終焉
聖女は星を指さした。
「星座が違う」
風が長い髪を揺らした。聖女は渦巻く風の中心にいた。
黒髪は闇に溶け、白い衣装だけが浮き上がって見えた。
「どれほど祈ろうと、道がつながっていなければ、私の祈りは天に届かない、しかし、確かにつながっているのがわかる」
両手を前に指し示し、意味の分からないおそらく彼女の世界の聖句を唱える。
その姿は異なる神に祈るまがまがしい姿のはずなのに、とても美しかった。
アルタイルは聖女に呼び掛けた。
「私は貴女の名前を知らない」
聖女はただ聖女とのみ呼ばれる。聖女はたった一人しかいないので、それで済むのだ。
今までいた幾人もの聖女もその名は伝わっていない。
聖女は己の聖句を唱えることをやめた。
「名を語ることを私は許されていない。私の真の名は塔理天孫様に捧げた、ゆえに私は大巫女とだけ呼ばれている」
悲惨な話に思えるのに、彼女はどこか誇らしげに笑う。
「それでいいのですか」
初めて、アルタイルは名を聞かなかったことを悲しいと思った。
そして、今まで曲がりなりにも世界を救ってきた聖女たちの名を知ろうともしなかった自分たちの所業の薄情さにも。
聖女は答えない、そして風が強さを増した。
聖女は一人、星座を指さしながら、歌う。
それは世界を救うための歌。聖女しか歌えない歌だった。
意味を追うことはできない。聖女だけが理解できる歌だ。
「この歌の意味を教えてやろう」
歌をやめて聖女は笑う。
「なぜ異世界の聖女が必要なのか、それは世界の別の場所からつながった場所、そこから力を盗み取るためだ。道を開くために聖女を呼ぶのだ」
「聖女が帰還するとき、それが道から力を呼ぶ時だ。だから、聖女は元の世界と一部はつながったままなのだよ
二つの世界を無理やりつなげる。それは世界の摂理を乱すこと、この世界とあちらの世界を」
アルタイルは聖女が召喚陣の破壊を命じた真の理由を理解した。
再び歌い始める。
異世界から力を盗む。それは繰り返すことは大丈夫なのだろうか。二つの世界を不自然につなげるということは。
世界を別の危機にさらす可能性もあったということ。
だから最初に聖女召喚の術を編み出した術者は一度だけの予定だったのだろうか。
たとえ安価であっても繰り返すことは危険だと判断して。
それがいつ失伝したのかアルタイルにはわからないけれど。
いつか歌がやんで、振り返ればもう聖女の姿はなかった。
聖女の世界に帰っていったのだろう。名前を捨ててまで敬愛した彼女の神のもとへ。
アルタイルの一族に伝わった仕事は終わった。
アルタイルの一族が蓄積してきた聖女にかかわる手立ては先代の聖女によって失伝し何も残っていない。
聖女召喚の術は聖女自身の要請で滅ぼされた。
これから何をすることになるのか。アルタイルは考えなければならないことが多すぎた。
之にておしまいです。もともとは聖女召喚にイスラム国のテロ少女がというネタですがやばすぎてやめました。




