親子の塔14
…
彼の前に立ちはだかる大きな扉。この建物の内部は高い低いに限らず大抵の扉はこの大きな扉で作られている。少なくない工程、何枚もの板材を切り出して、貼り付けて、重ねてを繰り返していることが容易に想像がつく。
けれど、その扉の重厚に反して鍵穴の周辺は錆びついた薄い金属で作られている様に見える。破壊は困難であろうがそれよりも余程平和的にこの条件なら扉を開けることが出来る。
ただ鍵を開ける。幾度となく、開けたことのあるアナログ式の鍵を開ける。平和的に、熟練した技術は証拠の一つすら残すこともない。
夜の中に足音は異様に響く。部屋の中は暗い、とてもとてつもなく。他の場所は人が住まう環境であったからか、それでも明かりを少しは確保しようとしていたが、ここは全くの暗闇だ。
すかさず、腰につけたバックへと手を伸ばす。ジッパーをするすると開くと、中に入っている暗視ゴーグルを手に取り、そのまま装着する。
部屋を眺める。シックで落ち着いた雰囲気がある部屋である、真ん中には床を貫く螺旋階段の支柱、机、タンスが三つ、壁にかけられた地図、動物の首の剥製、飾られたナイフ。
生活感はある、いや生活感がある様に見えるだけか。インテリア雑誌の1ページに入り込んでしまった様な感覚。
凍結された空間がそこにあるのだと彼は理解する。四罪ヶ楽王断が居なくなってからかなりの時間が経過しているそれでもこの状態を保存しているというのは、ここが生活空間以上の価値を保有しているからに他ならない。
タンスに近づき、その上を指でなぞる。流れで、一つ棚を開ける。紙の書類が累積した山がそのまま残されている。ぱらっと見ていくが、特に何も見当たらない。
一つ、また一つ。最後の一段も引き出す。中はやはり空っぽに近い。記録か、それともただの紙くずか。どれも、『答え』ではない。
『四罪ヶ楽』は見つからない。
ふと、音が聞こえる。ぎりりぎりりと何かが動く音である。音の発生源はこの静寂の中では簡単に発見出来た。支柱が動いているのだ、正しくは支柱の中の柱が回っている。
彼は分厚く濃赤色のカーテンに近づく。カーテンに歩み寄り、静かに身をすべらせて通る。窓を押し開き、夜の外気を切って、視線を放つ。
ギリギリと縄が引っ張られている。縄は塔の支柱へと吸い込まれていく。誰かがどこかで、それを引いている。その音は自然の中に芋虫が這う程度のもので、広い静寂を見つめる彼には些細な情報だった。
辺りを見つめる。
「……なるほど、事はなかなか上手くいかないみたいだ。足りないパーツも、理解していない行動もまだ存在しているという事か」
彼はバックから折りたたみ式の大きなナイフを取り出すと、目の前の縄をぶっつりと切りとる。
「俺は選択したよ、君は選択をどうするかな。それじゃあね、全てのロマンを守る為に」
怪盗は暗闇に消える。




