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ゼロディア第1の刺客 クラスメイト 長谷部 栞 後編 一応の決着


 コード『ギア・アクセル』の効果は、そろそろ弱まってきている。

 冴えていた視界が、ぼんやりとしだしてきているのだ。


 体も心なしか少しずつ重くなってきており

 残り使用時間が近づいているのを嫌でも思い知らされる。


 この倦怠感が、全身を覆い尽くす前に勝負をつけなければならない。


 俺の強化された聴覚は、長谷部に一度弾き飛ばされたサリアが到着したらしいことを告げていた。


 俺は彼女の戦闘能力を知らないが、神の子である機械姫であることを考えれば、

 見た目通りただの少女でないことはわかる。


 サリアは、手に子供の頭くらいはある青い宝石を持っていた。

 アレは確か彼女の目と呼ばれるものだったはずだ。


 何をする気か知らないが、俺はサリアの行動を援護するために長谷部に対して行動をしかけることにした。


 「パイルランサー」

 「……charge」

 俺の言葉に反応し、右のナックルを蒼い電が覆い始める。


 コード『対魔装甲』の左腕のガントレットを盾にするように、掲げ、右腕の丁度肘まである今は赤い色をしたナックルを俺は長谷部に向けて構える。


 「大技ってやつですか?まあ、大したことはなさそうですけど」


 俺は長谷部の嘲りに耳を貸す気などない。

 しかし、俺はまだ撃たない。

 この程度では長谷部の風を貫けないからだ。

 だから、

 「charge」

 貯めて

 「charge」

 さらに貯めていく。

 それにつれて、蒼電を纏う右腕の輝きが、強く激しくなっていく。

 コード『ギア・アクセル』のおかげで『パイルランサー』の威力もチャージ限界も上昇している。

ばちばちと右腕だけでなく、周囲の空気まで帯電を起こし始め、余波がどんどんと広がっていく。

 

 「むっ?」


 尋常ではないその蓄電に対して長谷部は警戒するようにこちらをうかがっている。

 強化された俺のインテグラルだからこそこの帯電にも耐えられているのだ。

 限界までのチャージにより威力は今までのパイルランサーとは一味違う。

 さあ、いまだ。

 

 「……shot(撃て)」


 まるで流星のように放たれた杭は、一直線に長谷部へと飛んでいく。

 長谷部は、風を吹かせるが、多少の強風ではその勢いは止められず、高速で長谷部に向かい蒼電の流星が飛翔する!


 「おっと!」


 だが彼女には移動用の風がある。


 素早く自身の身を風で運び、後ろに素早く飛んで回避する。


 俺の放ったパイルランサーは回避されたために、空しく長谷部の顔を青白く照らしながら、真横を通過していった。


 「ふう、危ない、危ないっ」

 「ま、威力はまあまあでしたけど、速度が足りませんでしたね」


 俺の攻撃を避けたことで安堵している長谷部は背後から近づいている彼女には気づいていなかった。

 宿屋で俺に近づいてくるときに使った気配を遮断する力を使ったのだろう。

 よし、このまま……っ!

 

 だが、長谷部へとあと一歩で触れられそうな距離で彼女は、足元にある木の枝を踏んでしまっていた。

 ばりっという枝が折れる音を聞いて、思わず長谷部が背後に振り返る。

 そこにいたのは小柄な人形のように整った容姿を持つ少女、サリアだ。

 

 「いつの間に……っ!?」


 だが、サリアと長谷部の距離はもうかなり近い。

 サリアは腕を振りかぶっている。

 え?それ投げるの?


 「えいっ……」

 次の瞬間、なんと

 サリアは手にしたソレを思い切り、長谷部に投げつけていた。

 俺に宿で壊してほしいと頼んできた青い宝石、すなわちサリアの目を!


 「こんなもの……っ!」


 風の魔法で迎撃しようと、長谷部は強風で弾き返そうとした。

 彼女自身の髪が舞い上がるほどの吹き荒れる風が、あっという間に長谷部を守るように展開されていく。


 「なにをしようとしたのかわかりませんが、この程度私の風で……痛ぁっ!?」


 だが、投げられたものは、そんなものなど関係ないね、とばかりにがつんと長谷部の頭に直撃していた。


 ふむ、あのサリアの目である宝石は、頑丈なだけでなく、魔法を遮断する能力を有しているようだ。


 「い、いたぁ~い!」


 子供の頭ほどもある宝石がぶつかったため、比喩ではなくかなり痛そうだ。

 にしても自身の目を投げるとは思わなかった。

 そりゃ頑丈なのは知っているが、だからといって仮にも自分の目に対して扱いがぞんざいすぎないだろうか?


