百二十話
和気藹々と魔王領を進軍してると、前方に大きな山が見えてきたんだよ。とても綺麗で神々しい雰囲気が漂ってる感じ。あの山に屋敷でも建てて生活してみたいもんだね。
「あの山、綺麗だね! 私、魔王を倒して平和になったら、あの山に別荘がほしいな」
私の言葉にヴァルキリーズも巨人達も凍りつく。
「どうしたの?」
「余裕があるなんて、さすがだべ。オラなんか、あの山を見た瞬間から震えが止まらねえだよ」
あんな綺麗な山を見て震えてしまうとか、何か情緒とか大事な感情が壊れてんじゃないの? そう言ったらアトラスさんは言い返してきたわよ。
「無知は幸せだって、オラぁ、初めて心の底から思っただよ」
その可哀想な奴を見る目つきは、やめなさいってんだよ、もう。そんな私の腕をチョイチョイと遠慮がちに、誰かが触ったのよ。
それで振り返ったらブリちゃん、ブリュンヒルデがいたんだ。彼女は私が振り返ると、綺麗な山を指差して言ったんだ。
「アルマ様、あの山に魔王の城があるんです」
なんですって?
「普通は雷鳴轟く、巨大で不気味なテーブル状台地の上に城を築いてるんじゃないの?」
あとになって思えば、このセリフはバリバリに偏見に満ちたもんだって自分でも思うんだけど、この時は素で言っちゃったのよね。そしたらまぁ、皆して言うわ言うわ。
「確かに魔王様なら、雷の一発や二発で死ぬこたぁねえだども、死なないってのと喰らったら痛てぇってのは別もんだべ」
「そうです、それに配下の者達は、そんな雷を受けたら上位の魔族でさえ即死か、それに近い状態になりますよ」
アトラスさんとブリちゃんが火蓋を切ると、続いてロスヴァイセが言ったのよね。
「それに神でも魔でも、常に雷鳴轟く危険で薄暗くてうるさい場所に、居城を構えたいと思うでしょうか?」
「もしかして、アルマ様は支配者となった暁には、そのような場所に城を構えたいとか!?」
レギンレイヴが妙な事を言い出して、それを聞いた全員が息を呑む。そしてドン引きしたのか、一歩二歩と後ずさる。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!! いくつか訂正するから、よく聞きなさい!! まず第一に私は雷鳴轟く場所になんか住みたいなんて言ってないわよ!! さっき最初にあの山に住みたいなって言ったじゃん!! 第二に私は支配者になんてならないわよ!! 魔王の領地はニコのバカが領地にして、全種族が仲良く暮らせる土地にするって言ったでしょ!?」
なんで私がこんな場所で一生懸命に弁解しなきゃいけないんだろ?
「だったら何で魔王様が、そったら城に住むなんて言うだか?」
「あ~、私の故郷じゃ魔王ってのは、そういうもんだって教えられてきたのよ。悪い奴の代名詞だし、そういう邪悪な奴ってのは、分かり易いように型にはめられて子供達に教えられるのよ」
アトラスさんは、なるほどーと頷くと晴れやかな笑顔で言ったわよ。
「安心しただよ、アルマ様。おらぁアルマ様は、どこか情緒的なもんが欠けてるのか、壊れてるのかと心配してしまっただよ。」
ぐはぁッ!?
私は心にクリティカルな一撃を受けた!
さっき言ったことを、そっくり言い返されたよ。大男総身に知恵が回り兼ねって言葉があるけど、あれってウソじゃないの? やり返されたよ。ショックを受けた私の顔を見て、アトラスさんがニコッと笑ってるんだけど、勝ち誇ってるようには見えない。
ホントに心底心配してのセリフなのかな。
そもそも、知恵が回り兼ねなんて言ってる時点で、私はこの巨人達を侮ってたのかもしんないなぁ。
よし、油断ダメ、慢心ダメ、常に相手を正しく評価して侮る事無かれ!
心を引き締めた私は、さきほどの無礼を詫びてアトラスさんに頭を下げると、アトラスさんは何も詫びられるような事は言われてないと笑ってくれたんだけどさ。
「おらたちは図体ばっかでかくて知恵がねえだども、かと言って小男の総身の知恵もしれたもの、なんて言葉もあるだでな。完璧な奴なんておらんでよ。勇者様たちの造る国では、そんな足りねえもん同士で支えあっていけたらと、おらは思うだで」
はい、まったくその通りで。
「アルマ様は、なんかっちゅーと思ってる事が口に出てるから分かりやすくてエエだなぁ」
え!?
私、考えてる事を全部喋ってる!?
蒼白になってる私が哀れだと思ったのか、ロスヴァイセが全部じゃないですからとフォローしてくれた。