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028 防具屋

 次は武器屋の先を見ていたミルが見つけたお店だ。そのお店は扉の横に白い木の看板に『クックの防具屋』と書かれていた。ベージュのレンガの壁に白い木の支えの色合いが優しく、心が安らぐような感覚を三人は感じた。扉は空と同じ青色で可愛らしいフラワーリーフがドアを彩っている。

 ドアを開ければ、花の香りがし、服や防具が置かれていた。先ほど客がいなかった武器屋とは違い、こちらは冒険者らしきパーティーやカップル、婦人など、様々な人で賑わっていた。レジは店の奥にあり、レジカウンターの横には目玉商品と大きく書かれた紙が貼られていて、そこには白く輝く鎧やティアラなどが飾られていた。


「すごくいい雰囲気の店ですね…」


 呆気にとられながらもミルは呟く。オウガストはそんなミルの横を通り過ぎて早速、品の物色を始める。アウレイアは目玉商品を見つめた。


 鎧は白く輝いていることから、魔法的金属が使われている鎧であるとアウレイアは予想した。魔法的金属とは、魔法の力を帯びた金属であり、魔法を許容量だけ受け流すことができる石だ。帝国でも貴重視されていた石である。


「そう言えば、ルルアージュ様。ルルアージュ様は先ほどの武器屋で何も買いませんでしたが、もう武器を持っていらっしゃるのですか?」


 オウガストが話しかけてきたのでアウレイアは思考を止め、おうがすとに質問の返答をした。


「ええ。私は自前の武器をもう手に入れてありますので、ご安心ください。鎧なども大丈夫ですわ」


 アウレイアはこの国の通貨の知識が少ししかない。幸い、ルルアージュはたくさんのお金を持っていたらしく、白金の通貨が百枚ほど、隠し部屋に隠されていた。もしかしたら、武器屋では金額を吹っかけられたのかもしれない。けれど、帝国にいた時も金勘定などせずに、言われるがままお金を出していたため、通貨価値が分かっていたとしても、気にいた商品はそのまま買ったであろう。それにルルアージュのお金が今後増えるかどうかも分からない。よって、お金はあまり使いたくない。それと、もう一つ理由があるが、ここでは割愛とする。


 オウガストとミルはアウレイアが店内を見学している内に、レジに並び、防具を買っていた。

 オウガストはなめし皮の鎧となめし皮の盾を買った。オウガスト曰く、お金の関係でこの選択になったらしい。彼は武器屋でルルアージュの奢りという恐怖を味わっていた。故に、ルルアージュにばれない様にこっそりとレジに並んだ。

 ミルは防御魔法のかかったローブと、青い羽根つきの帽子を買った。彼女は男爵の令嬢であり、そこらの令嬢よりは活発に運動をする機会があったが、やはり鎧は重かった。よって、軽装でかつ防御が比較的高めの防御魔法のかかったローブを買った。帽子については…店員の口車に乗せられたらしい。なんでも、二品買うと商品が安くなるらしい。よって、デザインが可愛く、外れにくい、深めの可愛い羽根つき帽子を選んだらしい。


「二人とも言っていただければ、なにかアドバイスできたかもしれませんのに」


 アウレイアがそう言えば、二人は乾いた笑いを浮かべた。


「そもそも、ルルアージュ様が武器防具に詳しいのも不思議ですけどね」


 ミルが疑うような視線でルルアージュを見つめる。ルルアージュはいつも通りの顔で、こう言うのだった。


「私は、昔から興味があって、調べていただけですわ」



 買い物をした荷物を持ち、今度は食事ができるところへ向かう。個室で食事ができる割と高めの所へ向かう。その理由は二点。一つ目は、個室で冒険者を登録するにあたっての話し合いをするためだ。高い所は部屋の壁が厚く、こっそり話には最適である。二点目は、三人は一応貴族だ。制服を着ている状態で食堂などに入れば、注目の的になってしまう。武器屋や防具屋なら、貴族の護身用、変な趣味コレクション、として通るが、食堂では庶民のご飯という珍味を食べに来た貴族。ご飯は一体どんなリアクションで食べるのか、という視線で話を聞かれてしまい、一つ目の理由が果たせなくなってしまう。


