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20. 探り

昼食を摂ってから数時間経った。

シルクは自室で窓から見える景色をぼんやりと眺めながら時間を潰していたが、椅子から立ち上がると机に置いていたポシェットに手を伸ばす。


簡単に身支度を整えると直ぐに自室から出て、玄関へと向かうために階段を下りていく。

二階から更に下りる途中、偶々二階へと上がろうとしているシャロンと遭遇する。



シャロンは目を見開いて身構えるかのように動きを止めた。

現在、シルクは狐面とスカーフを着用した上にフードを被っている状態である。



「あれ、もしかしてこれから出かけるのかい?」



そこに丁度グレイが通りがかり、シャロンとは違いいつも通りの様子で声をかける。

グレイの手には他の部屋から取り出したであろう実験道具らしきものが握られていた。



「はい…魔法協会で依頼を確認してきます」


「了解、今からとなると帰りは遅くなりそうだけど、何時くらいになりそう?」


「…そのまま依頼を受ける予定なので、早くて明日の昼頃になるかと」


「分かった、何かあったら連絡してね~」



そう言ってグレイはそのまま研究室に戻ろうと足を進める。

シルクは階段の途中で固まっているシャロンに軽く会釈をしてから、そのまま一階へと下りて行った。


シャロンは突然の状況に混乱を覚えるも、シルクの姿が見えなくなってからハッとして直ぐに研究室に向かった。




「おいグレイ!さっきの人は本当にシルクなのかよ!?」


「ぅわっ!…驚かさないでくれよ、一体何事だい?」



勢いよく扉を開けられた上に唐突な問い掛けをされてグレイは肩を軽く跳ね上がらせる。

そして問い掛けに対して数秒瞬きをした後、あぁ、と納得したかのように声を漏らした。



「そういえばシルクのあの姿を見るのは初めてなんだっけ。シルクは普段からあの恰好みたいだよ、初めて会った時は僕も驚いたなぁ」


「…一瞬不審者かと思った」



シャロンは最初不審者かと思い身構えてしまったが、グレイの様子やシルクの声がしたことで身体の強張りが解けて安堵の息を漏らした。しかし普段からあのような格好をしていると知り、シルクに対する謎が更に増えてしまう。


そして、先程の会話の内容を思い出してはハッとした表情を浮かべた。




「さっき魔法協会って言ってたけど、此処から近い場所で言えば…セイボリーだよな?」



此処は都心からは遠く離れた場所に経っている住居。

都心に向かうには交通機関を使用する必要があるのだが、その乗り場へと向かうにも距離があり、徒歩で時間を要する。


その都心とまではいかないが、程良く賑わいがあるセイボリーという都市がある。

セイボリーに向かうにも、やはり交通機関の使用は必須である。



「しかもそのまま仕事をして、早くて昼頃ってことは帰ってくる時間がほぼ未定ってことだよな?」


「そうなるねぇ」


「…もしかして、シルクって普段から仕事ばかりしてるってことは」


「あぁ、そんな感じの事を言ってた気がする」



シャロンはがくりと肩を落とすように溜息をつく。

シルクについて知るために話の時間を設けたいと言っていた矢先にこの事実。これからも仕事の為にと不在の時間が増えてしまえば、話す時間を設けるタイミングが難しくなてしまう。知りたいことが知れないまま時間が過ぎてしまうかもしれない。



「そんなに落ち込まなくても、話せる時間はいつか必ずできるさ」


「そう呑気に言うなよ…先生はシルクの正体とか気にならねぇの?」


「正体、ねぇ…」



グレイは頭上に視線を移して考える素振りを見せてから、いつものようにへらりと笑いながら答える。



「初見で相当不自然で怪しい人だったら警戒するけどさ、シルクはそんな怪しい人には見えないんだよね。今はまだ此処に来て間もないんだし、少しずつ分かっていけば良いんじゃないかって思うんだ」


「初めて会った時にあの恰好だったなら、怪しい奴って判断したはずだろ」


「シルクは素直だから。本当に怪しい奴なら何かしら言い訳をついて素顔を晒したりしないよ。寧ろ僕は当初面白い人が来るんだろうなってワクワクしてたし?」


「…そうだな、先生はそういう奴だったな」



呆れた表情で研究室を後にしようとシャロンは振り返る。

シルクについてはまたタイミングが合った時に知るしかない、それに何かあったら連絡があるのだろう…と、そこまで考えたところでシャロンは1つの違和感を覚える。




「…なぁ先生、シルクの連絡先知ってるのか?」


「知ってるよ、昨日連絡先を交換したから」



そう言いながらグレイはズボンのポケットからスマートフォンを取り出して軽く振る。

さり気なく連絡先を交換し終わっている事に衝撃をうけるも、シャロンは更にとある可能性を脳内に巡らせた。



「先生って昨日の大掃除の最中とか、シルクと何かしら話したりしたか?」


「そうだねぇ…研究のことと、色んな魔法植物の事を話したね。仕事関連で魔法植物にも触れることがよくあるみたいで、興味深い話があって面白かったよ。掃除が無かったらもっと色んな魔法植物の事を話せてたんだろうなぁ」



グレイは恍惚とした表情を浮かべていたが、シャロンがずいと近付いてきたことで目を軽く見開いて頭上に疑問符を浮かべる。



「魔法植物以外のことで、何か話していなかったか?」


「えぇ…と?魔法植物以外は…普段の仕事内容を少し聞いたくらいだけど」


「それだ!!」




グレイは突然の問い掛けに疑問を浮かべるのに対し、シャロンは希望を見つけたかのような表情をする。


直接本人から正体を聞き出せずににいたが、その本人から正体の鍵になり得る話を聞き出せている者がシャロンの目の前にいるのだから。



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