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休息と謁見

随分時間を空けましたが、次話投稿します。



 あの戦いの後、長谷部と道明寺は、

騎士たちに特別な牢屋に連れていかれた。


 なんでも魔法使いを収監する専門の牢屋で、魔力を吸収する装置と金属でできた牢なのだそうだ。


 最もルティアの封印魔法により魔力を封じられているせいで、本来は普通の牢でもいいそうなのだが、

念には念を入れてということらしい。


 まあそう簡単には逃げ出せないようでなによりだ。


 俺とルティアは、体力の消耗が大きすぎると判断され、ひとまずそれぞれ宿屋と領主館に戻され、療養に努めるようにと俺が、初日に出会った女騎士に言われた。


 ちなみに女騎士さんの名前は、アデリーナという名で、この領地で数少ない人型魔道兵器(マギア・ロギア)のパイロットだとルティアは教えてくれた。


 ついでに討伐したクラッシャーは、人型魔道兵器(マギア・ロギア)で、ギルドまで運んでくれたらしい。ルティアの魔法と俺のせいで、大分ぼろぼろなうえにコアを貫いてしまったため、討伐素材としての価値は大分下がるが、コアはなんとか再利用可能。


 また今回の戦いでルティアと二人がかりとはいえクラッシャーを討伐したことにより、俺に対して

ランク査定があるそうで、アデリーナさんが対応した受付嬢曰く体が万全になったらギルドに来てほしいそうだ。


 これに関して、クラッシャーの討伐に関しては、正直ほとんどルティアの手柄だから内心は複雑だ。


 今回の場合、ランクが上がるのはともかく、受付嬢に名前教えてという資格はオレには、きっとないだろう。


 シリアは、ルティアの看病に向かっている。帰ってきた俺に治療魔法をかけた後、長々と説教もしてくれたが、まあ彼女には迷惑をかけてしまった。治療魔法のおかげで俺の傷は完治したし、彼女には、頭が上がらない。


 そう、傷だけは。


 俺もわりと瀕死だったが、どちらかというと敵の攻撃よりエクストラコード『監視』の負荷のほうが大きい。


 傷は治ったというのに、帰ってきた初日と2日目は体がまったく動かない有様。3日目からやっと徐々に手足の先が動くなってきた有様だ。


 少しずつ収まっているものの、いまだに体中、特に頭と目がいまだにがんが痛むし、負荷が大きすぎたせいなのか、現在インテグラルが使えない状況だ。


 もし他のクラスメイトに襲われたら普通に死んでしまうだろう。


 それでも現状に不思議と後悔はない


 まあもとはといえば、俺の問題だというのも大きい。俺を助けるために誰かが死んだら寝覚めが悪かっただろう


 ましてや俺を助けようとしてくれた人が死んだら、気分は最悪なんてものじゃない。


 本当に彼女を助けられてよかったと思う。


 現在俺を看病しているのはサリアだ。

 彼女は面倒くさがりだが、意外にかいがいしく俺の世話をしてくれている。


 あれからだいたい一か月。


 体も随分回復した。

 いまだにインテグラルが使えないから魔物や機械と戦うのはムリだが、日常生活程度なら問題ない。


 サリアが先に朝食を終えてしまったため、宿の1階で一人の朝食を終え、階段を上る。2階のつきあたりにあるのが、オレとサリアの部屋だ。


 扉を開けようとすると、部屋からなにやら話し声が聞こえた。


 「君はいつまで目をそらしているつもりかな?」

 「……」


 「まったくせっかく君には『眼』があるというのに、それじゃなんの意味もないじゃないか」

 「……」


 小さいが、サリアと女の子の声だな。

 誰だろう?


 俺はノックをする。

 「……っ!邪魔したね、それじゃ」


 「どう……ぞ」

 部屋を開けると、サリアがちょこんとベッドに座って、足をぶらぶらさせているところだった。


 「誰かと話していたのか?」


 「ちょっと……知り合い……と」


 「知り……合い?」

 え?いたの?


