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23. 暗い心境

緑が生い茂る暗い森の奥。

空に浮かんでいるはずの月は雲に隠れてしまい、辺りの暗さがより強調される。

そんな中をシルクは静かに歩く。黒いローブを着用しているため、暗闇の中に溶け込むようにして前へと進んでいく。


目的の場所へと近付き、目の前は崖。

姿勢を低くして静かに崖の下を覗き見れば、下にはぽっかりと穴が開いたように空洞ができており、その場所で何体もの魔物が潜んでいた。


今回シルクが討伐する魔物は夜行性では無い為、夜間は基本大人しくしている。しかしそれは周りに敵がいないことを前提として。敵とみなす者が現れればすぐさま襲い掛かる凶暴性の高い魔物だ。



シルクは依頼書の入った封筒を取り出し、シーリングスタンプを丁寧に外す。

魔物の写真、魔物についての簡単な説明、討伐数が記された依頼書を出す。改めて魔物の様子を伺い、写真と同様の魔物であることを確認すると、シルクは一度深く深呼吸する。


依頼書の中心に薄っすらと花の文様が描かれたことを確認し、再び封筒の中に仕舞い込んだ。




「…目標を確認」




右手の中指にはめている指輪がキラリと光る。

シルクは崖の上から一歩踏み出し、そのまま真下へと向かって落下した。


狐面の目元から光る鋭い眼光を魔物に向けながら。





魔物の怒号、叫び声が辺りに響き渡った。





―――

――



数時間後、シルクは崖の上で再び封筒を取り出しては依頼書を開く。

依頼書の中心に描かれていた文様は濃くなり、シーリングスタンプに描かれているものと同じ花が描かれた。

これは依頼を達成した時に表示される証のようなものである。



「無事完了…っと」



シルクはスマートフォンを取り出すと、新着メッセージが表示されていることに気付いた。

昨日連絡先を交換したばかりのグレイからであり、数件のメッセージが送られてきている。


しかしシルクはまずは仕事を優先せねばとそのメッセージは開かず、少ない連絡先の中からティピックを選択する。


依頼が完了した旨を送れば、直ぐに既読が付き返信が来た。



『お疲れ様。素材も楽しみに待っているよ』



シルクの横には魔物から回収した爪や牙、鱗が綺麗に積まれている。

そして、シルクの背後の更に下…崖の下では何体もの魔物がピクリとも動かず積み重なっていた。


討伐された魔物は専門の者達によって回収される。

更に素材として活用されるのか、食用として解体されるのか、完全に焼却もしくは浄化されるのかは、魔物の状態や性質によって手段が分かれる。


絶命した状態で時間が経った魔物から得られる素材は、生きた状態で得られる素材に比べて品質が悪くなる。そのため大抵の場合は食用に回されるか焼却、浄化の対象となる。



専門の者達への手配はティピックにより行われるため、シルクにとっての残りの仕事は素材を持ち帰ってティピックに確認を得ることだ。その後報酬を貰えば仕事は完了である。




ティピックとの連絡を終え、続いてグレイからのメッセージを確認する。



『仕事は順調に終わりそうかい?』


『シャロンとミュスカったら、君の事が気になって仕方が無いみたいでねぇ』


『良ければ帰った後にまた話を聞かせてくれよ。僕も君の仕事について詳しく聞いてみたいし、また魔法植物についての意見が聞きたいな』




メッセージを読み終わり、シルクは狐面の下で複雑そうな表情をする。


(…何処まで話せば良いのやら)




魔法協会に留まらず、特別なルートを辿って仕事をこなしている為、中には表には言えない内容の依頼も引き受けることがある。

魔法の素材集めや魔物討伐については魔法協会でも扱われているため問題ないが、ティピックから引き受ける依頼は魔法協会で貼り出されているものとは性質が異なっている。


幾多もの挑戦がある中達成されなかったもの、表では開示できない内容のもの、敢えて依頼主から指名されるもの。そういった特殊な依頼をティピックが回収し、仕事を振り分けている。


更にシルクは個人活動として依頼をこなしている為、仕事内容を詳しく話したところで、ほとんどの者からは作り話じゃないかと疑われやすい。



しかし大掃除の際、グレイがあまりにも研究熱心で熱く語っている様子を見てシルクは絆されてしまい、つい仕事内容について軽く話してしまった。

本当のことを話したところで嘘だと馬鹿にされる。以前のシルクならそう考えて話をはぐらかしていただろう。しかしグレイの前ではつい話してしまった。ドラゴンの鱗を回収したという話を。



その時グレイから半信半疑の視線を向けられたが、完全に否定されることは無かった。

魔法植物に関する話題の方が関心が強かったが、どの話も1つ1つ頷きながら聞いていた。


グレイは多少なりとも話の内容を受け入れてくれたが、シャロンとミュスカはどうだろうか。

癖の強いグレイと比べて2人はまともな考えを持っているが、実際シルクの事を疑うような目で見ていることも事実。

2人には話したところで真っ先に嘘だと否定されるのではと不安な気持ちが渦巻き出す。



軽く深呼吸し、数秒目を閉じた後にゆっくりと見開く。

そして自分に心の中で言い聞かせる。


”当たり障りのない関係で過ごせば良い”と。




グレイに一言返信し、スマートフォンをポケットに仕舞う。

ポシェットから大きめの麻袋を取り出すと、横に積み重ねられた素材を魔法で浮かせて麻袋に詰め込む。

天口を大きく開けたポシェットに麻袋を突っ込み、そのままするりと収まった。



ふわりと浮かせた箒に跨り、シルクはその場を去った。


空は未だ暗く、闇に溶け込むように黒いローブが空中を靡いた。


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