百二十二話
私は巨人族に指示して大砲を設置してもらったんだ。それからフォボスの技術者に大砲の射撃準備をさせたのよ。そして、まだ罵りあいを続けてる亜人達の元へ行ったの。小学生のような口論を続けてた連中は、私が行くと口を閉じた。私が何を言うか待っているのだろう。
「あんた達、もう口論はやめなよ」
「ですが勇者に味方しないバカ共を説得しないと」
ブルドックに似た顔のコボルト族の若者が申し訳無さそうに言い、他の種族の若者達が頷くんだけどね。いやもう説得になってないからさ。ただの口喧嘩だから。そう言いたいのを、ぐっと我慢した。本当はバカな口論してんじゃないよって一喝してやりたかったんだけど、何か言ったら、この子らが凹んじゃいそうでね。
一緒についてきたアリスは余計な事は言わないで黙っていたんだけど、さっきの子供みたいな口論が可笑しかったのか、口元がムズムズしてるんだよ。
箸が転がっても可笑しい年頃だからね。笑いの沸点が低いのも仕方ないんだけどさ。ここで爆笑されても困るからね。
「いたッ!?」
思いきり足を踏んであげたんだ。小声で「いたいなー、なにすんのよー」と文句を言ってきたんだけど、私は知らん顔してアリスの抗議を聞き流した。そして亜人達に言ったのよ。
「勇者か魔王か、どちらに味方をするのか迷うのは仕方ないわよ。もしかしたら、どちらに味方しても種族が残るようにって考えて魔王に味方する人もいるかもしれないしさ。それを責めるのは酷ってもんよ」
そこへフォボスの技術者が、もう少しで射撃の準備が完了すると伝えてきたのよ。私は頷いて、いつでも撃てる状態で待機するように言ってから亜人達へ向き直ったんだ。
「もうすぐ、あの城壁を攻撃するわよ。そうなったら、あんた達の親戚でも友人でも、容赦なく殺す事になるわ。だから、死なせたくないなら城壁から離れるように伝えなさい。あんな口論じゃなくて真剣に説得しなさい。死なせたくないでしょ?」
「勿論です。でも攻撃するから離れろなんて、言っても良いのですか? 魔王軍に、攻撃するって教えたら対処されてしまうのではないですか?」
ブルドックが鋭い事を言ってくる。まぁ、それは私も考えたんだけどね。大砲は知らないから対処できないと思うんだよね。それよりも問答無用で攻撃して敵になった亜人達を倒してしまうと、例え承知の事とはいえ、こちら側の亜人達の心にもシコリを残すんじゃないかって思うんだ。所詮は亜人だから勇者は容赦なく攻撃するんだなってね。だけど対処される危険を冒してでも警告をするのであれば、亜人達も納得すると思うんだよ。
「大丈夫よ。問題ないわ! だから、あんた達! 仲間を死なせたくないなら必死に説得しなさい!」
「わ、分かりました! アルマ様に感謝を!」
ブルドックを先頭に亜人達は城壁の方へと走っていく。今度は言葉を選びつつ、必死に説得するでしょうね。
「説得できるかな?」
「さぁね。でも、それは問題じゃないのよ。大砲を撃ち込むことで味方の心に不信の念を作らないことが大事なのよ。あのコボルト族が言ったように危険を冒しても種族を救うチャンスを与えたなら、彼らも納得するでしょ?」
「長い間、敵同士だったが故の気配りかぁ」
「そうよ。大事な事なのよ。人間だけじゃなくて、多種族国家を作るならね」
「今、魔王を倒すことだけじゃなくて、もっと先を見据えてるのか。お母さんには敵わないなぁ」
アリスはそう言うと、ニヒヒと笑った。こういう笑い方をするのって私に似たのかな? アルスに似てたら、もう少し品のある笑い方をしそうだけどね。私がマジマジと見つめたものだから、アリスも不思議そうな顔をして「どうしたの?」と聞いてきたのよ。
何でもないよ、と答えた時、大砲の射撃準備が出来たと報告が来たのよ。
ついに魔王城の攻略戦が始まるんだ。




