029 冒険者ギルド
冒険者ギルドへ向かう日、アウレイアはいつも通りのお嬢様らしいドレスに着替えて、馬車で適当な道に下ろしてもらった。馬車が見えなくなった後、アウレイアは路地に入り込み、指を鳴らし、『着替え』という魔法を使い、一瞬で町娘のような若草色で膝丈のワンピースを着て、皮の鎧とブーツを身に着け、茶色いショルダーバッグを肩にかけた。
この『着替え』という魔法は魔力を亜空間に繋げ、あらかじめ登録しておいた体に身に着けるもののセットを亜空間から取出し、一瞬で体に反映させ、着替えるものである。この魔法は着替える服や小物をあらかじめ亜空間に入れておかなければならず、服の重さがそのまま魔力消費量に反映されるため、使用者は少ない。…いや、もう彼女のみかもしれない。
広場に着き、周囲を見渡せば老若男女が各々に散らばっていた。レンガが広場の中心から先まで広がっており、所々にベンチが置かれている。また、中央には噴水があり、水で遊ぶ子供、それを見守る老人、ベンチに座ってピンク色のオーラを放つカップルが見られる。見渡したが、オウガストと、ミルの姿は見当たらない。まだ、着いていないのだろう。そう考えたアウレイアは近くの空いているベンチに腰を落とし、茶色いショルダーバッグから本を取り出した。
この本はアウレイアの神殿に捧げられていた本であり、現代のダンジョンと傾向について書かれている本である。冒険者として、ミルとオウガストを鍛えるにはどのダンジョンが良いのか考える際に良いと思い、ちょこちょこ読み進めていた。
アウレイアが集中して本を読んでいると、こちらに話しかけているような声が聞こえた。
「おい、嬢ちゃん。金持ちだな?ママパパの所に案内してくれないか?」
ふと見上げた途端に下賤な笑いを浮かべているおじさんが喉元にナイフを突きつけてきた。どうして金持ちだとばれたのかは分からないが、アウレイアは魔法を唱えた。
「『鋼化』」
小さく呟いたその声はおじさんには少女が怯えてなんとか絞り出した声だと思い、さらに笑みを深めた。
アウレイアはおびえた表情を作りながらも相手を観察した。鼻が大きい青色の瞳のおじさんだ。服装は小汚いシャツに灰色のサロペット。アウレイアはそのサロペットのポケットに注目する。
「『透視』」
静かに呟き、ポケットの中を見れば裏の組織とのやり取りの紙が入っているらしい。『幼女を三人。確かに受け取った。』と書かれている。とにかく、幼女が誘拐されているらしい。アウレイアはおびえた表情を止め、おじさんをしっかりと見据えた。そして、喉元のナイフを掴んだ。まさかナイフを掴まれると思うはずもなく、おじさんは驚いた表情でナイフを放してしまう。彼はアウレイアの手を見つめる。ナイフの先をしっかりと握りしめているにも関わらず、彼女の手からは血が一滴も出てきていない。
「おじさん。弱者相手に悪いことをすると、このナイフみたいになるから気を付けてね」
アウレイアはそう言ってナイフを二つに折った。バキっという音が鳴り、カランと二つになったナイフが地に落ちる。
それを見つめていたおじさんの顔は蒼白で、体が震えている。少女という仮面を被った得体の知れないものの恐怖を彼は体に感じていた。火事場の馬鹿力とでもいうように素早く立ち上がり、悲鳴を上げて去って行った。
アウレイアは本をバッグに仕舞い、周囲を見回す。おじさんが少女から悲鳴を上げて逃げるものだから、驚いたに違いない。アウレイアは笑顔で手を振っておいた。そして、下に落ちていたナイフの残骸を亜空間にこっそり仕舞った。
「…悲鳴を聞いてなんだと思ってみれば」
ミルが呆れた視線でアウレイアを見つめていた。彼女は前に買ったローブに、青い帽子を着け、茶色い動きやすそうなブーツを履いている。
「…ミル…ラージュ。どうし…、ル、アウレイア、おはよう」
名前を呼ぶのに慣れていないオウガストがアウレイアに気が付いた。彼は、前に買った皮の鎧を着て、剣を腰に携えていた。
「おはよう。ミラージュにオウゼリア。本を読んでいたら何処かのお嬢様だと間違えられて誘拐されかけたんだ」
アウレイアは笑顔でそう言った。ミルは溜息を吐き、アウレイアに諭すように言った。
「アウレイア…。庶民の元に高価な本が手に入る環境はないのよ。よって、本を堂々と他人の前で読むなんて無知なお嬢様しかしないわ」
