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浪漫怪盗5



 緑の庭園の中心。錆びた鉄格子。来る時は閉じた状態だったが、今は大きく開けられている。開いているのだから、そのままにしていて良いのだろうけれど、閉めた方が良いのかな。こういう風になっているのは困る。


「早く行こう、京介。中に行くと言うのなら、行こう、何事も早いに越した事は無い。それが自分の望むものだと言うのなら、迷っている暇など我々には無い!」

 そんな大きな掛け声を僕の方に向けて放つ。子供みたいに、家のそばの洞穴ほらあなを冒険家にでもなった子供みたいに、先に進み始める。


「おい、ここから先は僕の領分じゃないのか。ぼくが船頭で、先導だろう。何の為に、何処へ向かうのか君は分かっていないはずだろう?」


「ふん、さっさと付いてくるんだ。俺の探し物も、君の探し物も同じものかも知れない、違うかもしれない。違うかもしれないが、同じ場所にあるかもしれない。時間に限りはある、行こう、京介」


 ドタバタと螺旋階段を下っていく、短い螺旋階段を下った後に、迷宮の枢軸に至る。また暗闇の中に舞い戻る。歩きで通っていた時とは違う、静かな空気が自分の体に押されて、ゆるりと避けて動く。


「怪盗、お前は探し物をしているのか?」


「そうだ、かつて言わなかったか。俺はロマンを探しているのだ。ここにはロマンがある。それがどんな形で、どんな色で、どんな匂いかなど、一つも分からないが」


「……それでどうやって探すんだ」


「何も情報が無い訳ではない、少なくともそれがロマンであるという情報は間違いない」

「俺はロマンだけは見分ける事が出来る。世界中のロマンを俺は知っているから。それを守るのが俺の役目で、必要ならば盗みもすると言う事だ」


 迷宮の枢軸がビュンビュンと隣と、遠くを通り過ぎていく、真っ暗な中、目の前の怪盗の揺れるコートの端を目から離さない様に、階段をどんどんと降ったり、登ったり。


「浮向京介、ロマンは嫌いか?」


「走るのは嫌いだ」


「そうか、俺は走るのも、逃げるのも、ロマンも大好きだ」


 そして再び螺旋階段に至る、迷宮に接続している螺旋階段である。怪盗はほとんど全力ダッシュだった僕に対して、また大層に爽やかにこちらを振り向く、少し皮膚に汗が乗り、顔が血色良く発火する。


 後ろから着いた僕はレンガ壁へ、手をつけながらゼーゼーと息を吐く。ふっと息を直して怪盗は目を落として僕の顔をやんわりと見やる。


「走るのは良いだろう、晴天の元であればもっと良いのだが、ちなみに一番良いのは夕日に走る事だ。何よりもロマンがある」


「ならば、次走る時は日の下にしてくれ、何度か躓いて死ぬところだった」


「それはそれは良かったじゃ無いか、悲願ロマン何だろ?」


 口籠る。呼吸も十分にままならない。返す言葉が追いつかずに、1テンポ、遅れる。怪盗はそれを見て、見て、見ている。にんまりと笑う。


「京介、良い顔になったじゃ無いか。男はそうでなくては必死に、ストイックに、いつ死ぬ事を考えても、感じてもな」

「ハハハハハ!」

 闇夜に現れる怪盗の如く、おぞましく、恐ろしい声で彼は笑う。少年が演技をするヒーローの様なクオリティ以上の何かがそこにはある気がした。


 ロマンか。


 僕は息を整える。流石にそんな姿の僕を見て、先に言ってしまえる程、怪盗は迷宮に対しての思い巡りは無い様で、レンガ壁にもたれて静かに待っている。


 そんな時、音が聞こえた。足音。

 トントントンと小さな足音。トントトントントトンと聞こえる。一つで作り上げているものでは無いのだ。集合のそれは徐々に近づいてくる。ゆっくりとやがて直ぐ側に。


「けたたましい響音が聞こえると思って来てみたら。なるほど、誰かと思えば京介か。ともすればミノタウロスとご対面の可能性さえ考えたと言うのに」

 新聞部の先輩、鳩野和々、自称ワワさんである。後ろにはペコリと頷くだけの後輩、香永遠が侍っていた。


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