、シャロンとミュスカが同じタイミングで噎せた。

吹き出すなと言った本人が噎せている事にグレイは失礼ながらも笑い転げたくなり、ぷるぷると身体を震わせている。

周りが何とも不思議な光景となっている為、シルクは一瞬戸惑いながらも口内に含んでいる食事を咀嚼して静かに飲み込み、言葉を発した。



「はい、順調に終えました」


「どんな仕事内容だったか聞いても良い?」


「…今回は魔物討伐でした」




魔物討伐という言葉にシャロンの耳がピクリと動く。

ようやく噎せが落ち着いたミュスカも聞きとれたようで、軽く深呼吸してからシルクに問いかけた。



「…先生から少し話を伺ってるんですけど、シルクさんはそういう仕事に慣れているんですか?」


「はい、何度もやっているので」


「ちなみに今回討伐したのはどんな奴なんだ?」



シルクは少し考えるように視線を斜め上に向ける。

数さえ言わなければ今回のものは大丈夫だろうと結論付け、素直に名称を答えた。



「ブラックリザードマンです」



再び沈黙が訪れる。

シルクはあれ?と軽く頭を傾けて数秒考え込み、まさかやってしまったかと後悔し始める。



ブラックリザードマンは凶暴性が高く、危険な魔物として分類される。

しかし普段の魔法協会の依頼ボードでも見られるものであるため、言っても大丈夫だろうとシルクは考えていた。

しかし、一般的にブラックリザードマンを討伐するとなれば、1体でも数人で立ち向かわないと討伐は困難と言われている。


シルクの戦闘経験は計り知れず、戦闘レベルは並みの魔法使いや戦闘員とは比べられないレベルに達していた。その自覚が乏しいが故にか、素直に発言したことが周りに理解されないことが多々あった。



「た…大変だったでしょう」


「……はい」



一般的なら1体でも厳しいと言われるが、シルクは今回20体程討伐している。

確かに鱗を採るのは大変であったが、ミュスカの言っている大変の意味は違うのだろうなと考えると、自分がどれだけ周りからズレいているのかと現実を突きつけられるような感覚に襲われる。




「ちなみに今回は鱗を採ったりしなかったのかい?」



そんな中、グレイがわくわくした表情で問いかける。

実際には鱗だけでなく爪や牙も回収したのだが、全てティピックに引き渡しているため手元には無い。そもそも回収したこと自体を言っても良いのかシルクは困惑してしまう。


そんなシルクの様子を察したのか、グレイはムッとした表情でシャロンとミュスカに視線を移した。




「もう、2人が怪しむような視線を向けるからシルクが言いにくくなってるじゃないか」


「あ、怪しむだなんて…えっと」




実際怪しんでいることは否定できない為、ミュスカは途中で口籠ってしまう。シャロンも図星なのか視線をわざとらしく斜め上に向けてしまう。


シルクは軽く視線を落とし、静かに深呼吸してから顔を上げる。




「ごめんなさい、もうお腹が一杯になってしまって…また後で頂いても良いですか」


「あ……はい、大丈夫です」


「…ご馳走様でした」





シルクは申し訳なさそうな表情のまま軽く会釈し、振り返らずに部屋から出て行ってしまう。

残った3人はそれぞれ顔を見合わせるが、グレイはジト目で2人を交互に見ていた。



「流石に怪しみ過ぎじゃないかい、ずっと怪しむ視線を向けられたら誰だって居辛くなるだろう」


「…すまねぇ」


「謝る相手は僕じゃないでしょ~…よし、一旦食べ終わったら研究室に集合!」


「研究室に…?」



突然のグレイの提案に2人は首を傾げる。

気まずい空気が流れるのも束の間、グレイは再びサラダをもしゃもしゃと食べだした。

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