決戦の地にて 魔法神の加護と本気の長谷部4 そして彼女はまた彼に助けられる
藤堂貴会(主人公)サイド
もう近い。
あれだけ響いていた爆音が止んだことに焦りつつ走ることしばらく
「ここか……」
森を抜けるとそこに広がっていたのは、荒れ果てた大地としかいいようがない空間だった。
どんな巨大な魔物や巨人が暴れまわったというのか
巨大なクレーターがいくつも点在している。
ここが、森であったことを信じられなくなるような景色のちょうど中央にルティアが、それを囲むように二人の学生服の男女、少し離れて巨大な機械がうずくまりつつその肩にある砲口をルティアに向けているところだった。
予想に反し、そこにはルティアと長谷部以外に学生服を着たリーゼントの男と見知らぬ機械がいた。
機械は四肢がないものの、肩の銃器でルティアを狙っている。
ルティアは血だらけのローブを見るからに明らかに瀕死だ。
脚はフラフラだし、目も遠目で見てもぼんやりとしているし、額と耳からは血が流れており、手足の出血も少なくない。
3対一の明らかにルティアが不利な状況。
打開するのは今のままの俺では明らかに無理だ。
だから
俺は迷わず切り札を使用した。
「『監視』発動」
その瞬間世界が変わった。
視界のあらゆるすべてが情報の海に代わる。
無数の文字列が流れは消え、流れは消えていく。
情報は文字だけではない、いつのまにか
粒子すら見えるほどに視界が研ぎ澄まされていた。
周囲をまるで群体の様に舞うミクロやマクロサイズの無数のメクロの群れすら視認できるすさまじい解像度の視界。
そんな視界で情報は無秩序に増殖する蟲の様に視界を覆い尽くしていき、無差別で無軌道でとてもではないが俺は制御できず……。
_________________________________________________________________
長谷部が風の魔法の準備を開始
長谷部がこの戦闘の最中に創生魔法で自分自身を創生済み。
破壊者の動力ジェネレーターは胸部衷心よりやや左。
現在、破壊者のグレネード発射トリガーは、肩部裏側内部機構により操作。
ルティア・フォーレンハルト、現在瀕死状態
幼少期のルティアは、生まれつき魔法神の加護のせいで膨大な魔力に耐え切れず、病弱。
ルティア・フォーレンハルトは膨大な魔力を持つが、戦闘経験が不足、コンディション悪化もあり、現在もグレネードの有効な防御方法を現在模索できず。
権能『生産』が、接近中。
道明寺 奈留が空間魔法『物質転移』を使用
幼少期の長谷部は、いじめられっ子で泣き虫
権能『掃討』は創造神の人類への期待から創られた。
さあ、『掃討』よ、『機械神』よ!この大地で、今こそ人と共に素晴らしき人類賛歌を奏でるのだ!
馬鹿な、この程度で人が滅びるはずがないではないか
おお、素晴らしきわが人類、
さあ、私に人の可能性を見せてくれ
でなくば死ぬがいい、可能性無きものに価値はないのだから
____________________________________________________________________
目が燃えていた。
熱と痛みに頭がどうにかなりそうだった
視界が無数の情報に犯されていた。
燃えるような情報の波が、どうしようもなくて
負荷が体を蝕んでいるのがわかる。
明らかについていけていないからだ。
これはまだ俺が使える段階じゃないのが嫌でも思い知らされる。
本来ならコードを集め、成長を繰り返すことで取得できるコードを無理矢理再現した代償なのだろう。
体中、特に目がきしむような痛みが止まらない。
それにもかまわず、いきなり流れてきた情報群。それだけにとどまらずそれらの行動を解析、予測し、過去を再現し、現在、過去、未来、あらゆる情報を所得する
『コード『ギア・アクセル』』とは比べ物にならない無数の情報群に俺は頭が割れそうな激痛がはしる。
俺は必死に前を見据えようとして視界が情報に埋まる。
なにもかもが情報に飲まれそうになる。
もう諦めていいんじゃないか?とこんなの到底無理だと弱気な自分がささやきそうになる。
いや、そんなことは断じて認められないっ!
これは俺の責任だっ!
