前夜暗闘1
33
僕は目覚める。明るい天窓からの光が布団越しに僕の体を照らす。
光の差す部分を手で撫でる。光はわずかな温もりを手に伝える。天井を見上げつつ温まった手の形を変える。グー、パー、グー、パー。
体を伸ばそうとすると、痛みは鋭い直線形をして背を走る。反射的に体は無理な行動を抑制し、発汗を覚える。
「ふぅ、なんだったかな」
ぼんやりとする記憶を睡眠ではっきりとした頭で思考するうちに、輪郭が判然とし出す。ここは極刑城の医務室だ。普段然とした自室でもなく、まして天国でも地獄では無い。
そういえば、そうか自殺したんだっけ。
あの極刑と評された方法で、縄できつく縛られて体は痛みを伝える手段すら忘却した上で呑気に死ぬ方法で僕は自殺を試みたんだっけ。
しかし、どうやら失敗に終わってしまったらしい。
「起きたかい、浮向京介君」
医者・春花車菊花は僕の目に焦点が宿ったのを確認すると、静かに頬を緩ませる。
「えぇ、なんとか」
僕は彼女に向けて、元気な様子を見せる。ゆっくりと自分の力だけで上半身を持ち上げて、ベットの上に座った形をとる。
「単刀直入に言おう、君の自殺は失敗した」
「……そうみたいですね」
「慣れっこと言ったところだな、ふむ……」
彼女からの視線と言葉を咀嚼しながら、また僕の状態と出来事を徐々に繋げて明確化する。僕はもう一度布団に落ちた光に視線を移す。腰と腕を可動させて意味もなく触る。
「まずは申し訳ない。君の自殺を成功させる事は出来なかった」
深々と彼女は頭を下げる。
「……いえ、そんな謝られる事は無いです。本当に。そもそも僕の我儘を聞いてもらったんですから」
「…………すまない。しかし、そう言ってくれて助かる。こんな事になるとは思わなかったのだ、それに防ぐ事だって可能だった。私はそれがひどく心残りなんだ」
「何がどうなったのです。僕はあなたの能力に怠りがあったとは思ってはいません、であればこそ何が起こったのか聞いておきたいのですけれど」
僕の言葉に彼女は一瞬のためらいを見せる。僕の目を見て、逸らさず何かを確かめる。
「君はかの怪盗、陽路影牢と少なからず人間関係を育んでいただろう」
「育むと言えるほど温和なイメージは無かったですが、そうですね少なからずコミュニケーションをとってはいました」
「彼が君の自殺を阻んだ。縄の片方をナイフで切ったらしい、単純で簡単で、実に滑稽な方法だよ」




