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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第七章:邂逅
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181. 小さかったものたちの思い

 明るい部屋で、私達は人を待ってる。

 薄暗い施設でいた白い人達とは違って、安心できる人。


 初めて会った時は少し怖かったけど、大きいお姉ちゃんが安心して大丈夫って言ってたし、話すと怖い人じゃないって思えた。



 今いる部屋は、私達の為にって準備してくれた部屋。

 テーブル、椅子、ベッド、棚。

 これくらいしかないけどって言われたけど、私達にとっては十分なもの。

 植物が入った小瓶とかは無いけど、シルクの部屋に少し似ていて嬉しい。



「レイアちゃん、レイナちゃん。入っても良いかしら?」



 扉が開いて、エプロンをつけた人が入ってくる。

 この人が私達が来るのを待ってた人、此処の施設長をしてるって大きいお姉ちゃんが言ってた。



「おはようございます」


「おはよう、今日もとても良い天気ね。…此処の生活には慣れてきた?」


「…少し、緊張残ってる」


「レイアちゃんとレイナちゃんのペースで大丈夫だからね」



 名前を呼ばれると、不思議と胸がポカポカする。

 87番、88番って呼ばれていた時には感じなかった感覚。

 お母さんとお父さんがつけてくれた、私達の大切な名前。



「もうすぐ朝ごはんができるから、レイアちゃんとレイナちゃんも一緒に食べましょう」


「うん…あ、ちょっと待って」


「髪くくってから」


「ふふ、素敵なシュシュね」



 テーブルに置いてる黒いシュシュを手に取って、互いに髪をまとめる。

 シルクが私達の為にって作ってくれた、リボンのついたシュシュ。

 シルクの匂いがして凄く安心する。


 本当はシルクとお揃いのくくり方にしたいけど、私達の方が髪が長いから思うようにいかない。

 でもこの白い髪は気に入ってる。

 お母さんとお父さんと同じ髪の色。シルクが綺麗だねって褒めてくれた髪。

 もう無理矢理切られたり、乱暴に掴まれたりすることは無いから安心。



 髪をくくり終えて、施設長と一緒に部屋を出る。

 そのまま広い部屋に向かうと、既に何人か椅子に座ってた。


 皆私達と同じ獣人族で、一緒に怖い施設に閉じ込められてた人達。

 まだ半分以上は人の姿に戻れていないみたいだけど、昨日より人の姿が多い。



「レイア、レイナ!こっちこっち!」



 明るい声で私達の名前を呼ぶ子は兎の獣人で、長い耳が横に垂れ下がってる。

 怖い施設で同じ部屋にいた子で、人の姿を見るのは本当に久しぶり。

 皆少しずつ元に戻ってきてる。嬉しい。



「今日の朝ごはんのメニュー、オムレツがあるんだって。楽しみだなぁ~」


「オムレツ…!」



 此処のご飯は美味しい。

 味が苦手な野菜も出てくるけど、好き嫌いしたら大きくなれないってミュスカから言われた。

 ミュスカの作るご飯も美味しかった、また食べたいな。




 朝食が終わると、部屋に戻って絵本を読む。

 図書室に沢山の本があって、皆好きな本を取っていく。

 文字ばっかりの本は難しくて、気が付いたら眠くなっちゃうけど、絵本は楽しくてどんどん読んじゃう。


 シルクは難しい文字の大きな本を読んでた。

 どんな本なのか聞いたら、いろんな魔法について書かれた本だって言ってた。

 私達もシルクみたいに沢山魔法を使えるようになりたい。



 読み終わった絵本を図書室に戻してから、おもちゃが沢山ある部屋に行く。

 おもちゃの中にトランプを見つけて、手に取る。


 シャロンと一緒にトランプで沢山遊んだ。

 ババ抜き、神経衰弱、七並べ、ハイ&ロー。

 トランプだけでいろんな遊びができるの面白かった。




 その後昼食を済ませて、時間が来るまで部屋で待つ。

 今日は週に一回の検査の日。

 緊張するけど、痛いことはされないから大丈夫。


 魔力量を測って、それを元に魔力の特訓メニューが組まれる。

