四十話
クロヴィアまで、あと少し。国境付近までやってきた。
後ろを振り返ると、カップルで一緒にいる傾向が強いせいか、何となく皆との間に壁を感じてるニコが不機嫌そうな顔をしている。
国境ではクロヴィアから逃げてくる人が、かなり多いみたいだね。
身なりからすると裕福な人達なのかな。
一人を捕まえて聞いてみたんだけどもね。
「首都の状況は、いつ陥落しても不思議じゃない。今はもう、周囲を完全に包囲されてしまってるんだ。水も食料も豊富にあるから、補給がなくても数年は持つだろうが、精神的に耐えられるか……」
教えてくれた人に礼を言ってから、仲間を振り返る。
「魔族は首都を恐怖心でいっぱいにさせながら落とすつもりだよね。そうじゃなければ、この前の王都のように、人間に化けさせた配下をもぐりこませて一斉に蜂起すれば、混乱してすぐに陥落すると思うんだよ」
アリマも頷いた。
「姉貴の言うとおりだと思う。ただ、心配なのは双子の血筋が知られてる事だと思う。あそこにいた魔族は殲滅したが、一匹くらいは戦わずに魔王の元へ報告に行ったかもしれないぞ」
「母さん。最悪の場合、俺達の事は知られてると思って行動するとして、逆に勇者の血を引いた者が援軍に来るって噂を流すのはどうかな?」
「ダメよ! 王国軍が来た時なら、その手を使えると思うよ。数でも強さでも負けないと思う。だけど、その噂を流したら、魔王軍が大部隊を寄越すわよ。そしたら勇者の村の再現よ。全員が嬲殺しだわ」
アレスの言葉にアリスが反対する。
やはり、そう簡単に良い解決策は出ないよね。
私達一人で魔物を千匹倒せりゃ、戦略も戦術も必要ないんだけどなぁ。
「ところでさ、何で勇者は現れないんだろうな?」
ニコが気分転換のためか話題を変えた。
「ボクらに勇者としての資質が足りないとか?」
「ボクらって言わないでよ。私には魔族を倒して世界を平和にするっていう崇高な目的があるし、世界を救うんだって自覚も目標も決意も何もかもあるわよ」
アレスとアリスはキャンキャンと言い合ってる。仲が良いんだけど、こういうのは子供の頃から変わらないんだねぇ。
「しかし、自覚だの資質だのと言うなら、アルスは十分に勇者の資格があったんじゃないか?」
姉貴の話を聞いていて思うんだけど、とアリマは言った。
勿論、それは話を聞いてる他の連中に対して言っただけで、本当は私に同意を求めてるんだろう。
アルスに対する記憶はアリマにもある。
何しろ私と同一人物だったのだから。
「勇者の証ってのが出なかったけど、アルスは確かに勇者だったと思うよ。一つ言えば、勇者の証が出なければ動けないって考えてた所が違うと私は思うんだけどね。ただ、この世界の勇者は証さえ出れば、魔王すらも、あっさりと倒してしまうらしいから、アルスのような考え方は一般的なんでしょうね」
勇者依存の人々も、そうなんだろうね。
逆に勇者がそれほどまでに強いから、どれほど苦しい目に会おうとも人々は挫けずに耐えられるのかもしれないけれどね。




