055 カラフルスライム
「この依頼でお願いします」
決まった依頼をアウレイアが受付嬢に提出する。
「かしこまりました。こちらの依頼は期間の期限を定めていませんが、4色揃ったらできるだけ早めに提出をお勧めします。早く提出すれば提出する程、報酬は増額されます。具体的に言いますと、今日中に依頼を終わらせることでもらえる報酬は銅貨2枚です。なお、1日経つごとに石板1枚引かれていきます」
「わかりました」
受付嬢の丁寧な話を聞き、アウレイアはオウガストとミルの元へと戻った。
「受付は完了したよ。できるだけ早い方がいいし、今日中にできれば依頼を終わらせたいよね」
「ありがとう、アウレイア。何から行く?」
「うーん、なにからがいい?」
ミルにそう問われてアウレイアはオウガストを見ながらそう尋ねた。尋ねられたオウガストは
少し戸惑いながらも口を開いた。
「ええ、と、緑、桃、橙、水の順がいいんじゃないか?最初に森や草原を見て緑色のスライムを。ついでに桃色の花を見つけて桃色スライムを。次に汚れる橙色のスライムを下水で探し、橙色スライムを洗うついでに川で水色スライムを探す。これなら、割と効率的にかつ、できるだけ汚れを短く、人目に触れないようにできるのでは?」
それ以外に効率的なものが見つからないというような答えにミルとアウレイアは時が止まったかのように固まった。
しばらくして、ミルが口を開く。
「オウゼリア…、完璧な回答なのでは?」
遅れてアウレイアも頷く。
「それが最適な気がする。さすが、オウゼリアね。それで行きましょう」
オウガストは2人からの反応がしばらくなくて不安に思ったが、自分の案を褒めてもらえて嬉しかった。それが顔に出ていたのか、ユーリにじっと見つめられてしまった。
「な、なにか?ユーリ」
ユーリはそれに対してにこりとしただけであった。
「まあ、緑となると、森が一番いると思うわ」
「とすると、東か北の森なんだが…、東は封鎖されているから北の森に行くことになるか」
「そうだね。北の森で緑スライムを探そう」
そうして北の森へ向かったアウレイア達はあっさりと緑と桃色スライムを倒して緑と桃の原料を手に入れた。カラフルスライムは魔物としてあまり有名ではない。なぜなら、通常の魔物が多くいる地域に生息し、自分の色と同じ色のものに身を寄せて時折訪れる格好の餌食を転ばせ、窒息させていただくからだ。そのカラフルという彩色を生かした暗殺行動からして人目に出るということがあまりないのだ。
そんなスライムをなぜこうも簡単に見つけることができたのか。それは『周辺探知』のお陰である。『周辺探知』で広い範囲を探すことができるアウレイアが探せば一発で見抜けるのだ。いくら隠密に優れるスライムとて正々堂々の勝負で勝てる確率は低い。
スライムは魔力が暴走し、固体となった魔石というものを核に形成されている。核から溢れ出る魔力が粘液性を持ち、魔力を持続させるために捕食を行うというなんとも特殊な魔物である。そのため、スライムの核の魔石を破壊すれば、スライムは動かなくなる。なお、粉々になった核は魔力を媒介するための粉、粘液は糊、カラフルスライムの場合は特殊な絵を描く場合の色の原料となる。
その特殊な絵というのは魔法の絵というものだ。主に貴族や国王などの富裕層が求めるもので、画家が描いた風景画の中へ入り、風景を楽しむことができるというものである。魔力を練りこみながら絵を描く必要があるので、スライムの色のついた粘液はとても有用性があるのだ。
そして今、アウレイア一行は下水に来ていた。場所は王都の端の用水路だ。
王国の地下に張り巡らされた用水路はラレリール王国ができる以前にあり、その地を征服したラレリール王国がそのまま活用しているらしい。そのため、ラレリール王国も把握していない用水路が多く存在していると言われている。
そんな歴史の深い用水路の下水の汚れはとてつもないものであることをミルとオウガスト、アウレイアは察した。実際にその用水路の入り口は草花や生物が一切おらず、嗅覚のあるものを寄せ付けない無敵な要塞となっているのだ。
「臭い…」
「これは思わず回れ右をしてしまいそうね…」
「オウゼリア、ミラージュ、2人ともここで魔力を上手に扱う練習をしよう。この匂いは体に毒過ぎる。魔力を体に纏わせて匂いが体につくのを防ぐ方法を教えるね」
「それはぜひ死ぬ気で覚えたい。ありがとう、アウレイア」
アウレイアの一言を聞いた途端、ミルは食い入るようにアウレイアを見つめた。その顔があまりにも真顔でアウレイアは半歩後ろに下がりながら、いえいえと返事をした。
「じゃあ、早速だけど、まず魔力は感じられる?」
アウレイアに言われてオウガストとミルは『魔力探知』を行う。
「ああ、感じられる」
「大丈夫そう」
「それは良かった。そうしたら、身の回りの魔力を動かして自分の体にぴったり纏わすことはできる?」
アウレイアはそう尋ねながら2人を『魔力可視化』で見る。
ミルは魔力を薄く延ばしそれを粘度のように変容させて身体に纏わせていた。
オウガストは水蒸気という概念を用いているのか、魔力を霧のような状態で自分の周りに纏わせている。
「ミラージュのはなかなか面白い発想だね。体がほぼ魔力で覆われてる。オウゼリアも見たことない発想でいいと思う。だけど、少し魔力に覆われていない部分があるかな?そこの穴をどう埋めたらいいかな?」
「俺は魔力を空気に想像したんだが、空気の穴か…。まあ、空気に穴がなければ、俺たち歩けないもんな。問題はそれをどうするかか。難しいな」
どうやらオウガストは空気を想像して魔力を操っていたようである。
「じゃあ、自分の周りをみっちりくっついている空気を想像して覆ってみればいいんじゃないかな?別に空気ってそのままの空気を想像しなくてもいいんじゃない?」
「…確かに。俺はいつの間にか本物の空気を再現しようとしていたのかもしれない。ありがとう、ミラージュ。もう一回やってみる」
そう言ってオウガストは再度集中し始めた。アウレイアはその様子を眺めながら『魔力可視化』を使ってオウガストを見る。オウガストは綺麗に魔力で体を覆えていた。
「オウゼリア、とても綺麗に魔力で体が覆われている!この調子で維持をしてみて。ミラージュもとてもいいアイデアだと思う。私でもなかなか思いつかないよ」
アウレイアにそう言われ、オウガストとミルは照れたように目を伏せた。ふと、ミルは気づいたようにユーリを見た。
「アウレイア、ユーリさんはどうするの?」
「ユーリ?ユーリは私が補っておくから、大丈夫」
「ミラージュさん、心配してくださりありがとうございます」
ユーリはミルに対してお辞儀をした。ミルはそれに対していえいえ、と恥ずかしそうに返した。アウレイアはそう言ったものの、彼に魔力を勝手に纏わせていいのか悩んだ。なぜなら、彼は天使であるからだ。臭い匂いくらい自分でどうにかできるであろうとアウレイアは考えている。ふと、アウレイアの肩が優しく叩かれた。誰だろうと振り返ると、ユーリであった。
「アウレイアさん、しっかりかけてください」
そう言ってユーリがウインクをするので、アウレイアは一応『魔力可視化』でユーリを見た。ユーリの周りには強大な魔力のバリアが張られており、匂いどころか、羽虫一匹近寄れなさそうであった。自分の補助はいらないと察したアウレイアは任せてと強く言い、ウインクを返しておいた。




