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ゼロディア第1の刺客 クラスメイト 長谷部 栞 中編

 


 切り札はある。

 俺がゼロディアを逃げる最中に幼馴染相手に使ったこのコードなら、まったくの活路を開けないということもないだろう。


 しかし、使えば俺にあとはなくなる。

 俺が倒れた場合、はたして俺は無事でいられるのか?


 俺はまだこの場の全員を完全には信用していない。

 けれど、ルティアは、魔力を使い果たすほど戦い抜き

 ルオスは身を挺し俺をかばい、

 シリアは危険を承知で回復魔法を使用しようとした。

 なら俺も体を張る程度のことはしてもいいかもしれないと思ったのだ。


 なにより、どのみちこのままではその後もない。

 ならば使うしかない。

 

 『コード『ギア・アクセル』』



 コードを使用した瞬間から、体中が変質していくのがわかる

 体内の血流が加速し、

 視界が一気に鮮明になる。


 今まで疲労で重かった肉体が、一気に軽くなり、

 切り裂かれた傷も、外殻装甲とともに再生し、そればかりか、赤い装甲が新たに展開され、全身を覆い つくいていく。


 五感は強化され、今まで見えなかった、聞こえなかった

 あらゆる情報が脳内に入ってくる。


 相手の風の動きを理解できるほどに鮮明な聴覚と視覚。

 中でも強化された聴覚により、周囲の無数の音が聞こえてきた。

 ルティアの苦し気な息遣い、サリアがこちらに向かってくる足音、懸命に立ち上がろうとしているルオス。


 蟲の葉音、魔物同士が遠くで争う音、冒険者が魔物を狩る音、機械が周囲を巡回する飛行音。

 森の中には様々な生物が生きているのをいやでも思い知らされる。

 また強化された聴覚により、こちらに向かっているらしき一つの個体も認識した。


 てっきりもういないと思っていたが、こいつは利用できる。

 目の前の敵に対しては使える手は何でも使うと決める。

 

