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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第一章:謎多き魔法使い
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21. とある依頼

 夕陽が沈み、橙色の夕焼けが少しずつ暗い色に染まろうとしている。

 そんな中、シルクは跨っていた箒から降りて地面に着地する。

 建物の物陰から少し顔を覗かせて辺りを見渡し、更に深くフードを被ってから足を進める。


 多くの人々で賑わう都市、セイボリー。

 夜が近くなっていても人通りはそれなりにあり、人々の合間をすり抜けるようにシルクは歩いて行く。


 深くフードを被って素性を見せないようにしている人物がいれば、傍から見れば怪しむ人がいてもおかしくはないだろう。

 しかし誰も気に留めず過ぎ去っていく人々ばかり。


 それもそうである。

 現在のシルクは()()()()()()()()()も当然なのだから。




 目的の場所に辿り着き、扉を開けて中に入ればフードを脱ぐ。それでも周りに素性が露わになる事は無い。

 目元は狐面で、口元はストールをぐるぐる巻きにして覆われている状態。

 それでも中にいる人々はそんなシルクの状態を気に留めることは無い。寧ろ未だに存在に気付いていない。



 現在シルクがいる建物は魔法協会。魔力を宿す様々な者が行き来する場だ。

 大きなボードには多くの用紙が貼り付けられており、これらは全て依頼書になる。

 魔法素材の招集、魔物討伐、お尋ね者などの様々な依頼が集まっている。


 そんなボードの前を通り抜け、更に奥にある扉の前で立ち止まる。

 ドアノブの真下を三回、間を開けて二回叩いてからドアノブに手をかけて軽く捻る。


 扉の先は地下へと続く階段が続いていた。



 階段を下りると再び扉が現れる。

 その扉を開ける前に、シルクはポシェットから透明の液体が入ったスプレー式の小瓶を取り出し、自らに向かって一回吹き掛ける。

 霧吹きのように吹き掛けられたミストはふわりとシルクを包むように纏い、数秒で空中で消える。


 ミストが消えたのを確認してから扉を開ければ、目の前には人々で賑わっていた一階とは違い、小綺麗に整えられさっぱりとした空間が広がる。


 シルクは狐面を外し、ポシェットの中にしまい込んだ。




「シルク様、お待ちしてました」



 シルクの存在に気付いたスーツ姿の女性が声をかける。

 背筋を伸ばし洗練された立ち振る舞いに、シルクも自然と背筋を伸ばして歩を進めた。




「お久しぶりです。しばらく間を空けてしまってすみません」


「お気になさらないで下さい。新たな住居探しに忙しくされていたのですから…今回はどうでしたか?」


「まだ入ったばかりですけど、恐らく大丈夫かと」



 軽く話しながらスーツ姿の女性についていく。

 案内された先にはロッキングチェアに腰かけている人物がいる。

 その人物はシルクに気が付くと顔を上げ、手に持っていた書類を仕事机に置いた。




「やぁシルク君、丁度君に頼みたい仕事について目を通していたところだ」


「お疲れ様です、ティピックさん」



 ティピックと呼ばれる男性は早速書類をシルクの目の前に差し出す。

 浮遊魔法によりふわりと浮かび、目の前で止まった書類をシルクは手に持ち、内容を確認する。




「まーた魔物が余計に増えているみたいなんだよねぇ。自然に交配して増えすぎてしまったのか、何かしら良からぬ事を企んでいる者が無理矢理増やしたのか…詳しい事は専門的なとこで調査中だけどねぇ」



 ティピックは最後に欠伸をしながら軽く腕を伸ばし、設置されている窓から外の景色を眺める。


 地下であるはずのこの場所で、何故窓からの景色を眺めるのか。

 答えは単純、外の景色が広がっているからだ。



 魔法協会にてシルクが通った扉は魔法の扉。

 何も手順を踏まずに扉を開ければ、その先は魔法協会の事務所であり、事務員が依頼書の手続きや整理を進めている空間が広がっている。

 しかし、とある条件が満たされる事で特別な魔法が発動され、全く別の場所へと繋がる扉へと変化する。

 今回シルクはその条件を満たす為の手順を踏んだ事で、ティピック達のいる事務所へと辿り着いたのである。



 窓から見える景色にシルクもふと視線を移す。

 橙や紫のグラデーションが目立つ空を背景に、立派に建てられた城が見えている。




「取り敢えず、シルク君には増えすぎた魔物の排除を願いたい。凶暴性のある魔物だが、君なら大丈夫だろう」


「承知しました」


「社長、シルク様をあまりこき使い過ぎないで下さいよ」


「こき使っている訳では無いよウィン君、相変わらずシルク君の事が好きだねぇ」


「シルク様は私の恩人ですから。本来なら無理はさせたくありませんし、危険な目に遭わせるのも不本意です」



 ウィンと呼ばれるスーツ姿の女性はティピックの秘書をしている。

 現在秘書として仕事をしているのはシルクと出会ったのがキッカケでもあるのはまた別のお話し。

 勿論社長であるティピックに対しても敬意はあるが、感謝の思いはシルクへの方が圧倒的に強い。


 ジト目になっているウィンに対し、シルクは安心させるように声をかけた。




「お心遣いありがとうございます、ウィンさん。無事にやり遂げますから、私は大丈夫ですよ」



 シルクは一瞬優しい表情を浮かばせ、ウィンは更に続けようとしていた言葉をぐっと飲み込んだ。

 ティピックはくすりと笑い、そのまま軽く指を振る。


 シルクの手元にある依頼書が光ると、封筒に包まれた状態に変化する。

 中心の黒いシーリングスタンプには薄っすらと花の絵が描かれた。



「場所は依頼書に書かれた通りだ、検討を祈るよ」


「はい…ところで」



 シルクはとある質問を投げかける。

 依頼書には書かれていない内容であり、あくまでも念の為に。




「今回の魔物は素材の対象になりますか?」


「…ちょっと待っててくれ」



 ティピックはファイリングされた分厚い書類を取り出し、パラパラと捲ってはとある頁で手を止める。

 今回シルクが討伐する魔物についての具体的な内容が書き記されており、数秒その内容を確認してから、ティピックは軽く口角を上げた。




「爪と牙が十本ずつ、鱗が二十枚程あれば十分な素材として扱われるね。だが今回はあくまでも討伐がメイン…運が良ければで構わないよ」


「承知しました」




 シルクはお辞儀をして振り返り、狐面を着用してから首元のストールをぐいと口元を隠すように上げ、扉の前で立ち止まる。

 ドアノブの下を二回、間を開けて三回叩いてから扉を開ける。


 扉を開ければ上へと続く階段が目の前に現れる。

 階段を上り、元来た魔法協会へと続く扉の前で立ち止まると、ポシェットからスプレー式の小瓶を取り出す。今回の小瓶の中には黒い液体が入っている。



 シルクは自らにスプレーを噴射すると、ミストがシルクの身体を包んでいく。

 ミストが消えたのを確認してから扉を開き、そのまま魔法協会の中を進んで外へと向かった。

 その間数人とすれ違うも、誰もシルクの姿に気付かず通り過ぎる。


 再び存在感を消しているかのような状態で、シルクはそのまま人通りの中を歩いて行った。




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