浪漫怪盗4
17
扉を動かして円形の極刑城から出る。朝日が優しく届く。徐々に日は角度を緩やかにしていき、それに伴って熱を帯び始める。草木は光に呼応して、起き上がり、快活の循環を行う。
極刑城内部の窓から覗いた時の緑の庭園から込み上げる露と植物の色が、近くなって濃さを増す様に感じる。健やかに。
「で、本当に着いてくるつもりなんだな、怪盗」
幾度の僕の同じこの問答に対して、浪漫怪盗は面倒だと言う表情の一つもせずに、改めて肯定を示す笑顔を僕の方に向ける。
厄介だ。本当に。
「で、京介。お前はどこに向かっているんだ。そこの先に断頭台でも設置されてるのかい?」
「盗み聞いていなかったのか、春花車菊花さんとの話は一旦保留に終わった、快諾はされたけれど、今すぐ自殺を行える訳じゃ無いと、そう言っていた」
「はぁ、随分と焦らされているなぁ。何なら俺がお前の命を盗んでやっても良いのに」
「……それは御免だね。幾ら死にたがりでも死に方は選ばせてもらう。お前みたいな怪盗に僕の自殺が盗まれてたまるか」
「つれない奴だな。折角、俺が盗んでやろうと言ってやっているのに、そんな事言ってたら今回も失敗するぜ」
「何故、今回もって分かる?」
「さぁ、鏡で首の痣でも確認したら良いじゃないか。何か描かれてあるかも知れない」
痣。いや、そんなモノはあるはずが無い。間違いなく絶対に無いとは言い切れないけれど、僕は首吊りの経験は一つや二つ、十数回はゆうに越えている。越えすぎている。
でもだからこそ、それがどれくらいの日数の間、痣として認識されるかを知っている。首吊りでの自殺はここ最近はしていない、そんな筈はない。そんな痣など。
「やや、まだ赤みが残っている。と言うよりかはもう皮膚に、ロープを無理やり押し当てて出来た充血痕が消えずに定着している。そこまでいけば数ヶ月で消えるものか、肉体の悲鳴痕だ、心して見惚れてろ」
「気持ち悪いルビ振るんじゃない。と言うか、そんなものあるのかよ。僕は毎日、僕の顔を見てるんだぜ、見ない日も勿論あるだろうけれども。穴が開くほどは見ていなくても、目に節穴がある訳じゃ無い」
「しかし、俺には見えるのだから仕方ないだろう。ややの色調の変化がお前の皮膚を這っているように見えるのだから。もう少し、見た目にも気を遣った方が良い、パウダーを軽く肌に付けるだけでもそう言った色は落ち着くものだ」
さいですか。しかし、粗雑に彼の言葉を自分の中で扱いながらも、いざ肌の色を指摘されると気になり始める。男は女性に比べて、色の変化に疎いと言うけれど、人によって見えるものなのか。あぁ、鏡が欲しい。変な所に寝癖がある事を指摘されたみたいな心持ちだ。
「怪盗、鏡を持ってないか?」
「持ってない、そんなモノは要らない。俺は自分の身なりがどうなっても美しいからな。ロマンに満ち満ちているから」
よくそんな性格で生きてこられたな、全く。現代っ子にしては有数のナルシストだろうな。昨今ではあまりこの言葉さえも聞かなくなってきているが、一昔前は流行ったのだがな。
「鏡は無いが、マスクはある。生憎ウイルスは防げないけれど、他の人になりきる事は出来る。首までなら範囲内だ」
先程まで、自分がつけていたキズキ青年の顔を模したマスクを人差し指でクルクルと回しながら、怪盗は僕に見せつける。
「そう言えば、怪盗。お前、そんな上等なマスクを拵える事が出来るくらいの怪盗なのだよな、悪事はした事が無いと言っていたが」
「悪事を今までした事が無いのは本当だよ。だが、俺の過去に関しては秘密だ。それを明かす事はつまらないだろう」
「それこそロマンに欠けるってか?」
「そう言う事だ」
「だが、悪事を働かないからと言って、技術が無い訳ではない。先ほども言ったがな。鍵の専門会社は、その能力を人助けに使う、悪事が出来ても」
「じゃあ、何だ。お前は怪盗らしい芸当なら何だって出来るのか?」
「まぁ、そうだな。そう思っておいてくれて構わない」
「そんな事、話して良いのか?」
「良いんだよ、それくらいで揺らぐなら温い泥棒でもやってれば良い。怪盗は俺だけのものだ」
意気揚々の怪盗はつらつらと自分の事を流布していく。