 「わたし……に……くらい……知り合い……いる……」


 「わ、悪い」


 むーっと心なしか不機嫌そうな目で睨んでくる  。

 いかんな、顔に気持ちが、出ていたらしい。


 でも、まさか


 「友達か?」

 「あんな……奴……友達……じゃ……ない」


 なんか不機嫌そうだが、

 あまり仲がよくないのかもしれない。


 俺はあたりを軽く見回してみる。

 いないな。


 「帰った」


 ここ2階なんだが。


 「飛んで……行った」


 おまえの知り合い空飛ぶのかよ。


 いやまあたぶん同じ機械姫のだれかだろうが、随分フリーダムな知り合いもいたものだ。


 ガチャリ!

 部屋の扉があけられた。

 もちろんオレじゃない。


 「休養のところ、悪いが、お前を呼んでいるお方がいるんだ。一緒に来てもらえるか?」


 それは宿屋の中でも相変わらず赤い鎧を来た女騎士、アデリーナさんだった。




 俺はアデリーナさんに連れられ、屋敷に向かうことになった。間もなくして巨大な屋敷が見えてきた


 「ここだな」


 俺はそのままアデリーナさんに連れられ、屋敷の門をくぐった。



 「ここで待っていてくれ」


 客間のような場所にメイドが来て、テーブルの上にお菓子のバスケットと熱い紅茶の入ったカップをおいって言った。


 怖い。一晩休んだが、まだインテグラルは、使えそうもない。


 もしもだ。


 いきなり処刑とかいわれないだろうか?

 ルティアの父だし。


 いやないだろう。

 そんな不意打ちで処刑とかないはずだ。


 でも、万が一もある。

 気を紛らわせようとカップに手を伸ばした。


 熱い。吹いて覚まそうとしてみるが、まだ暑い。

 これ多分俺火傷するわ。

 飲もうか、飲むまいか


 ああ、でも俺猫舌なんだよなぁ、他の人はともかく俺はもう少し冷めないときついなぁ。などとやっていると背後から、ガチャリと扉を開ける音が聞こえた。


金色の刺繍をあつらえた赤いドレスに、拍車のついたブーツやや控えめな胸元に吊り上がった瞳。ああ、一か月ぶりだが、間違いない。


 「お休みのところ悪いわね」

扉を開け、金色の髪をなびかせつつ、勝ち気な表情を浮かべたルティアが、ドレス姿でこちらに向かって歩いてくるところだった。



 「ルティア」

 彼女とはいろいろあって本来は少し意識したり、ギクシャクすると思っていたが、今は俺は謁見というイベントを控えているため、それどころじゃなかった。

 

 「随分緊張しているみたいね」


 俺の緊張がわかるらしい。


 「心配しなくても、悪いようにはしないわ」


 「そ、そうか」


 「もう!私のお父様よ?」


 いやでもな。

 貴族だしな。


 「でも、まあ確かに下手なこといったら危ないのは確かね」


 「だから、少し謁見前に話をしましょう?」


 その後オレとルティアは謁見に向けて、じっくり話し合った。ビビりながら話す俺をルティアは意外にも笑わず熱心に俺の話を聞いてくれた。


 2人で話し合っているうちにまた扉が開いた。


 「やあ」

 

 振り返るとそこにいたのは、

 ルオスだった。


 黒い燕尾服を着ており、いかにも貴族の使用人っぽい。


 それにしてもあのでかいガタイに合う服があったことも驚きだが、一番は長谷部に全身を切り刻まれたとは思えない回復力だな。


 ルオスは俺を見てにこりと笑った。


 「体は大丈夫か?」


 「おかげさまでね、でも君の方が無茶したと聞くよ?」


 「まあな、おかげで最初の数日は地獄だったよ」


 「まあ、命があってよかったよ。これから謁見かい?」


 「ああ、おまえは、ここで働いているのか?」


 「まあ、下手に町に出ないほうがいいって言われてね、有事や騎士の訓練のときいがいは、ここでちょっとしたことを手伝ったりしているんだ」


 「おまえ相手とか騎士達がかわいそうだな」


 「いや、人型魔道兵器(マギア・ロギア)相手だから、そこまででもないよ」


 人型魔道兵器(マギア・ロギア)かよ!!

