182. 不満の積み重ね
ある日の昼下がり。
魔法防衛省にて、とある男が不服そうに眉間に皺を寄せて一枚の書類を手にしていた。
その書類は感謝状であり、氏名欄には”ペーシェ・フレッチェ様”と書かれている。
「あの見つけるのに難儀していた指名手配犯を捕まえるとは、流石だなペーシェ」
「はは…どうも」
「どうしたんだよ、誇らしいことなんだからもっと喜んでも良いんじゃないか。調子に乗りすぎる程自慢してきそうなのに」
上司であるカネルと同僚のレザンから称賛の言葉をかけられるが、それでもペーシェは不満気に返事をしながら手にしている感謝状を見つめる。
以前ペーシェは休暇の日に王都で買い物などしながら時間を潰していたのだが、つい癖で怪しい魔力の流れを察知してしまい、人通りの少ない裏通りに足を踏み入れた。
そこに怪しい人物がおり、魔法を連発している様子を目撃したことから不審者だと判断し、手持ちにあった非常時用のカラーボールを投げつけたのだ。
ただ、その場にいた女性がシルクであったことや、途中でティピックも現れては別の男をボロボロにした状態でその場に出現させたりと、ペーシェにとってツッコミどころがありすぎる展開となってしまう。
最終的には後始末を押し付けられてしまい、ペーシェは当初は仕方が無いかと気絶した怪しい人物達を横目に魔法警察へと連絡を入れ、無事怪しい人物達は連行された。
その後、怪しい人物達は指名手配されている誘拐犯であったことが発覚する。
カラーボールを投げつけたのはペーシェなのだが、拘束や強い衝撃をぶつけるような攻撃はティピックによるものである。
それにも関わらず、その場にシルクとティピックがいなかったことでどれもペーシェの功績となってしまった。
せめて誘拐犯達の意識があれば変わっていたのかもしれないが、目立ちたくないからと笑顔で言い放ったティピックのことである為、上手い具合にでっち上げて結局ペーシェに押し付けていたに違いない。
そんなこんなで、ペーシェのもとに感謝状が届いてしまう。
誘拐犯が捕まったのは良しとしよう、だがこれは正直言って自分の功績とは言えない。
ペーシェの中では納得いかず、今こうして不機嫌モードとなっているのである。
「その誘拐犯確保については少し話を聞いたぞ。的確な一撃を食らわしたとか…日頃の鍛錬が役立ったな」
カネルの言葉に対し、それはあの社長さんの仕業ですけどねとペーシェは心の中で呟く。
実際に口にしたいのに言えないのがどうももどかしくて堪らない。
「はぁ~…あ~もう!モヤモヤしてどうにかなっちゃいそう!甘いもの食べて発散したい~!!」
「おいおい、ぺーシェはこれから討伐依頼があるだろ」
「勿論依頼を終わらせてから!…あ、そうだ。レザンって明日僕と同じで休みだよね?」
ペーシェはずいとレザンの方へ前のめりとなり、レザンはつい驚くように目を丸くさせる。
「食べ放題をやってる洋菓子店があるんだけど、二人以上の入店で限定商品が食べられるシステムになってるんだよね。レザンも一緒に行こうよ!」
「え…俺が!?」
レザンは引き攣った表情を浮かべ、その後気まずそうに視線を泳がせてしまう。
そんな様子を前に、ぺーシェは再びむっとした表情になってしまう。
「なんだよ〜レザン、何か言いたいことあるならはっきり言いなよ」
「えっと、その…」
レザンは視線をそらせたまま、少しずつ気恥しそうに顔を赤らめていく。
近くで話を聞いていたカネルは察してしまい、苦笑いを浮かべた。
「洋菓子店ってことは…女性客が多いとこってことに、なるよな…?」
ぺーシェは不機嫌な表情から呆れたようなジト目に切り替わる。
レザンは女性の耐性が無さすぎであり、未だに女性と目を見ながら話すことはできていない。
これまでにシルクと話す機会もあったのだが、やはり視線を逸らしたままの対話となっていた。
隣に近付くといった至近距離になることも慣れておらず、顔を真っ赤にさせて固まってしまう程である。
一人や二人といった少人数ならまだ耐えられる方だが、大人数となると完全に身動きが取れなくなってしまうだろう。
「もぉーッ!!いつまでもウジウジしてないで、いい加減慣れなよ!そもそもこっちから話しかけに行く訳じゃないんだから、一々気にし過ぎなんだよ!」
「待ってくれ、話しかけないにしても周りに何人もいると思ったら…!ぺーシェの選ぶ店って何処も人気で混雑するところだろ!」
「落ち着けよ二人とも…その店も女性ばかりとは限らないんじゃないか?」
「…この前隊長言ってたじゃないですか。洋菓子店に行った時に周りは女性客ばかりだったって」
「あぁ…あれは偶々だろ」
レザンの返答にカネルは苦笑いを浮かべながら視線を逸らす。
ぺーシェはふくれっ面になってレザンを睨むが、その後諦めたように肩を落としながら溜息をついた。
「はぁ〜…とりあえず先に討伐に行ってくるよ。言っておくけどまだ諦めた訳じゃないからね、戻ってきたらまた聞くから!」
そうしてぺーシェは会議室を後にして討伐へと向かってしまう。
残されたレザンは脱力するようにテーブルに突っ伏し、カネルは参ったなと肩を竦めさせた。
「ありゃ甘いものをヤケ食いしないと機嫌が直らないやつだな…」
「それは分かっていますけど、俺以外でも良いじゃないですか」
「明日の休みは二人だけだからな…。ぺーシェの考えが変わらない限り、覚悟した方が良いだろう」
「そんなぁ…」
レザンはそのまま項垂れながら、ぺーシェの気が変わることを祈るのであった。




