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百二十一話

 魔王の住む山を登り始めたけども、その道のりは結構楽なものだった。大砲を私達が移動させるっていうなら大変な労力だったんだろうけど、それは巨人族がやってくれてるからね。登山道も元の世界の一般登山客がハイキング気分で登っていける程度のもんだったよ。


 これについては実に不思議な気分だったんだ。

 すくなくとも前の世界では、魔王は難攻不落とも言えるような城にいて攻めるのは大変だったんだよ。だから少数で忍び込んで倒すってな方法を取ったんだけどさ。

 こっちは、どうぞウエルカム!って感じなんだよね。

 

 アトラスさんが言うには、あまりに訪れにくいと部下達までも辿りつけなくなるって言うんだよ。

 支配者たる者が陸の孤島みたいなところへいるのはダメなんだってさ。

 そういや武田信玄は城らしい城を持ってなかったんだっけ?

 人は石垣、人は城とか何とか……

 


 「母さん!」



 おや、可愛い息子が来てくれたよ。

 


 「母さん、山を調べてみたけど、城へ入れそうな隠し通路みたいなものは無かったよ」

 「無かったの? 見つけられなかったんじゃなくて?」

 「あぁ、そうだね。厳密に言うなら見つけられなかったんだ。スレッジさんは、まだ部下と一緒にさがしてる。でも、あの人が見つけられないとすると無いって判断すべきだと思うんだ」



 そういうことね。魔王城を出て、私達と戦おうって部隊はいなかったのかな?



 「城から出撃してきた敵の部隊はいないよ。山のどこかに隠れてた敵部隊はランスローさん達、カレドニアを主力とする部隊が対応してるよ。俺達はニコの部隊と共に城を包囲していて、敵が出てくれば、いつでも戦える。母さんが来るのを待ってたんだ」

 


 そっかそっか、じゃあ城へ行こうかね。


 この山を遠くから見た時は、とても美しいと思ったんだ。ここまで来る道も整備されていて楽だった。

 でも目の前に見えてきたのは最初の印象とは程遠い無骨な景色。

 断崖絶壁のむき出しの岩肌、全体的に大きな一つの岩なのかと思えるような滑らかな岩盤だった。

 山が崩れたのか、人為的にやったのか判断は出来ないのだけどね。

 このむき出しになってる大きな岩盤部分は周辺が切り立った崖みたいになっていて、私達が歩いてきた山道が唯一のルートに見える。

 この岩盤に溶け込むように魔王の城はあったんだ。だけど目に見えてる城は入り口に過ぎず、本当の城は岩盤全体なんじゃないかなって思う。 

 城の前は広く平地が造ってあるんだけど、そこは二重三重の城壁があって、私達に味方しなかった獣人部族の者達が城壁の上を右往左往しているのが見えていた。


 城壁から矢や魔法が届かない位置に、ニコの軍が陣を敷いている。この辺は回りこまれたりするような地形ではないと思うけど、何しろ魔王の本山だから油断は禁物だと思うんだ。どこにどんな仕掛けがあるか分からないものね。でも息子曰く、周囲には絶え間なく偵察隊をだしてるし、ここまでの補給線を確保するために別働隊が巡視しているので大丈夫だとか何とか。

 お母さんは心配性なのかしらね?

 もう子供達に任せて引退した方が良いのかしらね?

 ううん、魔王の首を引き千切って、アルス達の墓に備えるまでは隠居はできないのよ。


 そんな事を考えながら城壁の近くまでやってくると娘がいたのよ。私に気がつくと笑顔で手を振って、こっちへ走ってきたわよ。私に抱きついて甘えてくるのが、とても可愛いんだ。アレスも甘えてくればいいのに、男だからとか、もう一人前だからとか、妙なプライドが邪魔してるらしい。

 娘の、アリスの頭を撫でていると、何やら先ほどから叫び声が聞こえてくるんだよ。何を言ってるのかいまひとつ聞き取れないのだけど、どうも魔王城の城壁にいる連中と何か怒鳴りあいをしてるらしい。


 「同じ種族の友人、親戚縁者が敵になって対峙してるらしいのよ。お母さんが来るまでは、こちらも守備を固めて攻撃しないって方針だったでしょ? お互いに暇だったもんだから近寄って敵になるなって説得してたらしいんだけどね。だんだんエキサイトして、罵りあいになったらしくて」


 アリスが、そんな風に教えてくれたので私も行ってみたんだけどさ。


 「今時、魔王なんぞに味方したって、俺達は奴隷のような扱いのままだ! だったら勇者の味方をして、俺達も人間と同じ権利をもらって生活すべきだ!」

 「今まで散々敵対してきた不倶戴天の敵同士なのに、そんな事が許されるわけないだろ! どうせ騙されてるんだよ! それが分からないお前はバカだ!」

 「バカだと言ったほうがバカなんだ!」

 「バーカ!バーカ!!バーカ!!!」

 「このドアホ!アホ!アホ!アホゥ!!」


 コボルト族もゴブリン族も巨人族も、ありとあらゆる種族が二つに分かれて、低レベルな口喧嘩をしてて、聞いてる私が頭が痛くなってきたよ。


 



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