 このコードは俺が、ランクDの機械を倒したときに得たものだ。

 使った後に問答無用ですべての体力を消費してしまうために、その場で身動きできなくなるために、使用を今までためらっていた。


 ここからは本気で、やろう。


 「なんですかそれ?それでなにか変わったんですか?」


 可愛らしくも悪魔のように嘲りながら、腕を振るとすぐに風が巻き起こった。

 その風は、鋼鉄を切り裂くほどの強力な殺傷力を持ち、目に見えないために間合いも把握しづらい。

 だが、見えないはずの風は強化された知覚のおかげで、その軌道が理解できるようになっている。


 まるで振り下ろされているのが剣であるのと同じように、手段さえあればそれを受け止めるのも可能ではないかと思うほどに


 大きく真横に跳ぶ、今度は余波さえ当たらない


 今の俺には、それが彼女が使用した風の下級魔法が、変化した姿なのだとわかる


 あまりにも膨大過ぎる彼女の魔力により、ただの下級魔法でも鋼鉄を切り裂くほどの威力を持つ魔法に変化しているのだ。


 「コード『対魔装甲(マジック・コーティング)』」


 コード『アクセル』を使用したことですべての思考が加速されている俺にはこのコードの本来の使い方がわかる。


 コード『対魔装甲(マジック・コーティング)』を使い

左腕に展開されたのは、青い輝きを纏うガントレット、本来は体に纏うそれを一か所に集中し、盾のように物質化させる。

このコードは、体に纏うことで魔法を減衰させる効果を持つ全身防具だが、その魔法に対する防御力は持ち主の意思に応じて分配を決められるのだ。

例えば、このように一部に集中させることでその防御力を極限まで高めることも

「そんな盾なんかでどうしようっていうんですかねぇ!?」

長谷場が再度腕を振るう。

その風に対して俺は大きく踏み込む。

「」

左腕に展開された青いガントレットのようなそれを迫りくる風に向けて叩きつけた。


ガントレットに激突した風の魔法は、最初からそんなものなどなかったかのように消滅した。

「えっ!?」

自分の魔法が初めて正面から受けられた事実に長谷場は大きく目を開けて、驚愕をあらわにした。


本来なら、魔法の減衰効果程度の効力が、一か所に集中されたことで

多少の魔法なら無効化させるほどの効力を持つにいたったのだ。


魔法の風の余波は、物理現象のかまいたちとは違う。そのために本来のかまいたちならこのようなことをすれば全身が切り刻まれるが、俺が受け止めたのは魔法だ。


 魔法で起こされている現象である以上、風を消せば、残った物理現象は急速に消滅していく。

 当然、魔法本体を消す前に余波を受けたりすれば、深手はまぬがれないために

 強化された知覚で絶えず相手の魔法を捕らえる必要はあったが、今なら

 それができる。


 同時に俺が入手したコードの真価にも気が付くことができた。

 防御型のコードだと思っていたが、とんでもない

 このコードは魔法の存在を否定するコードだ。

 魔法の存在さえ許さぬという『貴族殺し』の眷属のその意志がコードに宿っているのがいやでも思い知らされる。


 「小技ばかりではらちがあきませんね」


 長谷部は、おもむろに片腕を真上に掲げた。

 しばらくして眩い緑の極光が上空に現れる。


 長谷部は、おそらくルティアが防御魔法で防いだ

 竜の咆哮を思わせるあの風の大魔法を放つ気なのだろう

 あれはまずい。


 さらに長谷部は魔法の詠唱を複数可能なようだ。


 大技を上空で展開しつつ、さらに自身は両腕に風の魔法を纏わせ始めた。

 長谷部は風の刃と化した右腕を振り下ろし、同時に風を纏わせた左腕で仕留める気だろう。


 俺のガントレットは一つ、なら一度に受け止められるのは一つだとわかっているのだ。

 さっそくとばかりに

 長谷部の振り下ろした右の風の刃をガントレットで受け止める。


 右の風の刃はガントレットに跡形もなく消されるが、

 振り下ろされた左腕の風に対して後退して回避を試みる。


 コード『アクセル』で強化された赤い装甲を浅く切り裂いたところで、俺は再度相手に踏み込んだ。

「おっと、危ないですね!」

 今度は逆に相手が風を纏い背後に跳び、逃れようとする。

 と思いきや、右足の膝が跳ね上がる。

「つぶれちゃえ♪」

こちらの下半身を狙うような容赦ない蹴りに思わず寒気を覚えつつ、ガントレットのある左手側で受けるように踏み込む。


 魔法が消滅したせいで、威力の無くなったけり足がガントレットを叩くが、痛みなどまったくない。


 「痛っ、足折れたらどうしてくれるんですかっ!?」


 さらに受け止めた長谷部の右ひざを素早くガントレットで掴む。

 

 「ちょっと変態!なに気安く触ってるんですかっ!」


 ガントレット越しなので人肌の感触も何もないのだが

 自身の危機を悟ったのか、すぐに残った左足を大きく鞭のように振り下ろしてきた。

 はしたなくも両足を広げる形になったために見えてはいけない部分まで見えてしまっている。

 

 ふむ、白か。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない!

 彼女の前身は抜身の刀身のようなもの

 生身で受ければ大傷は免れない!

 俺は、そのスカートがめくれあがりそうなほど跳ね上がってきた左足から逃れるために、ガントレット越しに掴んだ右足を投げ捨てつつ、背後に跳んだ。


 軌道がそれた風の刃が、俺の真横を大きく切り裂いていくのを冷や汗をかきながら見送る。


 「残念、下着見たお代に命頂戴しようと思いましたのに」

 「とんだぼったくりだな」


 お互い軽口をたたいてみるが、

 さっきの攻防でも上空の魔法の収束は止まっていない。

 俺は上空の大規模魔法を止めるために再度の長谷部に向かい踏み込む。


 強化された俺の速度よりもなお早く長谷部の体は風に導かれるように右に左に、上に下に華麗なステップを刻み続ける。

 

 俺が彼女に向かい、収束したコード『対魔装甲』を振るってもすぐに新しい風の魔法で自身の移動能力を復活させるために、彼女の動きを止める手立てがないのだ。


 そうしている間にも上空の魔法と彼女の体を纏う魔力が高まっていくのがわかる。

 だが、強化された知覚で俺たちに迫る個体がすぐ近くまで来ているのも俺にはわかっていた。


 他力本願だが、まだ勝機はある。

 そのためには俺が、最後まで長谷部の注意を引き付ける必要があるな。







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