今まで生きてきて、さんざん誰かの理不尽に苦しんできた俺が、自分の理不尽を誰かに押し付けるなんて
するわけにはいかないっ!
命は大切だ、それでも大事なものくらいわかっている。
だから、必死に意識を研ぎすませる。
そして無数の情報の一部に『これはいらない』と強く意識する。
すると情報の海が少しだけ少なくなった気がした。
俺はそこから必死に必要ない情報を減らすよう意識する。
比例するように痛みが強くなるが、かわりに視界がだんだんと正常になっていく。
流れる情報には未来や現在だけでなく過去のことも多くあった。
(いや、今は過去なんてどっちでもいい)
(情報を取捨選択しろ、必要なのはこれからのことだけだ)
痛む視界で、
残った無数によぎる情報の中から少しずつ厳選していく。
するとやがて脳裏にそれが映った。
破壊者
稼働年数12××
眷属分類『掃討』
馬力 D+
防御力 D+
持久力 E
速度 D+
器用さ E
魔力 _
武装 肩部 グレネードキャノン(発射直前)
右腕(破損) レーザーライフル(破損)
左腕(破損) メタルシールド(破損)
コード 不明。
エクストラコード『監視』はコード『鑑定眼』の効果を常時発動するようだ。
そのおかげで、今何が起ころうとしているかを思い出す。
今も体が、目が、引きちぎられそうな痛みがある。
それでも、俺がやるべきことは一つ!
ルティアを助けることだッ!
「撃たせて……たまるかっ!」
俺は、軋みをあげそうな体を動かし、無我夢中で右腕を突き出した。
そのままいままさにグレネードをルティアに放とうとする破壊者に向ける。
破壊者とルティアの距離はある程度離れてはいる。
けれど着弾してしまえば防御なんて意味はない。
ルティアの障壁は強力だか、それだけでは防ぎきれない。
必要なのは、その爆風と爆音を防ぐ手段だ。
けれど、先ほど流れてきた情報でルティアは、グレネードへの有効な対応をいまだに発見できていないことを俺は知っている。
そういう俺にしてもグレネードを正面から受け止める方法などもってはいない。
魔法なら『対魔装甲』で防げても物理的脅威に対抗できるコードを俺はまだ習得してはいない。
残念ながら、グレネードの物理破壊力をまともに受けてしまえば俺達は、ただでは済まない。
・・・・・・・・・・・
なら撃たせなければいい!
「パイルランサー!」
右腕から飛び出した杭に似た槍は、一直線に四肢を失っている破壊者の肩にある砲口部の一部を貫いた。
それは
外側からは決して見えないトリガー部だ。
先ほど流れた無数の情報の中にあった『現在、破壊者のグレネード発射トリガーは、肩部裏側内部機構により操作』から俺は一つの考えが浮かんでいた。
発射を操作する部位を破壊すればどうなるのか?
無論物理的な発射以外の手段も存在するだろう
だが、ひとまず発射を遅らせる可能性があるのではないか?と
(どうなる?)
俺は駆けながら、しばらく様子を見守った。
地面に四肢を失い転がっている破壊者は肩のグレネードキャノンをルティアに向けたまま微動だにしなかった。
発射音もなにかに激突した音も爆音もない。
(よしっ!)