 そりゃこいつのステータスは鑑定眼で見たから、すごいのは知っているが、生身で巨大ロボット同然のやつ相手にするとかやっぱこいつ普通じゃないな。


 「そろそろ準備ができた。私の後についてこい」


 むぅ、心の準備にはまだ足りない。

 俺はこの期に及んでビビっていた。


 ルティアとはあったことはあるが、彼女の父親にはあったことなどない。

 だから、しょうじきどういう展開になるのか読めないのだ。


 アデリーナさんに連れられて、屋敷を進み、一つの大きい扉の前に案内される。


 扉をあけると、そこには椅子に座った一人の男と傍らに執事と5人の騎士の姿が見えた。

 俺は、部屋の中央に進む、ルティアから聞いたとおりに、地面にひざまずく。

 これは平民が貴族への敬意を示すときの作法なのだという。

 これをしない場合、あなたを侮っていますという意味になり、大変な侮辱になるのだそうだ。


 「ふむ、楽にしてくれ」


 これをいわれたら普通に立ち上がっていいそうだ。


 俺はひざまづいた状態からゆっくりその場で立ち上がった。


 「改めて初めまして、私の名前は、アドルフォ・フォーレンハルト、一応貴族だけど、しがない子爵さ。知っての通り、ルティアの父親だ」


 「娘を助けてくれたそうだね?礼をいうよ」


 なんかいきなり話がおかしいぞ!?

 ルティアさん!あんたいったいお父様になんて話したんですか!?

 俺は、子爵様に顔を向けつつ、ルティアをなにげなく横目でちらりと見てみた

 ルティアは、親指でぐっとアピールをした。

 よくわからないが、口元を吊り上げ、笑顔でなんともすごく自信ありげである。

 ちくしょう、意味が分からない。


 「森にいった彼女を不審に思い、私の騎士の一人に話を聞いてそこに危険を感じた君がルティアを探していたところ、偶然ゼロディアの特級魔法師である敵の二人に追い詰められているところにでくわし、君は勇敢にも迷わず我が娘を助けるために立ち向かったと聞いているよ」



 まあそんな具体的な補足ありがとうございます。

 ふむふむ、なるほどね。

 

 これもう嘘ばっかりじゃん!?


 そもそも俺を助けるためにルティアが向かったのだから、その話はおかしい。

 ルティアを見てみるとにこりと微笑んでいた。



 なにも話すなとその目が告げていた。瞬きを一切していない。前もって相談されたときの死んでもこの嘘を続けろというメッセージだ。


そう、それは確かあの時――


 回想開始――――――


 俺はルティアと二人、謁見に向けてマナーを聞いたりしていたときの話だ。


 「ちなみに私が合図した時は、正直に話したらダメよ?とにかく私の話にあわせなさい」


 「正直に話したらどうなるんだ?」


 「死ぬわ」


 「えぇ!?」


 「ゼロディアの勇者達に狙われているなんて厄介ごとを引き込んだうえに、私が巻き添え喰らったわけだしね」


 巻き添えというか、どちらかといえば、ルティアさん真っ先に突っ込んでいった気がするが、まあ巻き込んだのは事実だ。


「これはもう間違いなく処刑されるわね」

 

 目が真剣だった。

 あれ?これ長谷部と戦っているときの目じゃね?

 うわぁ、マジの話っぽい!


 「ここまで聞いてあなたは、どうする?」

 

 ふん、そんなのきまっている。

 

 「この嘘は墓場までもっていこうじゃないか」


 「ふふっ!いい心がけね!」



 回想終了――――――――



 結果正直に話すと処刑されるかもしれないことが判明したので俺は口をつぐむことにした。


 「君には今回の褒美を与えよう」


 「あ、ありがたき幸せ」


 ただ罪悪感がきつい。


 「そこで、手始めにぜひとも君に男爵としての位を与えたいのだが」


 「そ、それは申し訳ありませんが」


 ただでさえ心苦しいのに、そんなのもらえないし、実をいうと、貴族の身分なんて邪魔なだけだ。

 ていうかそんなのもらったらどこにも逃げられれなくなるだろうが。


 「なぬっ、断るとなっ!?」


 子爵様は俺が話を断った時、じっと俺を強く睨み付けた。


 ま、まずい、子爵様の気分を損ねてしまったかもしれないとはいえ前言撤回するわけにもいかないしな。


 「お父様、ちょっと」

 