 その後転がる自身の目にサリアは目もくれない。

 壊してほしいのは知っているけどさぁ、どんだけ嫌いなんだよ。


 「た、ただの鈍器とか、なんて野蛮な攻撃……」


 頭を片手で押さえながら、長谷部は気絶することは、なかった。

 ちっ、パイルランサーの過剰チャージのせいで俺の体力も時間も残りわずかだというのに。


 「も、もう許しません、この魔法であなたたちを……」


 涙目で憤怒に歪む長谷部の上空に完成したらしいあの風の大魔法が、円状の光を放出し、発射のときを知らせるように明滅を開始する。


 もう時間がないっ!


 だが、俺の耳もそこでやっとこちらに向かってくる待ち人が到着したことを理解していた。


 「ぶっ殺してあげますっ!」


 長谷部の周囲を吹き荒れる風はまるで台風のようで、彼女の周囲はとても近づけるような有様じゃない。


 俺は彼女から少し離れる。

 無数のかまいたちが囲うような有様の彼女の周囲は、今や無数の掘削機が舞う危険地帯。

 だというのに、そいつは姿は見えずとも、いた。


 どんな執念だというのか、いったいなにがアレを駆り立てているのか。

 魔法を減衰する効果があっても、なお体が切り刻まれ、きしむ音を響かせながら、自身が壊れることなど気にもしてないようなそいつの考えることなど何一つ俺は知らない


 けれどただ一つ、強化された聴覚で俺はソイツの聞き覚えのある駆動音が、そこにいるのがわかっていた。


 ――奴はもう彼女の後ろにいるのだから。

 「えっ、っう!!!?」

 奴の手にした剣はすでに振り下ろされて、長谷部の脇腹を見事に貫いていた。


 脇腹から赤い血が滴り落ちていく先にある

 その剣の持ち主は

「殺害……する、殺害……する、貴族はすべて……殺……害……それこそ、かよわき我が主の……唯一の……望み……」


 3体目の貴族殺し(マジシャンキラー)だった。

 無機質なはずなのに、なぜか悲哀と憎悪すら感じるその声の主に長谷部は思わず振り返るが、斬られた後では、もう遅い。


 「いっ痛……っう!?なん……ですか?こいつ、魔物……なんですかッ!?」

 長谷部は貴族殺し(マジシャンキラー)のことを知らないようだった。


 あのとき、コード『ギア・アクセル』を使用してすぐ、俺はこちらへ向かってくる二つの気配を感じていた。


 一人は長谷部に弾き飛ばされつつもこちらへ身を隠しながら向かってきていたサリア。

 もう一人は、コード『インビジブル』を使用しながら真っすぐ長谷部のいる方向へと向かってきているとある機械だ。


 サリアもいないみたいだと言っていたし、

 俺もてっきりもういないと思っていたのだが、遠くにまだ残っていた個体がいたようなのだ。


 俺達が倒した2体目に呼び寄せられて、来たのだろうか?


 「痛い、マジ痛いですよ、これ……なんなんですか、もうっ……ぅぅっ」


 貴族殺し(マジシャンキラー)の用いたコード『インビジブル』からの奇襲をもろに受け、脇腹を剣で刺された長谷部は重症だった。


 貴族殺し(マジシャンキラー)には魔法を減衰する装甲がある。


 それのおかげで、長谷部のもとまでこの暴風の中、原型をなんとかとどめたまま近づけたのだろう。


 俺達が戦っている間にも長谷部が起こした風でボロボロに切り刻まれながら、痛みを感じない貴族殺し(マジシャンキラー)は、一際強力な風の魔法の加護を受けている長谷部 栞を虎視眈々と狙っていたのだ。


それがいま成就した。


貴族殺し(マジシャンキラー)は、長谷部の脇腹を刺した時点で力つきたのか、その場で崩れるように、地面に倒れた。


貴族殺し(マジシャンキラー)は、俺が見た限り長谷部の行使した魔力はルティアよりも多く、あれなら貴族殺し(マジシャンキラー)の優先順位は長谷部の方が上だと確信していた。


 そうだ、あれだけ強力な魔力を連発していれば、ルティアではなく、長谷部が真っ先に狙われるのは無理もない。


 すると、倒れた貴族殺し(マジシャンキラー)に長谷部は目を向けた後、急いだ様子で長谷部は制服のポケットから震える手で赤い液体が入った瓶を取り出していた。


 「ポーション、早くポーション飲まないと……」


 手にした瓶はおそらく高位の治療薬だろう。


 させない!