思惑通り、トリガーを破壊したことで、グレネードキャノンの発射までにわずかの猶予が与えられた。
俺はまよわず、コードを使用しする。『コード『ギア・アクセル』「パイルランサー」!』
血流が加速する感覚のまま、俺は破壊者に向かいながら
「……charge」
「……charge」
「……charge」
「……shot(撃て)」
胸部の右側に向けて雷撃の杭が奔る。
杭は、動力部を的確に貫くことに成功し、破壊者の二つのカメラアイが光を失い、その場で崩れ落ちる。
がしゃんとその場で頭を地面に落とした破壊者の破壊を確認した俺は、そのまま血だらけのルティアを急いで腕に抱え上げる。
思ったより軽い彼女の体は、すんなりと俺の腕に収まる。
「ルティア……っ!」
「あんた、なんでここに……」
腕の中で茫然とした目で俺を見るルティア
だが、俺はそれに反応する暇はなかった。
――まだ敵は残っている。
『長谷部があらかじめ準備していた風の上級魔法を放つ』
「っ!?」
エクストラコード『監視』による予測で現れた情報に俺はすぐに反応する。
巨大な山のような風がいくつも連なり飛んできていた。
家を超えるクラッシャーも大きかったが、長谷部の風はそれ以上だ。
もしかしたら町に当たればそのまま半壊しそうな巨大な一撃。
間違いなく昨日戦った長谷部よりも強力な一撃。
・・・・・ ・・・・
だが、運が悪いな、長谷部、今の俺はとてつもなく目がいい。
エクストラコード『監視』により今の俺の洞察力は、凄まじい域にまで高められている。
本気になれば粒子レベルすら視認できるこの状態なら、やれるだろうと確信する。
・・
風の薄い場所を狙い俺は構えた。
「コード『対魔装甲』」
コードの発動と共に現れた魔法の減衰効果を持つ左手のガントレットで風を打ち砕く。
腕に抱えたルティアに当たらないように
一つたりとも通しはしない。
一つたりとも見逃しはしない。
駆け抜ける風のトンネルは、さほど時間がかかることもなく、
やがて巨大な風の渦を俺とルティアは無傷で抜けていた。
「なんですかッ!?無能君まで急に強くなったってやつですか!?ちょっとインフレひどいですよ最近!」
渾身の攻撃を凌がれ長谷部は怒り心頭なのか、ぶつくさと文句をいっているが、そんなことは知ったことじゃない。
俺は二人のクラスメイトの敵を眺め
長谷部
年齢 不明
種族 人間
筋力値 不明
防御力 不明
体力 不明
速度 不明
器用さ 不明
魔力 不明
スキル 不明
加護 風の最愛
風魔法のすべてのスキル、魔法を習得する。
加えてこの世界の風の魔法神の権能の一部を自在行使する
道明寺 奈留
年齢 不明
種族 人間
筋力値 不明
防御力 不明
体力 不明
速度 不明
器用さ 不明
魔力 不明
スキル 不明
加護 虚空の最愛
空間魔法のすべてのスキル、魔法を習得する。
加えてこの世界の空間の魔法神の権能の一部を自在行使できる
エクストラコード『監視』は発動しているが、
それでもなお2人のステータスはわからない
神の加護の影響とやらのせいなのか、特殊なアイテムのせいなのかそれはわからない。
だが、2人の加護、特に道明寺の加護がわかったのは収穫だ。
道明寺は、空間魔法の加護を得ているのか。
そこで
『道明寺が空間魔法『物質転移』を行使しようとしています』
脳裏に浮かぶその予測に俺は、すぐさま
「マシンガン」
リーゼントの道明寺に無数の銃弾が殺到する。
「がぁっ……!?」
男の腕を的確に打ち抜き、魔法を妨害する。
集中が阻害されたからか、俺からだいぶ離れた場所に無数のナイフが現れ地面に落ちるのが見えた。
確かに
空間を跳躍する攻撃は脅威だが、男の動作自体は早くない。
・・・・・・・・・・・・・・・
ならそれを乱してやるのは、相手の行動の起こりを予測できる今の俺には、難しくない。
だが、俺が道明寺を攻撃した間に長谷部は俺に向けて風を放とうと腕を振るおうとしていた。
「『ファストレイ』」
俺を攻撃しようとした長谷部を腕の中のルティアが迎撃した。
一瞬にして空の上に現れた無数の光の槍が長谷部に殺到する。
これはすごい。
だが、爆撃のように音もなく降ってくる光が一瞬俺のほほをかすっていた。
「ひぃっ!?」
(おいおい、今俺に当たりそうじゃなかったか……!?)
思わずルティアを手放しちゃったよ。
見れば、ルティアは、
器用に猫のようにくるんとその場で回転して地面に着地していた。
明らかに物理的におかしいのは、風の魔法を使用したからだろう。
びくびくしつつ、気をとりなおして、ルティアに向き直る。
見れば、
血だらけのローブ。
綺麗な金髪も顔も
顔が赤いのは熱か体調が悪いのか、
それでもこの期に及んでも彼女は強気な姿勢を崩していないのは素直に感心した。
「大丈夫か?ルティア」
「ふ、ふんっ!か、かっこ悪いところ見せたわねっ!」