 拙いと思ったのか、ルティアが援護してくれた。


 するとルティアにたしなめられ、アドルフォ子爵は表情を緩めた。


 「ははっ、いかんいかん、そうだな、タロウ殿は娘の恩人。

なら無理強いするわけにはいかんな」



 「ふむ……」


 そこで子爵様は顎に手を当て、思案している様子だった。


 「では、褒章としていくばくかの金銭を、それならよいかな?」


 「は、はい」


 二度目の褒章の申し出は思わず受けてしまった。

 最初の男爵という褒美を断っているだけに断りづらかったのだ。


 「では、娘を救った報酬として足りるかわからないが」


 執事が用意していたのか、横から目の前に移動してきたカートに似たものの上にのせられた皮袋が、俺に渡された。見た目ちょっとした人の顔程度の大きさの革袋。


 渡された袋にはずっしりとした重みがあった。中身をこの場で見るのは失礼だと前もってルティアに聞いているので、開けないが、それでもこれがすべて金貨だとするととんでもない額になる。


 「多すぎでは?」

 「そうか?娘を救ったものに与える額としては微々たるものだと思うが」


 子爵様はすまし顔だ。

 貴族にとってこの程度はした金だとでもいう感じか?


 いや、どちらかというとそれだけルティアが大事なのかもしれない。

 おそらくは感謝の気持ちなのだろう。

 そう考えると、まずますこの金が重く感じるな。


 「ここからは少し別の話なのだが」


 「?」


 「今回のようなことがあると父親としては不安で不安で仕方がないのだよ」


 「はあ」


 「わかるかね?」


 「ま、まあ」


 「そうだろうとも、魔法神の加護を持つ彼女は領民に慕われているとはいいがたいのだ、」


 「私の目の届くところならともかく、目の届かないところだとやはり信頼できる騎士も少ないのが実情でね、大変困っているんだ」


 いやな予感がするぜ。


 「実は君にぜひとも受けてもらいたい依頼があるのだ」


 「依頼ですか?」


 「短い間だけでいいのだ、もうじき私の父が王都から帰ってくる、そのときまで我が娘の護衛の依頼をなんとか頼めないかね?」


 そこでルティアがその話を受けろという合図を出した。

 受けなきゃ処刑されるわよ?という意味の合図を視界の端で見た俺はついその依頼の申し出に頷いてしまう。


 「わ、わかりました」


にやり、  あれ?その笑顔は、なぜか最近見たことがあるぞ。

具体的には、すぐそばでにこにこしているRさんとかから。

 あ、やばいと思ったのも束の間。


 「よくいってくれた!」


 「本人の承諾により、タロウ・ヤマダをルティア・フォーレンハルトの第2騎士に任命する!短い間の護衛任務だが、よろしく頼むぞっ!」


 あとからきいたのだが、この国では、貴族が、特定の信用できる冒険者を期間限定で臨時の騎士として雇用する第2騎士という制度があるらしい。


 依頼の間のみ、騎士としての身分と権限が与えられる代わりに、義務もついてくる、いうなれば期間限定の騎士ということだ。


 どうしても貴族や騎士相手でも仕事をこなしてほしい平民に対して使うことのある制度とはいえ、

期間限定だから、俺に対しては、形式以上の意味はないだろう。


 とはいえただの依頼かなと安請け合いしたのは少し軽率だった。


 まあどのみちすぐにこの町を移動できるとも思っていなかったし、路銀稼ぎには丁度いい


 護衛する相手も幸い見知った人間だ。


 その護衛される当の本人はにこにことすまし顔。


 ふむ、まあ彼女のSPもどきをやるのも悪くはないだろう。


 長谷部達との戦いで俺が、助けられた借りを少しは返すと思えばいいのだ。

そう考えれば悪くない。


 そんなわけで彼女(ルティア)とはもう少し縁が続くらしい








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