 オウガストとミルは始めは嫌そうな顔をしたものの、アウレイアが理由を話し、さらにお金を払うと言えば、慌てて大丈夫です!自分で払います!と賛成してくれた。


 個室に案内された三人は早速料理を頼み、持ってきてもらった。アウレイアはスープを口に含んで咄嗟の所で口を押えた。忘れていた。あの、食事の悪夢を。リリアージュの綺麗な顔が自分の吹き出したスープで汚れてしまったことを。


「ルルアージュ様?どうかなさいました?」


 目の前のミルが下手したらリリアージュの二の舞になるところであった。あの時、リリアージュには本当に迷惑なことをしてしまった。咄嗟のことで気が動転して、謝れなかったことが悔やまれる。高級店は、鶏肉の出汁に、ニンジンの具が入った味であった。ただ、それ以外の何物でもない。塩も、砂糖も、胡椒も、香辛料もない。ただの鶏肉の味と臭みとニンジンのえぐみのあるスープである。


「いいえ、なんでもありませんわ。ただ、おいしかったのですけれど、もうお腹いっぱいなんですの」


 アウレイアはスプーンを皿の淵に置いた。



 話し合った内容と言えば、冒険者登録時の名前と言葉づかいについてだ。ルルアージュの冒険者名はアウレイア。オウガストの冒険者名はオウゼリア。ミルの冒険者名はミラージュとなった。

 ルルアージュの冒険者名に関して突っ込まれたので、アウレイアは「そういう名前の人がいたから」と答えた。

 また、言葉遣いは平民の幼馴染という設定でため口を使うことになった。練習をしたところ、たどたどしいが、まあまあのできになったとアウレイアは感じた。本番が楽しみである。学園から少し行ったところにある広場で待ち合わせということでその日は解散となった。


 アウレイアは少し波立つ心を押さえて、夜ご飯を食べていた。原因は目の前でおいしそうに食事を頬張っている天使である。


「今日のグラタンという料理もマカロニを一噛みすれば、コクのあるソースが溢れ出てきて、口を幸せに満たしてくれて美味しいです!ウインナーという肉も噛めば噛むほど肉汁が出て来て、白いソースと合わさって、じんわりと旨みを運んでくれます。これは、何ていうソースでしたっけ?」


「…ホワイトソース」


 アウレイアは真顔でウインナーの真ん中をぶっ刺した。そうこの天使がいなければ、この家にミルとオウガストを呼べたのだ。そして、自分が振る舞い、幸せそうな顔で食べてもらう。それを見つめるのが至福の極みである。しかし、実際はどうだろうか。ただ食い、居場所占拠の天使。呼べぬ仲間。理想は崩れ去ったのだ。アウレイアがイライラするのも無理ない。あまりにも理不尽である。


「アウレイア様。機嫌悪いのですか?」


 無邪気に尋ねる天使にアウレイアの波が心の堤防を越えた。ガタン。アウレイアは無言で立ち上がる。


「別に、ただ飯ぐらいの同居人がいて、友人を呼べずに機嫌が悪くなったわけではありません。ちょっと、素振りをしてきます」


 そう言い、アウレイアは外へと向かっていった。一人残されたユーリファは思案した顔で食器を片づけるのであった。



 汗を流し、家に戻ったアウレイアはお風呂に入る前にライネルに明日の予定を念のため聞く。


「明日の予定ですか?確か、アウレイア様は学園の御友人に誘われて遊ぶという予定でしたね。それ以外は特にないかと」


「では、思いっきり遊んでくるわね」


「ですが、大丈夫ですか?護衛を雇ったりしなくて」


 ライネルは心配そうに尋ねた。アウレイアは堂々と答えた。


「行きと帰りに迎えの馬車を用意していただければ十分よ。学園は防御抜群ですし、そこで遊ぶわけですから特に護衛はいらないわ!」


 そう言えば、ライネルは納得したように頷いた。


 アウレイアがお風呂から上がり、自分の部屋へ戻っているとき、使用人のひそひそ話が耳に入った。


「…どうやら、リリアージュお嬢様は国の軍隊と一緒に訓練なさりたいとおっしゃったらしいわ。そして、許可が下りて、軍の方々と鍛錬なさっているそうよ」


「まあ…それは、リリアージュ様は国の為に自身を鍛えてらしているのね。さすがだわ」


 その話を聞いたアウレイアはなるほどと頷いた。どうやら、妹のリリアージュは自分と同じ剣の道に興味があるようだ。なら、少し剣術を教えてみるのもいいのかもしれない。まあ、それはだいぶ後になるであろう。


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