 昨日は物を浮かせる魔法が少し上達したって褒められた。

 シルクやグレイみたいに、長い時間物を浮かせるようになりたい。頑張る。



 部屋に検査の人がやって来る。

 おでこに機械がかざされて、機械から小さく音が鳴る。



「先週よりも数値が上がってるね。増えすぎず少なすぎずの丁度良い数値だから…このポーションが良いかな」



 検査の人が鞄から小瓶を取り出す。

 魔力が含まれたポーションで、毎日一つずつ飲むようにしてる。

 数値が今より安定したら、飲む回数が減るって教えて貰った。

 他の子達は一日に三つも飲んでたり、濃度が濃いものを飲んでたりしてる。


 人の姿に戻れてない子達は、もっと厳密に時間を守ってポーションを飲んでる。

 シルクが私達にポーションを飲ませてくれた時も、少しずつ時間をかけてた。



「前回のものよりも薄めたものだから、苦味は少しマシになっていると思うよ」


「…少し」



 苦いものは正直苦手。

 グレイが作ってくれた魔力ポーションはあまり苦くなかった。

「僕は魔法薬学研究者の天才だよ」って言ってたし、天才になると味の調整ができるのかな。



「それじゃあ明日からは新しい特訓メニューを追加しよう。このメニューは君達が別々に行動することになるけど、まずは短い時間で初めて、少しずつ時間を伸ばしていこうか」


「…頑張る」



 私達はいつも一緒にいた。

 怖い施設でいた時も、ずっと二人で一緒。

 少し離されることはあっても、部屋が別々になることは無かった。


 初めて離れて行動したのは、シルクと黒いお兄ちゃんと一緒にいた時だった。

 レイアがシルクと、レイナが黒いお兄ちゃんと。

 別々で行動するよって言われた時は嫌だったけど、不思議な感覚があった。



 何て言えば良いんだろう。

 今見ている景色とは違った、別の景色が頭の中に入り込んでくるような、変な感じ。

 シルクと一緒にいたのに、黒いお兄ちゃんの横顔が見えた。

 黒いお兄ちゃんと一緒にいたのに、シルクの横顔が見えた。

 でも、シルクの匂いや温もりは一緒にいないと分からなかった。


 この不思議な感覚が何なのかは、まだ分からない。



「それじゃあ今日はこれでおしまい、また明日ね」


「ありがとう」


「また明日」



 検査の人が部屋を出る。

 部屋の中が静かになってから、ふとテーブルの上に置いている鞄を見る。


 シルクとグレイが作ってくれた、シロツメクサの冠。

 長持ちするようにってシルクが保存魔法をかけてくれた。

 でもいずれは枯れてしまうって言われた。

 枯れて無くなっちゃうのは悲しいけど、枯れることは悪いことばかりじゃないってシルクが教えてくれた。


 私達が作ったシロツメクサの冠は、シルクとグレイに贈った。

 二人とも喜んでくれて、凄く嬉しかった。

 長い縄は魔法薬としてぐつぐつに煮ちゃったって言ってたけど、冠は部屋に保管してるみたい。

 シルクは部屋の扉に飾ってて、優しく撫でてたのを覚えてる。



 シルクはいつも私達を優しく撫でてくれた。

 あの温もりが恋しくなるけど、私達、頑張るって決めたから。

 それに、また会えるって言ってくれたから。



 また皆と会える時には、沢山魔法を使えるようになるんだ。

 大きくなったねって、いっぱい頑張ったんだねって、温かい手で頭を撫でてもらうんだ。

 いっぱいいっぱい、ぎゅーって抱き締めてもらうんだ。



「一緒に頑張ろ」


「うん、頑張ろ」



 互いの小指を絡めて、きゅっと優しく力を込める。

 シルクが教えてくれた、約束を交わす時のおまじない。



 窓から差し込む太陽の光が眩しい。

 朝起きた時よりも高いところに太陽があって、綺麗な青空。とても良い天気。


 庭では何人かがボール遊びをしてる。

 そのうちの一人が私達に気付いて、大きく手を振ってくれた。

 一緒に遊ぼうって口を動かしてる。



「行こっか」


「行こう」




 私達は部屋を出て、庭へと向かう。

 眩しい太陽の光が私達を照らす。


 とても温かくて、嬉しい気持ちになった。

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