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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
序章:出会い
14/198

14. 経緯

 シルクからの助言と圧によって強制的に始まった大掃除は丸一日かかった。

 研究室と同階の倉庫部屋だけでなく、三階の倉庫部屋も徹底的に見て回り、どうせならと一階も続けて掃除された。


 爆発騒動の日からほとんど放置されていた前研究室も掃除の対象となり、煤だらけだった壁は綺麗になっている。

 流石に壊れた扉はそのままだが、半開きの状態から見える部屋の中も綺麗に整えられている。



「ごみ袋の量から大掛かりな掃除をしたのは分かるけど、まさか一日で終わらせられるなんて…」


「早く研究したかったからねぇ」


「それでも二人だけでこんな大規模な掃除ができるのでしょうか」



 実際に掃除が完了しているにも関わらず、シャロンとミュスカは疑いの目でグレイとシルクを交互に見る。

 掃除を始める経緯は納得できても、二人だけでアパート内のほとんどをまとめて大掃除するのに一日で終わらせられるとは思えない。



「二人でといっても、ほとんどはシルクがやったんだけどね。僕は荷物の移動を手伝ったくらいだけど、普段よりも大幅に魔力を使ったから流石に疲れたよ…シルクは魔力と体力どっちも余裕そうだから羨ましいね」


「…慣れてますので」



 一日で掃除を終わらせられた理由として、二人が魔力を持つ者であることが挙げられる。


 グレイの魔法コントロールは比較的安定しており、家具などの重いものも浮かせて移動させるのは容易い。魔力量は魔法を扱う者達の中では上位のほうである。


 そしてシルクも魔法で荷物を浮かせるのは勿論のこと、掃除用具を手にして汚れを取り除く作業を徹底的に行った。

 移動手段に箒を使いながら自らも浮いて素早く移動し、荷物の移動先をグレイと相談しながら着実に片付けを進めたのだ。



 魔力を使い続けたとなれば勿論魔力消費量は激しくなるが、疲れた様子のグレイと比べてシルクに疲れた様子は無い。

 決して瘦せ我慢しているわけでもなく、本当に疲れていない様子である。




「シルクさん…本当に只の魔法使いなんですか?」


「只の魔法使いです」



 相当な魔力量にも関わらず只の魔法使いだと言い切るのは流石に無理があるだろう、とミュスカは怪しいと言わんばかりにジト目を向ける。それでもシルクは無表情を貫いた。




 突如ぱんぱん、と乾いた音が室内に響く。

 グレイが注目を集めるかのように拍手したのだ。




「さぁさぁ雑談はここまでにして、準備は整っているから始めるとしよう。今日も良く晴れているから光合成のさせ甲斐があるね」



 グレイは作業台に置かれているピュアポトスに日光が当たるようカーテンを勢いよく開ける。

 室内の照明よりも更に明るい光が作業台に向かって降り注いだ。

 有無を言わせず開始された為、シルク達は素直に実験に目を向けることにする。



 ピュアポトスの近くには小型の機械、酸素濃度計が設置されている。

 始めは21と表示されていた数値は数秒程で変化が現れ、少しずつ数値は上昇していく。ピュアポトスが光合成により活発的に酸素を放出している証拠だ。


 ここでシルクは疑問を浮かべる。




「この実験は密閉された容器の中では行わないんですか?そうすれば以前のような爆発の発生を多少は防げると思うのですが…」


「以前はそうしてたんだよ。だけどそれじゃ限界値が限られてしまうから意味がないってさ」



 シャロンは溜息交じりにそう答える。

 確かに小型の容器内よりは室内の方がより多くの新鮮な酸素を貯蓄できるだろう。


 しかし酸素濃度は低すぎるだけでなく、高過ぎても危険なものだ。

 偶然起こってしまった水素爆発も危険なのだが、高濃度の酸素に取り込まれるだけでも十分危険と言える。酸素中毒を起こして命の危険が晒されやすいのだ。



 現状、研究室内にいるシルクたちは誰も防護服などを身につけていない。

 流石に命を削ってまで行うのはどうなのかとシルクは窓に視線を向けると、窓が僅かに開いているのに気が付いた。


 どうやら完全に密封された空間ではないようだと分かり、完全にではないが安堵の溜息を静かに漏らす。流石にグレイも酸素中毒については多少考慮しているようだ。




「一時間くらい光合成させて酸素濃度を調べてるんだ。今日は雲一つない快晴だし、良い数値が期待できそうだねぇ」



 作業台近くに椅子を四つ移動させ、それぞれで座るように促される。

 しっかり一時間経つまでは見守る。一見地味な実験ではあるが、見守る間は何もしない訳ではない。


 時間が経つにつれて太陽の位置がずれていく為、日光の当たり具合を調節する必要がある。

 少しでも日陰の時間ができてしまうとその分数値が低くなってしまうと、これまでの研究データから読み取られているのだった。


 では太陽光を浴びることが出来ない日は研究をしていなかったのか。

 答えは否、代わりに人工的に室内で特殊な光を当てて研究を進めていたのだが、結果からすれば人工的な光では放出量に波が出やすく、太陽光の方が効率良く酸素を放出できたのである。



 そういったこれまでの研究データについて説明を受けながら、シルク達は現状のピュアポトスの光合成を見守った。

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