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ゼロディア第1の刺客 クラスメイト 長谷部 栞 前編

 長谷部 栞はもともと目立つ少女ではなかった。


 親の言うことはよく聞き、クラスでも目立たないどこにでもいる少女だった。


 けれど、今いるクラスに来て変わった。


 髪も染めて、遊ぶことも覚えた毎日は楽しかった。


 もちろんこの世界に召喚されてからも楽しい日々は変わらない。


 むしろ神からもらったチートのおかげでクラスメイト以外に敵なんていないのだから、パラダイスだ。


 この世界を生きるうちに彼女はなんでも自分の思い通りにした。


 当然全てが巧く行った。


 クラスメイト達以外相手なら、魔物だろうが、人間だろうが、貴族だろうが、気に入らないものは、自分のチートで黙らせればいいのだから。






 長谷部 栞サイド


 私に敵はいない。


 私達を召還した国から無能が逃げだしたみたいだけど、そんなことはどうでもいい


 私は日々を誰はばかることなく謳歌していた。


 そんな中、国があの逃げ出した無能を指名手配し始めた。


 「悪しき欠陥救世主を見事討伐したものには、莫大な賞金と名誉を約束しようっ!」


 さらに国が彼に賞金を懸けた。


 ようするに悪いやつを(たお)したものに、賞金が出るのだ。

 さらにさらに倒したら、神様からもう一つチートがもらえるという神託のおまけつきでっ!

これはもうやるっきゃないよね!


 私には、風魔法のチートがあるし?

 高速移動や瞬間移動の魔法も自由自在!


 銃弾も私の力で完全に反らせるし、近づけさせることもない。

 私の風の力でぺしゃんこにすればいいだけだ。


 なぜかみんな、しり込みしてるけど、

           ・・・・・・

 それならそうで、私がもらっちゃうもんね!


 「さてさて、欠陥救世主の無能さんはどこにいますかね?『ワールドサーチ』」


 世界に点在する人や物を探知できるこの魔法は、彼女が愛用する魔法の一つだ。


 それもそのはず、

 世界すべてをこの魔法は探知範囲にするために、大概のものは見つかる。


 なんでもこの魔法で見つけて今まで手に入れてきたのだから、気に入らないはずがない。


 そして、間もなくして見つかった。


 正直驚いた。

 まだ国内に潜伏しているとばかり思っていたのに、もう隣国、それも国境ぞいなんかではなく、完全に隣国の中に入国している。


 地図を確認する。


 あいにく他国であるために詳細な地図はない。


 だが、彼女の能力は風を操り、風で触れたものをすべて感じることができる。


 その力で周囲の地形を知ることくらいは造作もない。


 木々が幾つも存在することから森だと見当付けた。


 なぜか時々風の通りが悪くなるのはこの森か棲んでいる魔物に魔法を減衰する奴がいるのかもしれない。


 だが、その程度がなんだというのだ。


 今がチャンスだ。


 獲物がクラスメイトのだれにも見つかっていない今こそ、チャンスなのだ。


 風の探知魔法によると場所は森のやや奥深く。


 無論その居場所を他のクラスメイトに教えるつもりはない

 風のチート持ちは彼女だけだが、万が一他のクラスメイトに先を越されたらいやだからだ。


 「あはは!待っててくださいね無能君!今、私が(たお)してあげますからぁっ!」


 そして長谷部 栞の姿はその場から消えた。




 今、クラスメイトの一人、長谷部 栞は俺の目の前にいた。


 「まあ、自分がなんで殺されるかくらいは教えてあげましょうかね」

 長谷部は、俺を見下すように語り始めた。


 「召喚されたくせに、国から逃げてるし、無能のくせに私達と姫様に逆らったし、まあ理由はいろいろあるんですが一番の理由は」


 「無能くんを殺すと、私達にチートを与えてくれた神様が、新しいチートをくれるんですよぉ」

 チート?

 つまり力を与えてくれるということか?

 「雑魚殺すだけで、超強くなれるなんてお得でしょぉ?」

 雑魚というのは腹が立つがそれよりも

 神が俺を狙っている?


 そういえば、

 俺はこの国に来てから

 機械神と魔法神の二つの神が対立していることを知っている。


 俺は機械神から『インテグラル』をもらった。

 ならこいつはおそらく魔法神から力をもらったのだろう。


 とはいえ、

 神がなんで俺なんかを狙うんだ?


 魔法神とやらはそんなに機械神が憎いのだろうか?


 考えている俺に対して、


 「まあ、ということなんで死んでください」


 長谷部が無造作に腕を振った瞬間、俺はとっさに横に跳んだ


 ぎゅいん!という音ともに斬撃に似た風が吹く。


 「あ……っ……や……ば」

 近くにいたサリアが風の直撃を受けたらしく、視界の向こう側まで弾き飛ばされてしまった。

 小柄な体が風船のように遠くまで飛んでいき、転がっていく。

 倒れた大木や岩が積み重なる向こう側に彼女の体は飛んで行った。

 あの距離じゃしばらく戦線には復帰できないな。


 とはいえ一瞬見た限り怪我はなかったから、多分大丈夫だろう。

 離れたすぐ近くに地面に巨大な鎌が切り裂いた跡が残っていた。

 

 俺は、なんとか回避できた……いや

 見れば腕が深く切り裂かれている。

 

 痛いのはもちろんだが、余波だけで、インテグラル(がいかくそうこう)を切り裂き、俺の肉体まで届かせるとは、驚きだ。


 そしてそれを無傷で済ませるサリアはすごいな。


 ふむ。


 あの風の前ではただの鋼鉄程度じゃ紙のように切り裂かれてしまうようだな。

 防ぎきれるかわからないが、入手したばかりのコード、対魔装甲(マジックコーティング)を使ってみるか。


 「『対魔装甲(マジックコーティング)』」


 俺の発声とともに俺がまとっている白銀の外殻装甲が、うっすらと青い燐光を放ちだした。


 長谷部が再度腕を振るとかまいたちが発生し、

 「ぐっ……!」

 だが、俺の体は切り裂かれることもなく、その攻撃を軽い痛み程度で受け止められていた。


 「ん?なんか急に硬くなりましたね、めんど……」


 長谷部は、戦闘が長引くのと思ったのか、非情にけだるそうな声を出した。


 くそっ、俺を殺そうとしているくせになんていいぐさしやがる!


 「ヤマダさん!いま回復を……」


 俺を呼ぶシリアの手には杖が握られており、俺に向けられていた。

 白い光が、シリアの手の中にある杖に収束している。

 詠唱はすでに終えているらしい。

 あとは魔法名を唱えるだけなのだろう。

 だが

 「回復はうっとうしいんで、寝ててくださいね」


 「きゃっ……!?」

 ぱちん!とシリアに向けて長谷部が、指を鳴らすと、彼女は、杖を手放しどさりと地面に倒れてしまっていた。


 彼女はぴくりともうごかない。


 「殺しませんよぉ、私無駄な殺生は趣味じゃないんで、なんていうか博愛主義者なんですよねぇ」


 「博愛主義者なら、俺も見逃してくれよ」


 「無能は生き物じゃないんで、むりでぇーす♪」


 ふざけやがって。








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