181. 小さかったものたちの思い
明るい部屋で、私達は人を待ってる。
薄暗い施設でいた白い人達とは違って、安心できる人。
初めて会った時は少し怖かったけど、大きいお姉ちゃんが安心して大丈夫って言ってたし、話すと怖い人じゃないって思えた。
今いる部屋は、私達の為にって準備してくれた部屋。
テーブル、椅子、ベッド、棚。
これくらいしかないけどって言われたけど、私達にとっては十分なもの。
植物が入った小瓶とかは無いけど、シルクの部屋に少し似ていて嬉しい。
「レイアちゃん、レイナちゃん。入っても良いかしら?」
扉が開いて、エプロンをつけた人が入ってくる。
この人が私達が来るのを待ってた人、此処の施設長をしてるって大きいお姉ちゃんが言ってた。
「おはようございます」
「おはよう、今日もとても良い天気ね。…此処の生活には慣れてきた?」
「…少し、緊張残ってる」
「レイアちゃんとレイナちゃんのペースで大丈夫だからね」
名前を呼ばれると、不思議と胸がポカポカする。
87番、88番って呼ばれていた時には感じなかった感覚。
お母さんとお父さんがつけてくれた、私達の大切な名前。
「もうすぐ朝ごはんができるから、レイアちゃんとレイナちゃんも一緒に食べましょう」
「うん…あ、ちょっと待って」
「髪くくってから」
「ふふ、素敵なシュシュね」
テーブルに置いてる黒いシュシュを手に取って、互いに髪をまとめる。
シルクが私達の為にって作ってくれた、リボンのついたシュシュ。
シルクの匂いがして凄く安心する。
本当はシルクとお揃いのくくり方にしたいけど、私達の方が髪が長いから思うようにいかない。
でもこの白い髪は気に入ってる。
お母さんとお父さんと同じ髪の色。シルクが綺麗だねって褒めてくれた髪。
もう無理矢理切られたり、乱暴に掴まれたりすることは無いから安心。
髪をくくり終えて、施設長と一緒に部屋を出る。
そのまま広い部屋に向かうと、既に何人か椅子に座ってた。
皆私達と同じ獣人族で、一緒に怖い施設に閉じ込められてた人達。
まだ半分以上は人の姿に戻れていないみたいだけど、昨日より人の姿が多い。
「レイア、レイナ!こっちこっち!」
明るい声で私達の名前を呼ぶ子は兎の獣人で、長い耳が横に垂れ下がってる。
怖い施設で同じ部屋にいた子で、人の姿を見るのは本当に久しぶり。
皆少しずつ元に戻ってきてる。嬉しい。
「今日の朝ごはんのメニュー、オムレツがあるんだって。楽しみだなぁ~」
「オムレツ…!」
此処のご飯は美味しい。
味が苦手な野菜も出てくるけど、好き嫌いしたら大きくなれないってミュスカから言われた。
ミュスカの作るご飯も美味しかった、また食べたいな。
朝食が終わると、部屋に戻って絵本を読む。
図書室に沢山の本があって、皆好きな本を取っていく。
文字ばっかりの本は難しくて、気が付いたら眠くなっちゃうけど、絵本は楽しくてどんどん読んじゃう。
シルクは難しい文字の大きな本を読んでた。
どんな本なのか聞いたら、いろんな魔法について書かれた本だって言ってた。
私達もシルクみたいに沢山魔法を使えるようになりたい。
読み終わった絵本を図書室に戻してから、おもちゃが沢山ある部屋に行く。
おもちゃの中にトランプを見つけて、手に取る。
シャロンと一緒にトランプで沢山遊んだ。
ババ抜き、神経衰弱、七並べ、ハイ&ロー。
トランプだけでいろんな遊びができるの面白かった。
その後昼食を済ませて、時間が来るまで部屋で待つ。
今日は週に一回の検査の日。
緊張するけど、痛いことはされないから大丈夫。
魔力量を測って、それを元に魔力の特訓メニューが組まれる。
昨日は物を浮かせる魔法が少し上達したって褒められた。
シルクやグレイみたいに、長い時間物を浮かせるようになりたい。頑張る。
