浪漫怪盗3
…
自信満々に宣う怪盗の顔を尻目に僕は歩みを進める。呆れた僕の顔がずんずんと朝の日差しが透き通る廊下を進む。
後ろには、僕の足跡を踏んでキャットウォークさながら足音が響く。廊下に2つ足音がする。
「何故、着いてくる」
「俺には俺のやる事があるからだよ」
「じゃあ、着いてくる必要は無いだろう。僕には僕のやる事が、お前にはお前のやる事があるのだったら」
「そう、固い事を言うなよ。俺はお前の事が気になっているんだ。1人で起伏しを過ごすくらいなら、人の多いに越した事は無かろう?」
「枯れ木も山の賑わいと言うじゃないか。まぁ、俺は枯れ木というよりは満開の桜の様な男だけれど、それならその方が見栄えは良かろう」
「忘れたのか、僕は自殺志願者なんだぜ。桐一葉を見て、人生の冬を迎えたい気分だと言うのに、お前みたいな桜の木さながらの頭お花畑が側にいると気が散ると言っているんだ」
「季節は聯亙しているものだ。冬の後に春は来るが、その後にも冬がまた来る。急がずともその時は来るだろう」
怪盗はいつの間にか僕の横で歩き始める。前を見ながら、つらつらと自論を並べ立てる。
「はぁ、なんで僕が君の事をこんなに突き放そうとしているのか、分からないのか?」
「分からない、全く。俺は基本的にはポジティブだし、一緒に行動を共にしてそれだけで人の気持ちを逆撫でたりする事は無いはずだ。見かけに出色がある事は除くけれど、それは些末だ。当たり前だが、人は中身の方が重要だから」
僕は彼の顔を見やる。心に十重二十重の裏の一つも無い、何事も恥じ入ることなどある訳ないと言う様な顔。また麗顔見やる。僕は一つ、溜息を吐く。
「怪盗、君は今までどれくらいの悪事を働いた事がある?」
「あぁ……いや、無い。一度も無いよ、今の所。人生の内で何かを盗むなんて、さっき君の話を盗み聞きしたのが初めてくらいだ」
「そうか、なるほどな」
「どうしたんだい、別に誰しも初めてと言うものはあるだろう。初めてだからと言って、その者の能力がプロに劣っているかは行って見てから分かるものだろうしね」
「あぁ、改めて、何故僕が君の事を邪険に扱っているのかって言う所の話に戻るけれども、単に君は怪盗の作法ってやつを全く理解していないんじゃ無いかと思っているんだ」
「少なくとも、そう、自分の事をまず『怪盗』と名乗り上げてしまっている所だとか」
怪盗の顔は小さな驚きを覚える様に硬直する。こちらを見て、3歳の子供の様なクリクリの目をして。
「自分は『怪盗』である。それを述べる事に対して、どれ程のデメリットが怪盗にあって、どれ程のメリットが周りにあるか分からないか?」
言われて3歳児は大人さながらに真剣な顔つきになる。皺を顔を中心に寄せて、理解を纏めているみたいな、折角の綺麗な顔が台無しにしながら、頭の回転だけを意識している。
「大丈夫か、分からない訳の無い問題だけれど。おーい」
「……ふん、いや、分かる。十分に分かるいや、分かった十把一絡げに全て理解した、今」
本当かよ。今の感じで信じられる要素は一つもないのだけれど、まぁ事実僕がそこで思い悩む必要は無いので割愛するけれど。だってもう遅いのだ、怪盗だと知ってしまっているのだから。
「だから、警戒は緩めないよ。君がどれだけ、学びのアジリティに能力が振らているのか判ったものではない、ただ僕は君が怪盗であることを知っている。疑わしき人狼の君は今夜にでも市民に吊るされる事になるだろう」
「ふん、いや、それは無いな。俺が人狼だと言うのならば、話は違うだろうけれど、役職は怪盗だ。だから、大丈夫なんだ」
「大丈夫とは言えないだろう。これはゲームでは無い、人狼や怪盗なんて比喩のそれでしか無い。現実ではどちらにしても、純然の悪だよ。僕がこの話を皆に知らせれば、君はこの島で安逸に生活する事は叶わない」
ここまで言って、彼は前髪の少しを人差し指と親指で摘んで、くるりくるりと弄ぶ。呑気に、だからどうしたと言わんばかりに。
「ふん、何故こんなに呑気なのか分からないと言った表情をするなぁ、浮向京介」
「俺は少しばかり抜けている所がある、それは育ての親にも幾度となく言われた。けれど、人を見て盗み取るのは早かった。俺は少なくとも京介がどこまで知っているかを知っている、先程言ったろう。『十把一絡げに全て理解した』と」
「だから何だと言うんだ」
「人生、探究し続けないと上手くいかない事の方が多いって話だ。君の願いが成就しない理由になるかも知れない。向き合うと言う意味でな」
「知った事を言うじゃないか」
「知らない事ばかりだよ、でもなら、それだって盗み取るまでだ」
ロマンチストにカッコいいだけの言葉を、カッコよく言う怪盗だった。僕はそれを流し目し、また歩く速度を早めた。




