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人身牛頭2

 エンジンが強く、振動は大きくなる。かき分けられる波が高くなり、空気が肌を転がり抜ける。グングンと進んで行く船。それと同時に島にかかっていたモヤは霧散して行く。


 島が視界の中にくっきりと現れる。


 円形のコロッセオ、それを彷彿とさせる様な形がそこには現れた。土色の壁面がぐるっと一周島の上に乗っかっていると言った風だ。自然の部分がほとんど見えない。ややその土色の壁の下に露出する黒っぽい岩が唯一と言って良いほどに見てる中では自然の島として部分である。


「これが極刑島か」

ワワさんは船から身を乗り出して、隣で冷静に呟く。


「新聞部で得られた情報とは大きく違う」


「そうなのか?」


「私達が入手していた情報や、永遠の家族が保存していたとされる写真には、それこそ波間のような岩壁がぐるっとあり、島内は至って普通の島であったとされていた」

 彼女の顔には思い通りに事が進んでいない不安がにじり寄っている様だった。性格的に予想だにしない事が起こる事をあまり上手く飲み込めない方に見える。思慮深い故に躓くところなのだろう。


「香永遠ちゃん、あの子の曽祖父から譲り受けた写真からのそれなのだから、時代が大きく違うのは普通のことだろう。それくらい島の姿が変わっても理解出来る」


「まぁ、それはそうだ。時代が違って、文化から閉ざされて、時間からも切り離されていたのだろうから変化していてもおかしく無い。ただ……」

彼女の言葉の尻尾は最後まで音の形を保てず散り散りになり僕には聞こえない。壁面をゆっくりと彼女は顔をあげて、もう一度矯めつ眇めつ微細まで見始めた。


 僕はその自然な動きに視線を同期させる。同じ様に壁面に向ける。


「浮向さん、浮向さん」

 色々と船の上を移動して、写真を撮ったり、ノートを取ったりしていた香永遠が話しかける。


「着きましたね、極刑島。ミノタウロスの噂がある島」

 緊張の面持ちといった鳩野和々に対して、彼女の顔には柔らかさが垣間見える。言葉にも余裕があり、それに加えて目の前の大きな建造物の持つ物理的な威圧感を感じる風でも無い。


「そうだね。ミノタウロスの噂を保有する島、と言うかここまで来ると保有する建物と言う方が正しそうだけれど」


「確かにそれはそうです。島である部分が足先だけですから、建造物が海に自立していると表現しても大きな間違いは無さそうです」


「ただミノタウロスが彷徨っていたとされる建物は他にあるんだけどね。どう罷り間違ってもこれでは無い本物の建物が……」


 香永遠と言葉を交わすうちにその巨大な建造物はどんどんと視界の中を牛耳っていく。近くなるにつれて、潮の匂いも忘れ、波の音を逃し、視覚に処理が割かれる。


 近づくにつれ、やがてゆっくり船はその速度を落としていく。ゴールから繋がっているロープで引っ張られているみたいにぐんぐんと正しい点に進む。


 最後に小さな残った推進力によって押される。ピタッと最後に止まる。島から突き出る様に設置されているコンクリートの波止場。


「お疲れさまです」

運転席からドタタッと駆け出してきたキズキ青年は我々全員に対して笑顔で言葉を伝える。


「ここが目的地、極刑島となります。まず、上陸致しましたら、波止場を建物の方に行けるところまで進んでお待ち下さい。準備が整い次第後ろから向かいますので」


 そうキズキ青年は全体に呼びかけると、誰とも無くゾロゾロと船から降り、上陸して行く。


 四罪ヶ楽真空、紳士、影路陽牢の順番で降りて行く。急ぎでは無いのだけれど、足取りは皆一様に軽快とは程遠い。一人一人の間も数秒ほどの差がある。


「では我々も降りようか、京介」

ボーッとしていたのか、いつの間にやら隣にいたワワさんは小さな荷物バックを背中に背負っている。新聞部の後輩もそれに続く様に荷物を取っている。進み始めかける2人に置いていかれない様に、ワタワタと僕も足元に置いている自分のボストンバックを左手で持ち上げる。


 僕達は船から島へ上陸した。


 えーっと、波止場を建物の方に進めば良いと言っていたから。向こうの方向だな。うん。


「違うぞ、京介。波止場を建物の方向に行ける所まで進めと言っていた。まぁ、およそあそこだろうな」


 円形の壁面がぐるりと島と成している。波止場はそこから飛び出る唯一の一本であった。波止場から何処へ進むかは自ずと分かりきっていたが、先の光景を見れば、何故キズキ青年が態々あのような説明の仕方をしかたかに理解が追いつく。


「あそこだろうが、波止場から進もうが壁面があるだけだな。島の入り口が見えもしない。説明が無ければおよそここで立ち往生か、辿り着いてからダイナマイトでも使うか」


 なぜそこで、暴力を行使する方向に切り替わるのか、ワワさん。しかし確かにそうだった。波止場を進もうが綺麗な土色の壁面が続いているだけだ。ダイナマイトを使わないまでも、レンガの作りだからいくつか無理やり外せば通れるのかもしれないけれど、今から他人の家の敷居を跨ぐ人間のすることでは無い。


「何にせよ、とりあえず向かうしか無いかな」

僕はそう声をかけて、2人の間を抜けて壁面に向かう。


 ダイナマイトも壁面にチマチマと穴を開けるのも現実的に見ればあり得ない。とするならば、およそ正解はロープで持って壁面を登るか、吊し上げられるじゃ無いのかな。


 ここが極刑島なのだとすれば、予想に過ぎないけれど島の主人、極刑のプロ、四罪ヶ楽王断御用達の八つ裂きの刑に処すための道具の準備もあるはずだし、それを流用すれば人を吊り上げるくらいは余裕のはずだ。予想に過ぎないけれど。


 そして、僕を殺す事だって余裕なはずだ。期待に過ぎないけれど。


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