部屋に検査の人がやって来る。
おでこに機械がかざされて、機械から小さく音が鳴る。
「先週よりも数値が上がってるね。増えすぎず少なすぎずの丁度良い数値だから…このポーションが良いかな」
検査の人が鞄から小瓶を取り出す。
魔力が含まれたポーションで、毎日一つずつ飲むようにしてる。
数値が今より安定したら、飲む回数が減るって教えて貰った。
他の子達は一日に三つも飲んでたり、濃度が濃いものを飲んでたりしてる。
人の姿に戻れてない子達は、もっと厳密に時間を守ってポーションを飲んでる。
シルクが私達にポーションを飲ませてくれた時も、少しずつ時間をかけてた。
「前回のものよりも薄めたものだから、苦味は少しマシになっていると思うよ」
「…少し」
苦いものは正直苦手。
グレイが作ってくれた魔力ポーションはあまり苦くなかった。
「僕は魔法薬学研究者の天才だよ」って言ってたし、天才になると味の調整ができるのかな。
「それじゃあ明日からは新しい特訓メニューを追加しよう。このメニューは君達が別々に行動することになるけど、まずは短い時間で初めて、少しずつ時間を伸ばしていこうか」
「…頑張る」
私達はいつも一緒にいた。
怖い施設でいた時も、ずっと二人で一緒。
少し離されることはあっても、部屋が別々になることは無かった。
初めて離れて行動したのは、シルクと黒いお兄ちゃんと一緒にいた時だった。
レイアがシルクと、レイナが黒いお兄ちゃんと。
別々で行動するよって言われた時は嫌だったけど、不思議な感覚があった。
何て言えば良いんだろう。
今見ている景色とは違った、別の景色が頭の中に入り込んでくるような、変な感じ。
シルクと一緒にいたのに、黒いお兄ちゃんの横顔が見えた。
黒いお兄ちゃんと一緒にいたのに、シルクの横顔が見えた。
でも、シルクの匂いや温もりは一緒にいないと分からなかった。
この不思議な感覚が何なのかは、まだ分からない。
「それじゃあ今日はこれでおしまい、また明日ね」
「ありがとう」
「また明日」
検査の人が部屋を出る。
部屋の中が静かになってから、ふとテーブルの上に置いている鞄を見る。
シルクとグレイが作ってくれた、シロツメクサの冠。
長持ちするようにってシルクが保存魔法をかけてくれた。
でもいずれは枯れてしまうって言われた。
枯れて無くなっちゃうのは悲しいけど、枯れることは悪いことばかりじゃないってシルクが教えてくれた。
私達が作ったシロツメクサの冠は、シルクとグレイに贈った。
二人とも喜んでくれて、凄く嬉しかった。
長い縄は魔法薬としてぐつぐつに煮ちゃったって言ってたけど、冠は部屋に保管してるみたい。
シルクは部屋の扉に飾ってて、優しく撫でてたのを覚えてる。
シルクはいつも私達を優しく撫でてくれた。
あの温もりが恋しくなるけど、私達、頑張るって決めたから。
それに、また会えるって言ってくれたから。
また皆と会える時には、沢山魔法を使えるようになるんだ。
大きくなったねって、いっぱい頑張ったんだねって、温かい手で頭を撫でてもらうんだ。
いっぱいいっぱい、ぎゅーって抱き締めてもらうんだ。
「一緒に頑張ろ」
「うん、頑張ろ」
互いの小指を絡めて、きゅっと優しく力を込める。
シルクが教えてくれた、約束を交わす時のおまじない。
窓から差し込む太陽の光が眩しい。
朝起きた時よりも高いところに太陽があって、綺麗な青空。とても良い天気。
庭では何人かがボール遊びをしてる。
そのうちの一人が私達に気付いて、大きく手を振ってくれた。
一緒に遊ぼうって口を動かしてる。
「行こっか」
「行こう」
私達は部屋を出て、庭へと向かう。
眩しい太陽の光が私達を照らす。
とても温かくて、嬉しい気持ちになった。