 俺のコード『ギア・アクセル』の効果ももうほとんど切れかかっている。


 身体能力ももう通常の状態と変わらないくらい落ち込んでいることがわかるし、

 もうまもなく数秒で俺は動けなくなる

 これ以上の戦闘は俺の敗北になる!

 なんとしても阻止しなければ!


 「マシンガン」

 手にした銃器を躊躇なく長谷部が手にした瓶に向けて撃ちこんでいく。

 「あっ」


 その中の一つがいい感じに瓶に当たった銃弾は、見事その役目を果たし、対象を砕いた。

 割れたせいで、飛び散る赤い液体を茫然と見る長谷部。


 「ちょ、これ高いんですよ!無能君の命なんかより何倍も高いんですからっ!」


 「知るかっ!」


 長谷部はその場で限界なのか、倒れていた。

 もう脇腹の出血のせいで動くこともままならないのかもしれない。

 「ふふ、さすがですね、」


 長谷部は笑っていた。

 なんだ?こいつはなぜ笑っている?


 「あーあ、負けですか、勝てると思ったのになー」


 長谷部は不思議と死の恐怖を感じていなかった。

 ――おかしい。あまりに不自然なほどに。

 いぶかしんでいると長谷部の体がほんやりと光り始めた。


 「ふふ、まさか、私の分身を倒すとは思いませんでしたよ」

 なんだこれは?長谷部の体が崩れていく?

 「だから、分身ですよ、分身、まあ気づかないのも無理はないですけどね、実際本物とほぼ変わらない実体あるものですから」


 分身?どういうことなんだ?

 いや、あんな怪我をするような実体のある分身だなんて嘘にきまっている。


 「上級魔法のその上にある創生魔法っていうらしいですけど、ま、あってよかったってことですかね」

 長谷部は訳の分からないことを話している。


 いや、脳が理解を拒んでいるだけだ。

 俺は今までとんでもない勘違いをしていたのかもしれないことを。

 あれだけ俺たちを追い詰めておいて、こいつが、まったく本気じゃないだなんて。


 「でもま、あなたの戦力の底は知れました、ふふ、ふふふふ」

 長谷部は、にやりといやらしく笑う。

 それは俺を見下すような、嘲笑。


 これは彼女の小手調べだとでもいうのか。

 「警戒はしておくものですね、普通にぶつかったらヤバそうなイレギュラーもいたようですし、やっぱ戦い前の情報収集は重要!ってことなんですねぇ」


 なにかを理解した気になっているのかしみじみ話す長谷部が俺には理解できない。

 最悪の予感を感じ、冷や汗が我知らず噴き出していく。

 「さて、では一方的に情報を与えてもらうのもなんなので、こちらからも情報を与えてあげましょう」

 なんだ?何を言う気だ?


 「実は本体の私ですが、最低でもこの10倍は強いんです、まことに残念ですが、事実でーす!」

 「10……倍?」

 俺はそれを聞いて一瞬頭が真っ白になった。

 10倍?10倍!?


 は!?なんだよそれ、盛りすぎだろ。

 ゲームじゃないんだぞ、そんなほいほい強くなるとかふざけてんのか。

 あれだけ苦労したのに、本体は10倍強いだなんて、ありえないだろ。

 だが、長谷部のあの自身に満ちた表情が嘘ではないと俺につげていた。


 「ふふ、まあ信じるかどうかは無能君次第ってやつですね、それではまた明日。せいぜい首を洗って待っていてください」


 茫然とした俺のもとに気絶から回復したシリアとルティアが近づいてくるのがわかった。


 けれど、俺はコード『ギア・アクセル』の影響で体を動かせず、その場にうずくまってしまう。

 体力切れだ。

 彼女達に対しては今はなにをされても、俺は何の反応も示すことができない。


 でも、もし体が動いたとしても結果は同じだったかもしれない。

 あんな事実を知らされたのだから。



 俺の頭の中には長谷部の言っていたいくつもの言葉が何度もよぎっていた。


 10倍?あれの?

 しかも長谷部は明日俺の命を狙いにくるという。

 いったいこれから俺は、どうすればいいんだよッ!?






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