アウレイアが生前生きていた頃、本は庶民にも普及していた。それは昔の貴族(変人)が配り歩いたことがきっかけであったらしい。よって、アウレイアは本は庶民も持っているものという認識をしたのだ。
「そうだったんだ。今度から気を付けるよ。じゃあ、全員集まったことだし、冒険登録へ行こう」
こうしてアウレイア一行は広場から、冒険者ギルドへと向かった。
ラレリール王国首都ヴィアルデン冒険者ギルドの受付嬢キャシーはこの仕事を始めて4年になる。彼女は2年目にしてようやく仕事に慣れ始めていた。依頼や登録に来る冒険者達をゆっくりだが一人で捌けていることがその証拠だった。
今日もひっきりなしにやってくる冒険者の依頼の確認をして、登録に来る人たちへの手続きを行っていた。そんなある時、可愛い少年少女の3人がやって来た。彼女たちは鎧やローブを着ている。その中の紫髪の少女がキャシーに話しかけた。
「すみません。冒険者登録をしたいんですけど」
服装は庶民のものの、少女の髪は艶が出ていて、上品な匂いがした。個人の意思を尊重するというルールがあるため、なにも尋ねることはできないが、彼女は恐らく高貴な身分であろう。冒険者には貴族を隠している者もいる。
「はい、ではこちらに名前と年齢を記入ください」
そう言ってキャシーは笑顔で3枚の紙を渡した。紙を受け取った少女は他の仲間にもそれを渡す。すると、三つ編みの少女が少女に耳打ちをした。紫髪の少女ははっとした表情になり、受付まで戻ってきた。
「すみません。字が書けないので代筆をお願いします」
察したキャシーはペンを取り、紙を3枚返してもらった。
「では、3人のお名前を教えて下さい」
紫色の少女がアウレイア、三つ編みの少女がミラージュ、少年がオウゼリアと名乗る。キャシーはそれを紙に書き込み、年齢を尋ねる。年齢は全員12歳。それを書き終えるとキャシーは灰色の箱に紙を一枚ずつ入れて行った。しばらくすると、箱がピカッと光った。ミラージュとオウゼリアが驚いたように箱を見つめている中、アウレイアだけは冷静に箱を見つめていた。キャシーはその三人の様子に気付かずに箱を開ける。すると、海を想像させる青色のカードがあった。キャシーはそのカードに書かれている内容を確認する。名前と年齢は書いた通りになっていた。カードを渡そうと3人の少年少女に目を向ける。
「どうぞ。こちらが冒険者の証になります。このカードはランクが分かるようになっていまして、青が初心者の青札です。緑色、黄緑、黄色、橙色、赤色、銀色、金色と依頼を受けて成功していくと変わっていきます。依頼は右手の掲示板に飾ってあります。依頼では冒険者カードの色が指定されている依頼もあります。皆様は青色と言うことで、手始めに青色の依頼を一つ持ってきてください。個人でもいいですし、皆さんで受けても構いません」
言い切った後にカードを3人に渡す。話すペースが速かったかと3人を見れば、3人ともしっかりと理解したようですぐに掲示板の方へ向かった。
しばらくして、3人が戻ってきた。アウレイアの手には依頼が握られている。
「この依頼でお願いします」
そう言って差し出された依頼は薬草摘みであった。実は青札の冒険者の依頼は3つ貼りだされている。1つ目がこの薬草の依頼。2つ目がゴブリン退治。3つ目が害虫駆除である。これらの依頼は常に貼りだされていて、常時依頼と呼ばれている。初心者はよくゴブリン退治など実際の戦闘を得ての功績を残そうと奮闘するが、それはあまりよくない手だ。なぜなら、初心者はどの程度戦えて、どの程度動けるのかを自分で判断することができないからだ。よって、初心者は初めのうちに怪我をしたりすることが多い。そういうこともあり、ゴブリン退治や害虫駆除はあまりお勧めしないことを依頼を持ってきた場合には言う。自分の武を弁えさせようとするのだ。
しかし、今回はそのようなことは必要なかった。キャシーはこの仕事を始めて初めてこの注意をしなかった。
アウレイア達が薬草摘みを選択したのは神任せである。つまりはどれにしようかなと歌を歌い、最後に指を指していたのが3つの依頼のうち、薬草摘みであったのだ。幸い、冒険者は誰もおらず、この選択の仕方を見る者はいなかった。いたら、初心者である彼らは怒られていたのだろう。こうして3人はなにもせずに受付のキャシーを驚かせ、薬草摘みに出かけた。
お久しぶりです。いつも読んでくださる方は本当にありがとうございます。




