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異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~  作者: こじまき


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72 お父様ランキング

「あらアウレリアちゃん、今日はお父さんと来たのね」

「ええ。お母様は昨日熱を出されたのです。今朝は下がったのですけれど、無理をしてはいけないとお父様が」

「うんうん、そうだねぇ」


「初めまして、サティと申します」とバルツァー侯爵を見た瞬間、私は息を止めた。


なんだこの生き物は。本当にヒトのオス?


風もないのになびく水色の髪に、そこはかとなく憂いを帯びた夜空のような青い瞳。


アロイスさんとテオくんで異世界イケメンには慣れているはずの私なのに、危うく意識を持っていかれそうだ。まだこんな逸材がいたとは、異世界恐るべし。


「はっ…ど、どうぞこちらへ」

「ありがとうございます」


貴婦人たちも「やっぱりバルツァー侯爵って素敵よね…」とぽーっとしている。視線を浴びたバルツァー侯爵が気まずそうに「んん」と咳払いした。仕草ひとつひとつから、いちいち花弁が飛び散る。


「いつも妻と娘がお世話になっております。この集まりに参加してからアウレリアはお友達が増えたようで、感謝しております。もっと早くご挨拶したかったのですが、外国への出張が多くてなかなか帰国できず、遅くなり申し訳ございません」

「いえいえ!アウレリアちゃんは子どもたちが盛り上がり過ぎて危ないときに、いつも率先して注意してくれるんです。まるでみんなのお姉さんか、小さな先生のようですよ」


「そうですか。あまりアウレリアの成長に立ち会えないので、そういうお話を聞くと本当に嬉しいです」と微笑んだバルツァー侯爵は、子煩悩なお父さんに見えた。しかも「バルツァー侯爵にしかできない仕事がある」と、アロイスさんの信頼も厚い外交官なのだとか。


ビジュアル最高で娘ラブで、仕事もできる。私もこんなお父さんが欲しかったな。


女子ズも同じことを考えたらしい。


「私のお父様もバルツァー侯爵みたいにかっこよくて有能ならいいのに。お父様は背が低くて、最近は髪の毛も薄くなってきているのですもの。時々鼻毛も出ていますし」とため息をついたのは、エステルちゃん。よく見てるし容赦ない。ザイデルベルグ伯爵、ドンマイ。


「それなら聞いてくださいな。私のお父様ったら加齢臭がしますの。バルツァー侯爵みたいに若いお父様がよかったですわ」とのたまうのはロゼマリアちゃん。「レイデンバーンの薔薇と謳われるお母様が、なぜあんなに年上のお父様と結婚したのですか。お父様のどこが良かったのですか」と詰められた公爵夫人は、「ただの政略結婚」とは言えずに言葉を濁す。シルヴァーナ公爵もドンマイ。


二人の不満を聞いたアウレリアちゃんは、得意満面でクリスタちゃんを振り返った。


「クリスタ様はご自身のお父様についてどうお考えですか?」

「顔は怖いし髪の毛は少ないしおじいちゃんみたいだけど、一番のお父様だと思うな」


アウレリアちゃん、ロゼマリアちゃん、エステルちゃんは顔を見合わせた。


ベルント伯爵は、彼女たちが考える「理想のお父様」には程遠い。顔に傷のある強面で美男子ではないし、髪は薄いし、武骨で「そこはかとなく憂いを帯びた儚い瞳」なんてしようもないし、彼女たちのおじいちゃんよりもさらに年上。領地はそれなりに豊かだけど領民への還元優先だから、貴族の中では特別裕福でもない。


そんなベルント伯爵が一番のお父様だなんて、彼女たちには理解しにくいのだろう。


「どうしてですの?」

「だって今までのお父様のなかで、一番優しいから!」


クリスタちゃんの実父は、生まれてすぐのクリスタちゃんを教会の前に捨てた。父親代わりになった教会の神父も、魔力が強くなってきたクリスタちゃんを扱いきれずにカウベルフェルトに捨てた。


「だけど今のお父様は一緒に遊んでくれて肩車してくれるし馬にもなってくれるし、今度の誕生日には本物の子馬も買ってくれるの。お医者さんになるための学校に通わせてくれる約束もしたし、クリスタを馬鹿にする人がいたらお父様がやり返してくれるって。レオの生誕祭でクリスタの悪口を言った人にも、ちゃんと仕返ししたって言ってた。だからクリスタのお父様が一番いい!」


ベルント伯爵がこの場にいたら、賛辞の連打に号泣しているだろう。最後のほうが物騒だったのが気になるけど。「仕返しって、誰に何を?」とベルント伯爵夫人をつついたら、優雅に微笑まれた。


「大丈夫よ、あの人は子どもには手を出さないわ」

「それならまあ…」


いいんだろうか。


と、「お父様だって…っ!」とアウレリアちゃんが立ち上がった。


「お父様、私が意地悪されたらやり返してくださいますわよね!?相手が誰でも!」


どう見ても武闘派ではなさそうなバルツァー侯爵は、一瞬迷った末に「もちろん」と答える。


ロゼマリアちゃんとエステルちゃんも手を挙げた。


「わ、私のお父様だって!来年の誕生日には、シルヴァーナ公爵領で一番きれいなお城をくださるとおっしゃってましたわ!」

「うちのお父様は貧乏ですからプレゼントは質素ですし腕っぷしも強くありませんが、サティベア事業を心から応援してくださいますの!貴族でも女性でも、商売することにはなんの問題もないって!」


あっという間に、「お父様をディスる会」から「お父様マウントを取り合う会」に変貌してしまった。あれもこれもと何だかヒートアップしてるけど、こっちのほうがずっといい。自分のお父さんが一番だと思えるって、幸せだから。


くすっと笑った私の手を、クリスタちゃんがきゅっと握った。


「どうしたの?」

「お姉ちゃんの中ではねぇ、サティが一番だよ」


たまらぬ。私はクリスタちゃんを膝の上に乗せて、ぎゅっと抱きしめた。最近おませになってあんまりぎゅっとさせてくれなくなったけど、今はいいよね。


「クリスタちゃんも一番だよ」

「えへ」

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